どうやら俺は姉さんとの旅を楽しめたらしい。

 着付け屋を出て、再び浅草を散策する。

 今は12時、着付け屋の人からは5時には戻るように言われたので最大で5時間ほど回ることが出来る。

 そして、先ほどからなぜか琴音姉さんの様子がおかしい。

 恥ずかしがっているのかは分からないが、顔を俯かせ以前の心々音のような様子に似ている。

 

 「おい、どうした」

 「い、いやなんでもない」

 「てか、案内してくれるんだろ?」

 「う、うん……お腹空いてる?」

 「まあ、多少は」

 「じゃあ何か食べよっか」


 いつもの様子とは違うが行動は琴音姉さんのままだ。

 俺は手を引かれ、姉さんのオススメの食べ物屋に連れていかれた。


 ~~~


 まず最初に連れていかれたのはちょうちんもなかというアイスをもなかの生地で挟んだものが売っている店。

 8種類のアイスがあり、黒ゴマ、紅いも、抹茶、バニラ、きなこ、あずき、メープルナッツ、チョコチップというラインナップ。

 俺はきなこを選び、姉さんは抹茶を選んだ。

 金はまだまだあるので、とりあえず奢る事にした。


 「よっしゃ、ただで食える~♪」


 姉さんも本調子に戻ったのか機嫌が良い。

 そんな姉さんを横目で見ながら、俺はもなかにかぶりついた。


 えっと……めちゃくちゃ美味いです。

 もなかの生地がパリパリサクサクで感触が良く、薄っすらと感じるもなかの味ときなこの味が相まって美味しい。

 感覚的にはきなこ棒のパリパリバージョンを食べている感じ。


 「なあ、それ一口くれよ」

 

 もう半分しかないもなかアイスを姉さんはねだって来た。


 「やだよ、自分のあるだろ」

 「じゃあこっち上げるから、そっち頂戴よ」

 「えー、めんどい」

 「良いだろ?なあなあ」

 

 着物姿でねだってくる姉さんの事を俺は不覚にも可愛いと思ってしまった。

 普段はキツい対応を取って、言動も男っぽい。

 そんな姉さんが男っぽい印象が無く、完全に女の子らしくなっている。

 いくら従姉だとしても、昔と印象が変わりすぎて流石に意識してしまう。

 


 「くっ……分かったから離れろ」

 「やったー」


 お互いに食べていた物を交換し、渡されたものを俺は食べた。

 確か抹茶味だったな。

 これも抹茶の苦さともなかの少し甘い味が混ざって普通に美味い。

 東京に来てから美味い物しか食ってない。

 このまま東京に居続けたら太りそうだな。


 次に来たのは『浅草八重』というお店。

 このお店では少し小さいアイスキャンディーやあげまんじゅうと言った物が売られており、さっきは甘いものを食べたので今度は脂っこいものを食べようとなった。

 俺がカレー味のあげまんじゅう、姉さんがもんじゃ味のあげまんじゅうを買った。

 今回も俺の奢り。

 

 聞いたところによると、姉さんの手持ちは着付け代しかないとの事。

 帰りの電車はsuicaで何とかなるが、現金払いは不可とのこと。

 姉さんの事だし、もしかしたら狙ってたのかもしれない。


 「うんま、なにこれ」


 そしてあげまんじゅうのお味だが、先ほど甘いものを食べたせいかカレーの味が濃く感じこちらも先ほどのちょうちんもなか同様めちゃくちゃ美味い。

 あげまんじゅうの生地がまず先ほどのもなかよりも甘味を感じ、それがピリ辛カレーと相まって噛めば噛むほど口の中で混ざり合い、とても美味しい。

 因みにこちらの商品も姉さんから交換を要求されたので俺は渋々交換しました。

 

 もんじゃ味のあげまんじゅうは、まず生地に青のりと紅ショウガが混ぜられていてもんじゃ感が増している。

 そしてまんじゅうの中に入れられているもんじゃの具材が影響して、本当にもんじゃを食べているように感じられる。


 「どう、美味い?」

 「うん、美味い。めっちゃ美味い」

 「えへへ、良かったー!」


 どんどんと食べ物屋に連れていかれ大学芋やスイートポテト、メンチカツに肉まんなどと言った重い食べ物から軽い食べ物まで食べ歩いた。

 その後はお土産屋さんに行って父と母のお土産を買った。


 時刻は4時を回り、もう少しで5時になりそうになっていた。

 急いで着付け屋に戻り、着物を脱いで外に出た。

 着物を脱ぐとき、先ほどの店員さんに着付けを解いてもらったのだが「どうでした、良い旅になりましたか?」などと若干煽られた。

 まあ、言われてみれば確かに良い旅だったので「はい、凄く楽しめました」と返答して置いた。

 

 着付け屋を出て、その後はどうしようと思いながら姉さんを待つ。

