どうやら俺は何かしてしまったらしい。
「はい涼真くん、あーん」
「だから、やらねぇって」
現在俺は心々音にぐいぐいとモンブランの乗ったフォークを押し付けられている所だ。
というのも、さっきから心々音が異様にモジモジし始めたので「どうした?」と声を掛けたら「あーんってしてあげよっか?」というぶっとんだ答えを返して来たのだ。
当然俺は否定したが、なぜか心々音は諦めてくれず現在に至る。
「ほ、ほら、私だって恥ずかしいんですから!」
「恥ずかしいならやらなくて良いだろ!」
「い、嫌です!私は涼真くんにあーんってしてあげたいんです!」
意味が分からん。
なんで俺なんかにカップルが仲を深めてからするような事を、恋人でも無い俺としたいんだ。
考えても何も浮かばない。
周囲の目もある、ここは仕方が無いが心々音のご厚意を受け取ったほうが良いのだろう。
だが、隣には紅音さんと亮が居る。
確かに最初に誤解は解いたが、この行動はいくらなんでもやりすぎている。
再度誤解されてもおかしくはない行動だ。
「もう、何でダメなんですか……」
俺が考えるため俯いていると、心々音が声を漏らした。
俺は顔を上げ、心々音の方を見ると目には涙が見えた。
俺はハッとした。
何をやっているんだ、女の子の気持ちに気づかず挙句の果てには泣かしてしまう。
俺は立派なクズ男だ。
「悪かった心々音。俺もモンブラン食べたいな」
「……はい、あーん」
泣いているのを隠すためか心々音はそっぽを向いている。
それでも、フォークは差し出してくれて俺は上に乗っかったモンブランを一口で食べた。
間接キスになってしまうなど、今の俺にそんな考えは無かった。
女子を泣かせてしまった罪悪感、心々音の気持ちに気づけなかった愚かさ。
今の俺の心は、そんな気持ちが支配していた。
「うん、おいしい」
「……そっか、良かった」
「ああ」
「ジュースも一緒に飲みたいな……」
やはりその言葉も来るか。
しかし、今の俺に否定する権利は無い。
いや、あるのかもしれないが俺の心が許さなかった。
「ああ、一緒に飲むか」
「良いの?」
「ああ、ほらもっとよれ」
テーブルの真ん中にハートのストローが刺さったメロンソーダを置いた。
俺はテーブルに身を乗り出し、片方の飲み口に口を付けた。
心々音が飲み口に口を付けたのを確認して、俺はメロンソーダを吸った。
ピンク色のストローがメロンソーダの影響でだんだんと緑色になっていく。
それがなんとも心々音との仲の深まりを表しているようで気恥ずかしい。
それに、この状況を亮は見ているのか。
俺は気になって視線を移すと亮がスマホを構えニヤニヤしていた。
苦しくなったのか心々音がストローから口を外す。
それに合わせるように俺も口を外した。
「……ほんと、涼真くんはずるいです」
「何がだよ」
「自分で考えてください」
それから心々音はなぜか拗ねてしまって口を聞いてくれなくなってしまった。
俺が何か悪い事をしたかと思い、謝ったもののどうやらそういう訳ではないらしい。
メロンソーダを飲み終え、亮と紅音さんに「それじゃあ」と言った後、会計をして店を出た。
「おい」
「……」
心々音は無言で俺の腕に飛びついてくる。
「口を聞け」
「……嫌です」
「お前もみるく化してしまったのか?」
「……別に」
「はぁ……」
俺はため息をつき、駅に向かって歩き始める。
本当に俺は何かしてしまったのだろうか。
悪い事をしたなら謝りたいが反応的にやはり悪い事をしたわけではなさそうだ。
俺のこと鈍感と言ったり、「また助けてもらっちゃった」など意味深な事を言ったりと今日の心々音はいつもと何かが違う。
少なくとも、二人きりというこの状況かなり影響していそうだが、詳しい原因は分からない。
「おい、駅着いたぞ」
「……はい」
少し歩き、駅に着いた。
心々音は俺の腕から離れると、俺に何も言わず早々と改札まで行ってしまった。
どうしたものかと思っているとポケットに入れてあったスマホがが震えた。
何かと思ってみてみると、亮からLIMUで写真が送られてきていた。
俺と心々音がハートのストローでメロンソーダを吸っているシーン。
それもピンクのストローが丁度メロンソーダで全体が緑色に染まった瞬間だった。
俺は恥ずかしくなり、LIMUを一瞬で閉じた。
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