どうやら俺は従姉と再会したらしい。
会議が終わり、やる事が無くなってしまった。
明日の夜の便で北野に帰るためやりたいことはやっておいた方が良い。
と言ってもやりたいことは無いし、特に観光名所も知らない。
唯一知っている雷門にでも行こうか、そんな事を思いながら俺はstaralive本社を後にした。
うーん、路線が多すぎて何が何だか分からない。
路線図を見ながら俺は困っていた。
雷門にでも行ってみようかと思っていたのだが、如何せんどの路線に乗れば良いのか分からない。
会社を出る際、二宮代表と会ったのだが「みるくさんはともかく、夏南さんは少し時間がかかると思う」と言われているためみるくと合流することは可能だと思うが、今日は心々音を頼れない。
頭を抱え、悩んでいると誰かに肩を叩かれた。
「よう涼真、久しぶりだな」
「誰ですか……って
振り返った先に居たのは従姉の琴音姉さんだった。
琴音姉さんこと荒川琴音は父の兄の子供、つまり従姉にあたるわけだ。
俺の一つ上で歳は16、都内の高校に通っている。
長期休暇の時に父の兄が実家の北海道に遊びに来る時に、琴音姉さんもよく遊びに来ていた。
「いや~、お前に会えてよかったわ」
「良かった……?」
久々に会い、最後に会ったのは確か俺が中学二年の時。
その時もこんな風に強い口調だったが、服装などにはこだわっていなかった。
なのに、今の姉さんは凄いお洒落だ。
ロゴも何も印刷されていない青一色の上着と黒のジャケットを合わせたものが心々音がよく着ているボーイッシュファッションと似ていてとてもカッコ良い。
髪の毛も、以前あった時は長いロングへアだったのに今はバッサリと切っていてボブになっている。
顔のパーツも多少いじったのか一重だった目が二重になっていた。
「実はさ、私転校するんだよね」
「は?どこに」
「お前の通ってる高校だよ」
「おい、ちょっとまて。なんでそうなった?」
「え?何かパパが転勤だがなんだかで北海道に行かなくちゃならなくなって、せっかく北海道に行くなら正弘おじさんの家に住まわせてもらえばって」
「俺は聞いてないんだが」
「そんなんお前に聞かせたら『絶対やだ!』って反対するだろ」
「当たり前だ!」
俺はあまり姉さんの事が好きではない。
その、何て言うかやり方が横暴なんだよなこの人。
俺がやってたゲーム奪ったりとか、キャッチボールしてたら顔面目掛けて投げて来るとかとにかく破天荒。
しかも女だからどんなに姉さんが悪い事をしても最終的には泣き真似されて俺が負ける。
そんなんだから俺はあまり好きじゃない。
まあでも、助けられたこともあるから恨むことは出来なんだけどな。
その助けられた話は長くなるから語る気は無い。
「そんな事言うなよ、お前だって私の事好きだろ?」
「好きなわけないだろ、何言ってんだよ姉さんは」
「まだ姉さんって呼んでくれるのか……うぅ、私は嬉しいよぉ……!」
「キモい泣き真似すんな、アホか」
「つれないなぁ。それで、何やってんの?」
「あ?雷門の行き方が分かんねんだよ、俺東京初めてだから」
「そうだっけ?」
「いつも姉さんが遊びに来るから、俺は来たことなかったんだよ」
あ、流れを与えてしまった。
俺は分かるぞ、この後の展開が。
「じゃあ、私が案内してやるよ」
終わった、絶対金使わされる。
とにかく姉さんと一緒に行動するととにかく金が飛ぶ。
否定しなければ。
「大丈夫だ、俺にはスマホがある」
「そんなこと言うなよ、ほんと昔からつれないよなぁ」
「俺は一人で回りたいんだ」
「なあ、良いだろ?私とお前の仲じゃんか」
「やだよ、それに俺は他の……何でもない」
マズい、これは絶対に揚げ足取られる。
くっそ、何で俺はいつも口を滑らす。
もっと危機感を持たなければ。
「あれ、もしかして女出来た?」
「ちっ、揚げ足取んな。あと女は出来てないし今はまだいらん」
「もう、涼真は外見はいじれば全然光ると思うし性格も良いんだから作れるでしょ?」
もういっその事吹っ切れて心々音の事を相談すべきか。
いやだがそれはそれでいじられる気がする、くっそ。
