どうやら私は好きな人に気づいてもらえなかったらしい。
早く、早く彼が見えなくなるとこまで行かないと。
私、宮下心々音は駆け足で改札を抜け、ホームに向かっていた。
どうして彼は気づいてくれないのだろう。
ここまでアプローチをしても彼は気を遣って、私の機嫌を取るだけ。
でも、時々本音を言ってくれてもっと好きになってしまう。
6年前のあの日もそう。
~~~
私は自宅方面に向かう電車に乗り込んだ。
私の中のヒーロー、そして初恋の人と出会ったのは6年前の自宅近くの公園。
昔の私はそれはもう、凄いデブだった。
小学4年生ながら体重は60㎏近くあったし、顔だって今みたいに可愛くはない。
あの日、私はいつものように一軍の女子からイジメられていた。
ブスだのデブだのカバだの言われ、私のメンタルは崩壊しかけていた。
それで今日もイジメられたら死んでしまおうと思っていたあの日、私の事を助けてくれた男の子。
名前は荒川涼真くん、今でも覚えている。
彼は他校の子だというのに、イジメられている私を見つけると一軍女子を怒鳴ってくれた。
「お前らなにやってんだよ!」
「は……?なにコイツ」
「コイツじゃねぇよ、おい大丈夫か」
この日は確かいつもよりイジメの内容が酷くて、砂とか石とか投げられたりしてたんだっけ。
「うぅ……」
「こりゃひでぇ……おいお前ら、ほんと何やってんだよ!」
「はっ、コイツはそういう運命なの!別にコイツが死んでも私たちは関係ないんだから!」
「死んでも関係ないって、ほんとに最低なやつらだ。おい、こい」
私に手を差し伸べてくれて、それで私の容姿に口出しせずに私に優しく接してくれた。
「うわぁ……痛そうだな。近くにじいちゃんの家があるから行こう!」
「で、でも……私デブだし……」
「そんなの関係無いよ、ほら早く!」
手を引かれ、彼のおじいちゃんの家で手当てをしてもらった。
その後は家に居させてもらって、一緒にゲームとか色々やって遊んだ。
それはもう、私にとって最高に楽しい時間だった。
お父さんに連絡して迎えに来てもらうまで、彼と遊んだ時間は今でもそしてこれからも忘れられない。
お父さんが迎えに来て私が家を出る時、名前だけでも聞いておきたいと思い名前を聞いた。
「あ、あのっ……名前、教えてくれない……?」
「ん?俺の名前は涼真、荒川涼真って言うんだ!」
「そ、そっか……じゃあ、もしまた会ったら遊んでくれる……?」
「ああ、もちろん。これからはイジメられるなよ?」
「うん!」
ハッキリとは覚えていないが、こんな感じのやり取りをして私は彼の家を出た事を覚えている。
遊んでいる時には、彼の女性の好みを聞いたりしたりした。
その時にはもう、私は彼に惚れていたんだと思う。
だけど、私の親が離婚してからは彼のおじいちゃんの家は分からなくなってしまったし、情報も名前しか無かった。
同じ地域に住んでいる、だけど広大な土地から彼一人を探し出すのは絶望的だった。
それでも、いつかきっと会えると思って私は日々努力をした。
記憶を頼りに、彼の好みにあった体型を目指して運動もしたし、全く触れて来なかった美容にも手を出した。
眉毛やまつげなど自分で手入れできる所は調べたりして、自分で整えた。
それで高校入学、諦めかけていた私に奇跡が起きた。
教室に行き、自分の席を確認しようとすると見覚えのある名前があった。
荒川涼真
私はその名前を見た瞬間目から涙が零れた。
6年間片思いをしていた男性に高校という最高の舞台で出会う。
これは運命なのではないかと思ってしまった。
でも彼には仲良しな幼馴染が居て、彼はその幼馴染に惚れているのかもしれない。
だから今日、必死にアピールをして流れで告白まがいな事もした。
それなのに、彼は何も気づいてはくれなかった。
きっと過去に私と出会っている事も、彼は忘れてしまっているのだろう。
「なんで気づいてくれないんだろ……」
私は一人、電車の中で泣き始めた。
恋とはこんなに難しい物だったのか。
彼に好きになってもらうため、人一倍努力して学年で一番可愛いと言われるまでになった。
それなのに、彼は私の事を一緒の事務所に所属している仲の良い友達とでも思っているのだろう。
確かに、それだけでも嬉しい。
でも、もっと、もっともっと好きになってもらいたい。
私が好意を寄せている事に気づいて欲しい。
そんな気持ちが私の中で大きくなっていった。
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