どうやら今日は人生初ばかりらしい。
エスカレーターを使い、二階に来た。
朝という事もあってか、客層はサラリーマンが多く俺たちと同じ学生らしき人や家族連れは見えなかった。
小さなお土産店が三つとレストランが一つと言ったなんとも田舎らしい感じ。
アナウンスが鳴り、俺たちの乗る飛行機が到着したことが知らされた。
「手荷物検査場に行きますか」
「なんだそれ」
「もう、それも知らないんですか?」
「ああ」
「えーっと、まあ危ない物が無いか調べるだけです。あそこの看板に従えば大丈夫なので。遅れたら困るので早く行きましょう」
「了解です!心々音隊長!」
「みるくちゃんは一緒に仲良く行こうね~」
心々音はみるくの手を引き歩いていく。
遅れをとってはいけないと思い、俺も後ろをついて行く。
アナウンスを聞いたのか、待合所で待って居た他のお客さんも席から立ち上がり検査ゲートまで向かっている。
手荷物検査場に着き、後ろを振り返ってみるとパッと見ても40人近い人が並んでいた。
心々音が言っていた看板を見て、俺はポケットに入っていたスマホを取り出す。
どうやら金属探知機で刃物が無いかなどを見るため金属が付いているベルトも外さなければならないらしい。
俺はベルトを外し、カゴの中に入れた。
「こちらにお願いします」
グランドスタッフさんに促され、俺はゲートをくぐった。
上についているランプが緑色に光った。
「大丈夫です。良い空の旅をお楽しみください」
特に異常は無く、俺はゲートを突破した。
初めての事ばかりで俺に高揚感が襲い、なんだか楽しくなってきた。
心々音とみるくも無事にゲートをくぐり抜け、搭乗口前に来た。
飛行機は到着しているが、点検や飛行機内の清掃などがありまだ乗れる様子では無かった。
待合所でまた待つことになった。
「なんか、面白くなってきた」
「こんなので楽しくなってるんですか?」
「仕方ないだろ、ほとんど初めてなんだから」
「この調子じゃ、東京に着いたら常に声を出してそうですね……」
「でも、りょーくんが楽しそうで良かったし私も今楽しい!」
「まあ、私もです」
心々音は体を寄せ、俺に耳打ちしてきた。
「だって、大好きな人と旅行に行けるんですから」
大好き……
大好きだと!?
いや確かに最近告白してきたり、スイーツを食べに行った時も告白まがいな事をされたり大好きだと言われたりした。
でもあれは俺をおちょくるためであって……
今朝のいつか答えを教えてって言うのも、心々音のついた嘘じゃないのか……?
やばい、分からなくなってきた。
「えっと、大好――」
「ああ、ほら!飛行機が乗れるようになりましたよ!早く行きましょう!」
心々音は焦りながら立ち上がるとみるくの手を引き、搭乗口まで行ってしまった。
大好き、そんな事言われた事なんて無くはないが、言われたとしてもみるくぐらい。
なんで学年一可愛いと言われている心々音が他の男には目もくれず、俺ばかりに執着するんだ。
俺より良い奴なんて腐るほど居る。
それこそ、俺は高圧的で取り柄なんて声ぐらい。
そんな俺に心々音が大好きと言う理由が分からない。
心々音に貰ったチケットを機械にかざして、俺は搭乗ゲートを抜けた。
~~~
飛行機に乗り込んだ。
なんだこの不思議な感じ、そしてなぜか懐かしみがあるこの匂い。
全てが初体験で高揚感がまたさらに高まった。
乗ったのは奥の方の席。
ビジネスクラスという少しお高めな席もあったが、俺くらいの庶民となればエコノミークラスが最適だと思う。
「あまり騒がないでくださいよ……?」
心々音が心配そう気に聞いて来た。
「ふっ、そんなに心配するなよ。騒ぐのは東京に着いてからだ」
「東京でも騒がないようにお願いしますね……」
シートベルトを締め終え、5分程するとゆっくりとだが機体が動き始めた。
出発のアナウンスと共に、天井に付いているテレビが点き非常事態時の対応についてのビデオが流れ始めた。
俺はもしもの事を考えて真剣に見た。
離陸してから一時間程が経った。
もう、飛行機最高です。
エコノミークラスという一番下の席でも、簡易テーブルはあるし、飲み物は種類が多くて美味しいし。
そして窓から見えるこの絶景!
