どうやら俺は混浴することを求められたらしい。

 みるくがくるまった布団をベッドから豪快に引き剥がしてみた。

 すると中から顔を真っ赤にさせ、体をコンパクトに畳んだみるくが出てきた。

 

 「お前……なにやってんだ……?」

 「はわわわ、りょーくんと心々音ちゃんがあんな関係だったとは……」

 「おーい、聞いてますかー?」

 「はわわわ、こんなのりょーくんにバレたらって……うわっ!りょーくん!?」


 何で布団剥がして、俺が問いかけてるのにコイツは気づいてないんだよ。

 どんだけ俺と心々音の関係に驚いてるんだか。


 「りょーくん、いつからそこに……?」

 「お前が【はわわわ、りょーくんと心々音ちゃんがあんな関係だったとは……】とか深刻そうな顔しながら言ってた時から」

 「そ、そんな時から!?うぅ……恥ずかしい……」

 「てか、俺も恥ずかしいんだが……」

 「なんで?」

 「だって、みるくにメロメロとか言っちゃったし……」

 「そんな事言ってたの!?」


 いや、なぜ驚く。

 てっきり全貌を聞いていたのかと思っていたがみるくは話の一部分しか聞いていないのか?

 となるとどこまで聞いていたんだ、ゲームの部分を聞いているなら心々音に頭を撫でられたり一緒に寝たりしている場面は誤解されないはずだが、その部分を聞いていなかったら誤解されてもおかしくはない。


 「えっと、みるくの中では俺と心々音はどんな関係なんだ?」

 「え、付き合ってるんじゃないの?」

 「ああ……なるほど」

 

 やはりゲームの部分は聞いてなかったのか。

 俺はみるくの誤解を解くためにさっきあった事を話した。

 

 「な、なんだ……そうだったんだ……」

 「ああ、だから付き合ってないから」

 「で、でもさ……」


 みるくは俺の手を掴むと上目遣いでこう言う。


 「メロメロって言うのはほんと……?」


 俺は何かに射抜かれた。

 狙ってるいるのかと思わせてくる行動。

 上目遣いと言うだけでも点数が高いのに、俺の見る角度では口がアヒル口の様に見えてしまい可愛さがより増している。

 それに加えてこの小さい手、少しでも力を入れたら折れてしまいそうだ。

 この手がまた暖かく、そして俺の手のひらよりも一回りも小さいため容易に握れてしまう。

 俺が握ると、みるくも笑顔になりながら握り返してくれる。

 これがなんとも愛おしい事か。


 「うっ、それは……これからメロメロになっちゃうかも……」

 「ふーん、そっか」


 みるくは急に手を離し、ジト目でこちらを見てくる。


 「どうした……?」

 「そういえば、さっき心々音ちゃんにキスされたって言ってたよね?」

  

 みるくは胡坐をかいている俺の足の上に乗ると、ちょこんとそこに座り俺の肩を掴んだ。


 「おい……どうした……」

 「私の事好きだよね?」

 「まあ、人ととして好きだ。恋愛的には……少し好意がある程度だが」

 「心々音ちゃんに取られちゃった、りょーくんの唇」

 「と、取られた?どういう事――」


 みるくが急に顔を近づけたと思ったら初めてキスをされた時と全く同じ感触が唇に走った。

 俺はいきなりの事で目を見開く。

 一日に二回もキスをされるなんて、こんな経験をした人はきっと大人なビデオに出ている人かモテモテの美男美女しかないだろう。

 

 目の前の少女は必死に俺の唇を奪う。

 時々目を開け、俺の方を見てくるが恥ずかしいのか目をそらしたりまた目を閉じてしまう。

 それでも少女は俺の唇を解放しない。

 必死に何度も何度も、他の女に奪われた唇を自分の色で塗り替えしている。

 

 「ぷはぁ……もう、ダメだから」

 「な、なにが……」 

 「私だって、女の子なんだよ?その……好きな人にそんな話されたら私だってどうにかなっちゃう」

 「好きな人って、もしか――」

 「だから……簡単に奪われるようなことは、許さないんだから……」

 