 この後は普通に心々音たちと合流するか、六本木なら行き方ぐらいなら多分わかる。

 てか、姉さんに聞きたいこともあるしもう少し一緒に居るか。


 「お待たせ~」


 着付け屋から姉さんが出て来たので、一緒に歩き始める。


 「そういえば姉さん、いつ北海道に来るの?」

 「ん?あーそれね、パパが言ってたのは夏休み明け。でも、機会があったらおじさんの家に居候させてもらっても良いって言ってた」

 「え、それって……」

 「そう、涼真の帰りに合わせることだって出来るって事」

 

 うげぇ、余計なことしないでくださいよおじさん。

 そして俺の父、恨むぞ。

 こんなやつを居候させても良いって言った事、一生恨むぞ。


 「てか、転入試験と受けたのかよ」

 「うん、余裕で合格だった」

 「マジかよ、結構難しかっただろ」

 「んー、ちょっと難しい問題はあったけど全然行けたよ?」

 「……すげ」

 「へへっ、やっと私の凄さに気が付いたか」

 「あんたは元から凄いよ」

 「……へっ?」


 隣をチラッと見てみるとなぜか姉さんの顔が赤くなっていた。

 俺はそのままの事を言っただけなんだが、何か気に障っただろうか。

 姉さんは昔から行動力が凄くて、思い立ったらすぐ行動する人だった。

 北海道に来て父から山には蛇が居るって教えてもらったら山に直行してたし、少女向けアニメのグッズが出たら朝一番におもちゃ屋に行って買っていた。

 

 男っぽい部分もあるが、中身はしっかりと女の子。

 だから俺は姉さんの事を嫌いになっても憎むことは出来ない。

 それこそ、俺は嫌いだと思っていてもそれは建前で本当は姉さんの事が人として大好きなのかもしれない。

 

 「な、なんだよ急に……」

 「姉さんは昔から凄い、俺はなんだかんだで姉さんの事を尊敬してる」

 「そ、尊敬……?」

 「ああ、姉さんは昔から行動力が凄くてそれでいてしっかりと人の事を考えている。俺に対しては厳しい部分もあったが、他の人に対してはちゃんと接している。だから俺はそんな姉さんを尊敬している、俺に対してもっと優しかったらもっと尊敬できるけどな?」


 久々にまともな意見を述べた気がする。

 まあ言った事は真実だし、俺はちゃんと尊敬している。

 姉さんの方をちらっと見てみたがなぜか顔を赤くして視線もちぐはぐしている。

 どうしたのだろうか、体調でも悪いのだろうか。

 

 「おい、大丈夫か?」

 「うっ、ちょっとごめん。なんか照れちゃって……」

 「照れる?めずらしいな」


 姉さんの事を気にしながら歩き、浅草駅まで来た。

 一度休むことも考えたが姉さんが「大丈夫だ、私は帰る」と言い先に行ってしまった。

 そろそろ心々音たちの予定も終わっただろうと思っていると「おーい!」と声が聞こえた。

 振り返ってみると心々音とみるくがいた。

 こいつら、なんで俺の位置を特定できるんだ?

 

 「涼真くん、ここに居ましたか」

 「えっ、なんでお前ら俺の場所が分かるんだよ」

 「いや、たまたまです。二人で雷門を見に行こうってなって駅に来たら見覚えのある人がいるなと思いまして」

 「もう、りょーくん酷い!なんで置いていくの?」

 「なんでって、俺は一人旅を……」


 寂しかったのか分からないがみるくが俺の腕に抱き着いて来た。

 時刻を確認しようと思いスマホを取り出した瞬間に抱き着かれたのでその衝撃でスマホが下に落ちた。


 「ああっ、ごめん!」

 「いや大丈夫だ」


 俺がスマホを拾おうとしたが、一足先にみるくがスマホを拾った。

 俺はこの時スマホにパスワードをかけておけばよかったと後悔した。

 スマホを簡単に開けるという理由だけでパスワードをかけていなかったが、みるくの指が画面を開くボタンに押ささり、ロックが外れた。

 そしてさっきスマホの画面を閉じた時、時間が無いと慌てていたためカメラを起動したままになっていた。

 起動されていたカメラの左下には琴音姉さんと撮った着物姿のツーショットがあった。


 「……りょーくん誰これ」

 「誰って……お前何開いてるんだよ」

 「間違えて開いちゃった。それで、誰これ」

 「どうしたんですか……って涼真くん、私たちに隠れて浮気ですか」

 「どうしてそうなる!?」


 これは、面倒な事になりそうだ。

 従姉と言えば納得してくれるだろうか。

 まあ良い、これから説明しよう。

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