どうやら俺は一世一代の勝負に出たらしい。
いきなりな事で何も対応が出来ない。
こいつは今何をしている。
俺は今どういう状況なんだ。
目の前に心々音の顔がある、俺にキスをしている。
そうか、俺は今キスをされているのか。
俺が状況を整理していると心々音の顔が離れた。
息が苦しくて俺は喘いだ。
「ねぇ、いい加減分かって。私だっていつまでもこんなあからさまな事はしたくないです。私と付き合ってくださいよ」
心々音はグイグイ来て、俺はベッドの端まで迫られてしまった。
心々音の目を見て、俺は心々音がふざけてるようには見えなかった。
本気の目、だけど何かに怯えているのかその目は涙目だった。
先ほどから息も荒く、声は震えている。
「だ、だから俺は分かんないんだよ……」
「分かんないってなんですか!?私はもう我慢の限界です……答えだけでも良いので教えてくださいよ……」
肩の力が抜けたのか、心々音は俺の胸元で力尽きたように倒れた。
答えだけでも、か。
そんな事言われても、俺は分からないんだしょうがないだろ。
確かに心々音は人間性も良いし性格も良い、顔だって普通の女の子と比べたらとことん可愛い。
でも付き合うとなると話は変わってくる。
何をするにしても心々音を一番として捉えなければいけないし、それこそ俺と心々音が付き合ってるって言うのが世間にバレたら、視聴者や会社にだって迷惑をかける。
そこまでして付き合う義理は俺には無い。
だが、俺は心々音の人間性や性格も好きだし一緒に居て楽しい。
なんなら友達としてなら大好きだ。
傷つけるような答えは出したくない。
だからこそ、時間を掛けて答えを出さなければいけない。
「……すまん、もう少し時間を――」
「じゃあ、既成事実を作ります」
「は?」
「私と涼真くんがイケない事をして、子どもでも何でも作ります。そうすれば、私たちは絶対に結ばれますよね……?」
いかん、これが本当のメンヘラというものなのか。
怖い、目が本気だ。
一切狂いが無く、俺の方をただ一点として見つめている。
これは本当にマズい、逃げ出すか言い訳してなんとかこの場を収めるかしないと。
「まて、それは絶対にダメだ」
「……なんでですか?」
「その、俺と心々音二人だけの問題なら誰にも迷惑はかからん。でも、既成事実なんて作ったら色んな方面に迷惑が掛かる」
「そんなの関係ないです。私と涼真くんが幸せになれれば、私は何でも受け入れます」
「いや、俺は幸せになれん。だから、ゲームをしよう」
「ゲーム?」
「俺を本気で堕としてみろ。それで、俺が心々音に惚れてしまったら俺の負けで、負けたら心々音の言う事をなんでも聞いてやる」
「一回だけですか?」
「いや、無限だ。俺が生きてる内は何でも聞いてやる。でも、俺を堕とすことが出来なかったら心々音の負けで俺の言う事を聞いてもらう。無論、心々音は絶対に言う事を聞く事」
「ふん、そんなハンデを付けても大丈夫なんですか?」
「ああ、余裕だ。なんせ今の俺は、みるくにメロメロだからな」
もちろん嘘である。
まあ確かにみるくの事は恋愛対象として少し好意はあるが、メロメロまでは行っていない。
付き合えたら楽しいだろうなっていうレベル。
しかし、このゲームと題した俺が絶対に勝つ勝負に心々音が挑んでくれるのか?
俺は絶対に堕ちない自信がある、だって俺の恋愛対象はみるくしかいない。
今はまだ、しっかりとみるくを恋愛対象として見れていないが、これから好きになっていくだろう。
だって、可愛いんだもん。
何なんですかあの小動物みたいな可愛さ「りょーくん!」とか言って抱き着いて来たり勉強会の時も「ここわかんなーい!」と可愛く吠えていた。
じゃあなんで「抱き着くなよ……」と面倒臭そうに腕から引き剝がそうとしてたかって?
恥ずかしいだろ、大勢の人が見ているところであんな事されたら。
まあ、要は照れ隠しだ。
「メロメロ……ふん、燃えてきました。そんな事言われたら、絶対に堕として見せますよ」
「お前に俺が堕とせるかな……?」
「ええ、絶対に堕として見せますよ。私の初恋の人、絶対に手に入れます」
心々音は体勢を変え、顔を上げると顔を近づけて来る。
「そうですね……まずは手始めに」
俺の顔を掴み逃げられないようにした後、またキスでもするのかなと思いきや、心々音は俺の頭を撫で始めた。
「今日も生きてて偉いですね……」
「なんのつもりだよ」
「褒めてるんですよ、確か人間は頭を撫でられると落ち着くんですよー」
「どこ情報だ、それ……」
心々音は気持ちよさそうに俺の頭を撫でている。
なんとも言えない高揚感に包まれた。
「いつまでやるんだ……?」
「じゃあもういいです」
「あーあ、減点しちゃった」
「うるさいです。てか、ここに寝てください」
心々音はベッドの上をバンバンと叩く。
何も気にせず心々音の指示に従い、俺はベッドに寝っ転がった。
すると、何を思ったのか俺の隣に心々音も寝転んできた。
「おい、何のつもりだ」
「彼女のフリです。私見た事があります、彼氏の家のベッドで彼女と彼氏が一緒に寝るというシーンを」
「ほほう、それの再現か。再現なら点数は低いな」
「再現じゃなくて、現実にしてくれたなら私、何でもしちゃうのになぁ」
魅力的な言動、行動に俺は心が一瞬揺らぎそうになってしまった。
なぜか今の心々音は魅力的に見えてしまっている。
ただ隣で寝ているだけ、俺にくっつきながら彼女は頭をすりすり擦らせてくる。
心を開いた人にしか見せない態度なのか、いや心を開いたとしていてもこんな姿は見せないだろう。
「もっと、涼真くんを感じさせて欲しいな。くっついても良いよね」
彼女はそう言うと体をべったりとくっつかせ足も絡ませてくる。
キスされた時と同じような状況、先ほどの光景がフラッシュバックしてしまう。
鼓動が早くなり、体が熱い。
頭が回らなくなり、次第に好きという感情が頭を支配する。
「ねえ、さっきみたいにキスしない?」
彼女の誘惑に俺は負けかける。
ここで負けてしまったら、俺は彼女、宮下心々音に一生服従しなければならない。
俺から仕掛けた勝負で仕掛けた側が屈するのはいくらなんでもダサすぎる、しかも勝負を仕掛けた五分後に負けるのはただのバカだ。
俺は絶対に負けん。
「しない」
「なんで、私はもっと仲を深めたいのに……」
「もう十分仲は深まってる」
「まだ足りないの」
「そもそも、付き合ってない人同士がキスをする時点で行き過ぎている」
「じゃあ付き合おうよ」
「そうはいかん」
「……ケチ」
彼女はそう吐き捨てるとベッドから降り、部屋から出て行ってしまった。
くそ、気が狂う。
まさかこんな事になってしまうとは。
自分から仕掛けた勝負だが、これはいくら何でもバカ過ぎた。
俺は頭を抱え、ベッドに座った。
これからどうすれば良いのだろうか。
今はそれしか考えられない。
心々音は今後どのように動いてくるのだろうか、どんな色仕掛けをしてくるのだろうか。
考えても答えは一つも出てこない。
急な尿意に襲われた、さっきまで心々音に迫られたせいで俺の股間は限界を迎えていた。
俺はトイレに駆け込み、出すものを出したあと、みるくの様子を確認することにした。
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