DATA=1 NAS#4

 目が覚めた時、少年──レルムの側ではドクターが横に座っていた。恐らくは、少年の目が覚めるのを待っていたのだろう。額に浮かんだ汗を病衣の肩で拭って少年はドクターに視線だけを向けた。

「おはよう。少々危険な事だとは思っているが今回は私が側で見守らせてもらった」

「…………」

 変わらずの抑揚の無い声音に少年は僅かに安堵する。けれど、先刻の“探索”の影響が残っているのか少年は黙ったままだった。

「キミの見た物。あれはキミの記憶に纏わる物かもしれない。真四角の箱……アレが開く瞬間、キミの精神負荷値が跳ね上がった」

 記憶。少年は記憶を失っていた。厳密には抜け落ちている部分がある。しかしどこがどう抜け落ちているとかは少年自身にも分かっていない。更に言えば記憶の時系列も酷く曖昧で自らの出生や名前も“施設”に来る以前の記憶は殆ど他人の記憶にしか思えなかった。

「ドクター……僕の記憶は僕の中にまだあるんでしょうか……?」

 落ち着きを取り戻しつつある少年がドクターに問いかける。少し間を置いてドクターは答えた。

「恐らく存在するだろう。以前にも言ったがキミの夢は凡ゆる存在と繋がっている。それはつまりキミ自身にも繋がっているという事だ。キミには人類再興の期待が掛かっているが、同時にこの“探索”を続けていけば本来のキミを取り戻す事も出来るだろう」

「それなら、まだ僕は続けてみます……」

「無理はしないほうがいい。観測装置のアップグレードも完了した。次からは“探索”においても我々が支援する事が出来る様になる。今は充分に休息しておきなさい」

「そうします……」

 それだけ答えると少年は倒れ込む様に眠りについてしまった。ドクターは少年の布団を掛け直し病室を出る。

「ドクター」

 病室のすぐ外で声を掛けられ、ドクターは声からその相手が蓮水であると把握した。

「どうした?」

「先程探索の測定中。負荷値がマイナスにまで落ち込んだ瞬間が出ました」

 それを聞いてドクターは黙る。

「恐らくは境界の希薄化が進んでいます。このままでは彼は」

「言わなくても分かる。次からの支援の準備を進めておけ。今回の一連の出来事はDATA ONEとして記録を残す」

「──分かりました」

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