たまったもんじゃないですよ、飛行機に乗るたび、この変わらない絶景を見れるとか最高です!
ふと隣を見てみると、二人ともぐっすりと寝ていた。
3列になった席の端、俺は初めてという事もあり窓側の席に乗らせてもらっていた。
喉が渇き貰ったお茶をと口に含んだ瞬間、俺は尿意を催した。
幸い、シートベルトを外しても良い時間だったので、俺はベルトを外しみるくと心々音の足をまたいで通路に出ようとした。
すると、俺が良く見てなかった事もあるが通路から幼稚園児ぐらいの背丈の子が走って来ていてその子ぶつかってしまった。
ぶつかるだけならまだしも、ぶつかったタイミング時の体制が悪く、俺は後ろ側こけそうになった。
反射的に何かを掴もうと思い、手をついた。
手に何か変な感触が、何か柔らかい感触。
握ろうと思えば握れるが、握るには少し難しい大きさ。
「~~~!!」
後ろを振り返ってみると、いつの間にか心々音が目覚めていた。
そして、俺の体を支えていた物の正体も分かった。
まだ発達途中の心々音の胸。
俺の手は、その胸にしっかりと触れていて体を支えていたのだ。
「ああっ、ごめん!」
俺は逃げ出すようにトイレに駆け込んだ。
~~~
トイレに籠り始めて5分ほど。
「シートベルトの着用をお願いします」というアナウンスが聞こえ、俺は渋々トイレから出た。
足をまたぎ、俺は席に座りこみ窓から見える絶景の景色を眺めた。
「涼真くん」
「……はい」
「何か言う事があるんじゃないですか……?」
「……すみませんでした」
「まあ、私だったから良かったものの、他の人ならどうなっていたことか」
「以後気を付けます……」
心々音はいつものように頬を膨らませ、腕を組んで怒っているような素振を見せていたが、今日はいつもと違って嫌そうでは無かった。
逆に嬉しがっているような、そんな感じ。
~~~
飛行機が止まった。
やがて、搭乗口が開いたのか乗っていたお客さん達がぞろぞろと出始める。
「ごめんね、何か引っかかちゃって……」
「まあ、後ろの方だし出るのは結局後の方だからあんま気にすんな」
みるくの身に着けていたショルダーバックが椅子の部品に引っかかってしまったらしい。
幸い、すぐに取れたが俺たちは他の客とは遅れて飛行機から降りる事になった。
「忘れ物は無いですか?」
「ああ」
「だいじょぶです!」
「じゃあ、降りますか」
搭乗口に向かい、俺たちは飛行機から降りる。
みるくは小学生と勘違いされたのかキャビンアテンダントさんから飴を貰っていた。
流石は日本最大の空港と言った所だろうか。
つい2時間程前までいた
さすが東京、さすが
エスカレーターを降り、手荷物受取場で預けていたキャリーケースを受け取り外に出た。
手荷物検査場で、もうすでに北野とは段違いレベルで人が居たが、ここはもう凄い。
多種多様な人種といったら失礼だが、国内線が主流となっているはずなのに金髪の外人や白髪の外人など色んな人が居た。
「ここからはどうするんだ?」
「えっと、モノレールで移動します。その後はりんかい線という電車を使ってホテルでチェックインしたら、自由行動ですかね。今日は一日中観光しても良いとのことでしたので」
「おっけ、了解した」
「私、原宿行きたいな~」
こんな会話をした後、俺たちはモノレール乗り場に向かった。
ふと周りの人たちを見てみたが、やはりファッションセンスが高い。
外人ですら日本で買ったものかは分からないが、日本人から見てもセンスが良いと思われそうな服装をしていて、周りから浮くことは無くしっかりと適応していた。
ほんと心々音とみるくには感謝だ、もし俺がパジャマ兼私服の姿で来ていたら確実に浮いていたな。
俺はそんな自分を想像し苦笑した。
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