 俺が質問する前に少女は言葉を挟む。

 段々と霞んでいく声。

 しかし俺は、最後の一声までしっかりと聞き取った。

 悲しいような声で、微かに震えている。

 しかし、なぜか少女は微笑みながら嬉しそうにしている。

 羞恥から来ている笑みなのか愛想笑いなのか、俺には見分ける事が出来なかった。


 ~~~


 夕飯の時間になり、心々音も部屋に戻って来た。

 「どこ行ってたんだ?」と聞くと心々音はニヤニヤしながら「内緒」と言っていた。

 夜になにか仕掛ける気なのか、俺は少し憂鬱になりながら心々音とみるくと一緒に部屋を出た。


 エレベーターで一回に降り、併設された小さなレストランに来た。

 心々音が食事券を店員に渡し、好きな席で良いとの事だったので端の方の席に座った。

 みるくは席に着くなりひょこひょこ走って食事を取りに行ってしまった。

 心々音もお腹が空いていたのか「これ、置いていきますね」と言い「食事中」と書かれたカードを置き、食事を取りに行った。

 俺も二人を追うかのようにバイキングコーナーに向かった。


 「うおぉ~」


 用意された食事はとても豪華だった。

 シソのような葉で巻かれたサーモンの刺身や鳥を丸々一匹使った豪華なチキンステーキなどが置かれており、とても惹かれた。

 用意されていた取り皿と割り箸を取り、俺は好きな料理を取り皿に盛っていく。

 料理を取り終えたので、俺は席に戻った。


 席に戻ると二人はもうすでに料理を取り終えており、各自持ってきた料理を食べていた。

 二人が座っている方とは逆の席に座り、持ってきた料理を食べ始める。

 

 美味いな、これ。

 最初に食べたのは先ほど説明したサーモンの刺身。

 ワサビ醤油と合わせると格別に美味い。

 しかも塩をかけるとまた味が変わる。

 ワサビ特有の辛味とサーモンの微かに感じる甘さがマッチして美味い。

 今度は塩をかけ、ワサビ醤油をかけずそのまま食べてみると、シソの葉で巻かれていたせいかワサビでかき消されていたしその風味があり、そして塩のしょっぱさとサーモンの甘さが微妙な駆け引きをしている。

 これは、今まで食べてきな食べ物の中でも一番と言えるほど美味かった。

 ほかにも、チキンステーキやビーフステーキと言った炭水化物やフルーツジュースやヨーグルトなど胃に優しい物まであった。

 種類こそ30種類ほどの料理しか無かったが、十分満足出来た。


 「ふぅ~、美味しかったですね」

 「私はパイナップルが無かったのが残念」

 「お前はパイナップル好きすぎだろ」

 「パイナップルこそ、我が神。パイナップル無しじゃ生きてけない体になっちまった……」

 「そのキャラ、みるくには似合わんな」

 「ひどーい!」


 全員が食べ終えた事を確認し、俺たちは部屋に戻った。


 部屋に戻り、やることも無い俺はベッドにダイブした。

 心々音は風呂場に行き蛇口を捻り、みるくはカバンの中をガサゴソし始めた。

 てっきりどこか調べて、銭湯でも行くのかと思っていたが、まさかここの風呂つかうわけじゃないよな。

 俺は怖くなって心々音に聞く事にした。


 「おい心々音」

 「はい、どうかしました?」

 「まさかとは思うが、ここの風呂を使うわけじゃないよな……?」

 「は?私が今、なんのために蛇口を捻ったと思ってるんですか?」

 「……手を洗うため?」

 「ふざけないでください。普通にここのお風呂を使いますよ、ここのホテルには併設された銭湯はありませんし」

 「俺も使うの……?」

 「あっ、忘れてました」

 「俺だけ銭湯調べて行って来ても良い……?」

 

 心々音は数十秒考えた後、何か悪いことを考え付いたのかニヤニヤし始めた。


 「ふふっ、そんなのダメに決まってるじゃないですか」

 「なんでだよ」

 「確か前にセンスマをした時に【私が涼真くんに何でも一回だけ命令出来る】という権利が残っていましたよね?」

 「……ああ」


 何か、嫌な予感がする。


 「じゃあ、一緒にお風呂に入りましょうか」


 とんでもない提案に俺は思考が停止しかける。

 一緒にお風呂、こいつは一体に何をいっているのだろうか。

 いくらなんでもおかしいだろ。

 百万歩譲って恋人同士ならまだ分かる。

 でも、付き合っても無い人間同士が一緒にお風呂に入るなんて家族同士ありえない。

 それに心々音と二人でこのホテルに来ているのなら、まだ「二人だけの秘密、出来ちゃったね♡」で済む。

 しかし、みるくも居る。

 これはもう、どうにもならない。

 意地でも命令に逆らうしかない。


 「無理だ」

 

 俺は心々音の要求を拒絶した。

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