「まあいいや、取りあえず雷門行くんだろ?一緒に行こうぜ」
「だから……もう分かった。案内してくれ」
「よっしゃ、案内料としてなんか奢れよ?」
「分かった分かった」
屈辱だが姉さんに案内してもらい俺は雷門のある浅草寺に来た。
電車を乗り継ぎはやはり慣れない。
移動するにも人が多く時間が掛かるし、何より人に酔って気持ち悪くなる。
まあ姉さんは「お前、人に酔ってんのか?おもろw」とか腹抱えて笑ってたけどな。
ムカつくわ。
浅草駅から10分ほど歩き、雷門に着いた。
歩いていて思ったが外国人が多いし、人力車が多く走っていた。
浴衣の人も多く見られて活気のある街だと思ってしまう。
だからと言って住みたいとは思わない、そもそも電車であんなに苦労しているのだから俺は東京という都市に適応できないと思う。
「よっしゃ着いた」
「すげぇ、でけぇな」
雷門の下をくぐり、俺たちは歩いていく。
浅草観音表参道と書かれた看板を横目に俺と姉さんで歩いているが、観光地なだけあって人が多い。
もうどこに行っても人ばかり、東京は恐ろしい。
しかし外に出ている商品を見ているが、多種多様な商品が置いてある。
箸置きや布を使ったカバン、着物の帯など様々な物があり見ているだけでも面白い。
端の方の道では人力車が走っており着物を着た外国人が楽しそうに乗っている。
「いやぁ~、久々に来たけど人多いねぇ」
「そうなのか、やっぱ東京はすげえな」
「なあ涼真、この後予定はあるのか?」
「別に無いけど」
「じゃあ着物着ようぜ!」
「なんでだよ、俺はやだ」
「せっかく東京来たんだし思い出作りだよ、思い出!」
「うるせぇ、騒ぐな」
「じゃあ着よ?」
「……分かった分かった。お前は駄々こねたら終わりだからな」
「よっしゃ、じゃあ電話するわ」
姉さんが電話し始めた。
どこに電話しているのかと思えば会話の内容からして着付け屋っぽい。
電話が終わったと思ったら今度は姉さんに手を引かれ、俺は着付け屋に連れていかれた。
着付けやに着き、中に入る。
着物を着た店員さんが受付に居て、姉さんが会話している。
やがて説明が終わったのか今度は着物を着ていない店員さんに案内され、個室に入った。
店員さんの指示に従い、灰色の着物を着ていく。
「一緒に居らっしゃたのは彼女さんですか?」
不意にそんな質問をされ、俺は反応に困った。
少し考え、普通に従姉だと説明すれば良い事に気づいた。
「いや、従姉です。まあ、少し面倒臭い従姉なんですけど優しい所もあって好きなんですよね」
「それって、恋愛感情の好きですか?」
「いや、人間としてですね。恋愛的には……それこそ、小さい頃ならあったかもしれませんが今は無いですね」
「そうなんですか。従姉さん、凄く可愛らしいと思いますが」
「まあ確かに、前会った時と比べたら凄い変わったと思いますね。長かった髪もバッサリと切ってたし顔もだいぶ自分でいじったりしたんだと思います」
「ふふっ、それって恋の相手がいたりするんじゃないですか?」
「えっ……」
「女の子って好きな人がいたら、その人の恋愛対象に入るために必死に努力するものなんですよ?」
「そういう者なんですかね……」
店員さんと話している内に着付けの方はだいぶ進んでいたようで、後は帯を巻くだけで終わろうとしていた。
店員さんに帯を巻いてもらい、俺は個室から出た。
「従姉さんと良い旅になるといいですね」
店員さんは笑顔でそう言うとバックヤードに行ってしまった。
良い旅か、昨日は普通に良い旅だったし今日の会議はとてもためになって良かった。
そんな風に東京旅行の余韻に浸っていると、俺が入っていた個室の二つ隣の部屋から琴音姉さんが出てきた。
赤を基調とした着物。
肩付近には花びらの模様が入っていてとても綺麗だ。
「ど、どうかな……似合ってるかな……?」
俺は嘘偽りなく思った通りの感想を姉さんに述べた。
「凄く似合ってると思う」
俺は笑顔で姉さんにそう言った。
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