どうやら俺は友達と遭遇したらしい。
「……お前、狙ってたか?」
俺はジト目で心々音に尋ねる。
「いえ全然。狙ってるわけないじゃないですか」
「ほんとか?」
「はい」
目や顔を見る限り嘘をついているようには見えない。
俺は頭を抱え、ため息をついた。
そして心々音に問う。
「お前、これ食べたいのか?」
「もちろん!食べたいです!」
目を輝かせ、まるで最初から狙っていたかのように彼女は言う。
やっぱり確信犯だ、こいつは。
俺は再度ため息をつき「もう今日はとことん付き合います……」と呆れ気味で言った。
心々音に抱き着かれながら入店する。
「いらっしゃいませ~、何名様ですか~?」
白い制服に身を包んだ店員さんが俺たちを出迎える。
心々音は嬉しそうに「店の看板見て来たんですけど~」と言うと、店員さんは理解したのかすぐに席に案内してくれた。
周りを見ても、カップル、カップル、カップルの嵐だ。
俺たちと同じくらいの年のカップルから20代ぐらいの男女も見える。
「あんまりじろじろ見ない方が良いですよ?」
心々音に注意され、俺は正面を向く。
ニマーっとした心々音が両腕を机に着き、顎を支えながら俺を見ていた。
「なんだその顔は」
「へへっ、本当のカップルみたいだなって思ってただけです~」
「はぁ……もう帰って良いか?」
「あー、ダメですダメです。すみませんでした」
「分かればよろしい」
店員さんがメニュー表と水を持ってきてくれた。
「今日はカップル限定スイーツをご希望という事でよろしいですか?」
「はい」
「それでは、こちらからお選びいただけますか?」
店員さんが指した場所に書かれていた物を見て、俺は目を疑った。
メニュー表には、カップルメロメロメロンソーダ、イチゴとグレープジュレのカップリングケーキ、君と恋したモンブランという謎の商品の写真と共に説明が書かれていた。
メロンソーダには【カップル限定!ハートのストローで二人で一緒に飲もう!初めての共同作業だね……?】
イチゴとグレープジュレのケーキには【甘酸っぱい恋とドロドロになった甘い恋……君たちはどっちが好きかな……?】
そしてモンブランには【君に初めて恋したあの日を思い出しながら、関係をより一層深めていこう……】と書かれていた。
なんだこれ、考えた人どんな思考回路してるんだろ。
こんな文章を思いつくとか普通に怖い。
「この三つの中から二つ選んでいただけますか?」
店員さんがそう言ったので、俺の心の中で「んなもん、選べるかぁ!」とツッコミを入れた。
心々音はこの意味の分からない説明文には目もくれず「モンブラン下さい!」と間髪入れずに言った。
「かしこまりました。彼氏さんの方はどちらにします?」
「あー、えーと」
「私、メロン好きなんだよなぁ」
「イチゴとグレープのケーキで」
「ああ、ちょっと!酷い!」
「そうですよ、彼氏さん。店員の私が口を挟むのも良くないと思いますが、彼女さんを大切にしてください!」
えー、だってこのジュース【ハートのストローで初めての共同作業をしよう!】とか書いてあるんですよ?
普通に恥ずかしいし嫌なんですけど。
しかし俺は、店員さんの謎攻撃によってメロンジュースを選ばざるを得なくなってしまった。
数秒フリーズした後「……メロンソーダ下さい」と死んだ声で言った。
「わーい、涼真くんだーい好き!」
あからさまな演技によって少しイラついたが、耐えろと自分に言い聞かせた。
それに今日はこいつに楽しませてもらってる、感謝だ、そう感謝をしなければ。
「てか涼真くん、このまま私の彼氏になってくださいよ」
店員さんが立ち去った後、心々音はこう口を開いた。
シンプルな告白、俺は再度フリーズした。
「あれ?涼真くーん、おーい」
「あっ、ごめんごめん。プリクラ撮らないとね」
「うん、記憶飛びすぎだから。それよりさ、彼氏になってよ」
「えーと、なぜ急に?」
「好きだから。それ以外に理由なんてある?」
おっと、何だこの展開は。
二人でゲーセンに行って、チャラ男から助けて、それでカップル限定メニューがあるお店に入って告白ですか。
あーなんと不思議なんでしょう、こんな展開僕は知りません。
それに、心々音は俺に嘘コクをしている。
だから嘘コクだっていう可能性は十分に考えられる。
「えっと、答えを出さないとダメですか……?」
「うん、もちろん。私だって今は普通に見えるかもしれないけど、凄くドキドキしてるんだからね?」
なんでだ、なんでなんだ。
15年間生きてきて、告白なんてされたこと一度も無かった。
それで初めて告白されたのが学年一可愛いと言われてる美女。
それなのに、なんで俺はすぐに答えを出せない。
普通の人なら【ああ、もちろんだ。俺もお前の彼氏になりたいと思っていた】みたいな事を言って告白を受け入れる、そうだろ?
なのになんなんだ、この胸のざわめきは。
まるで告白を受け入れてはいけない、そんな感じがする。
「えっと……」
「ねぇ、早く答えが聞きたいんだけど……」
「俺は――」
俺が答えを言おうとした時、店員さんが二人のお客さんを案内してきた。
「あれ、涼真じゃん。おひさ~」
聞き覚えのある声、隣を見ると亮と紅音さんが居た。
「あれ、心々音ちゃんと……涼真くん!?二人ってそんな関係だったの……?」
「えっと、違うの紅音ちゃん!いや違くないから!」
心々音は紅音を見た途端、動揺し始めた。
店員もいることだし、一応話を合わせておこうと思い俺は亮にも説明する。
「まあ一応な、そういう関係かもな。な、心々音」
「ちょっと、涼真くん!」
「お客様!!」
心々音が大きい声を出したことに怒ったのか、店員さんが間に入り心々音を静止させた。
店員さんが立ち去り、心々音は落ち着いたのか深呼吸をした。
心々音は店員さんがいないことを確認したのか周りを見て紅音さんに話し始めた。
「えっと今日はね、私がここのデザートを食べたいって思って涼真くんを誘ったの」
「あ、そうだったんだ。二人ともごめんね、なんか勘違いしてたみたい」
「なるほど。まあそうか、涼真が心々音と付き合ってるわけないもんな」
「ああ、そうだよ……」
亮にそう言われた瞬間、なんだか心が寂しくなった。
しかしなぜこの二人はこの店に来たのだろうか。
「二人は付き合ってるの?」
俺が聞いてみると二人は何の反応も無く「うん」とだけ言った。
「俺たち、中学二年の頃から付き合ってるからな」
「そうだよね。でも入学当初はずーっと告白されて大変だったんだけどね……」
「ははっ、紅音の魅力に気づいた奴らが大量にいたんだな」
「うちは、はせっちにしか興味ないけど……」
「まあ、俺もだけどな」
なんですかこれ、最終的に絶対ラブラブになりますよねこの二人。
これが本物のリア充ですか、凄いです空気が違います。
「てかあれか、二人はゲーセン行ってきたのか」
「ああ」
亮が心々音の隣の席に置かれていた袋を見て、俺にそう言ってきた。
「ふっ、一緒にプリクラでも撮ったのか?」
「ああ、人生初めてのプリクラだったな」
「おー良かったな、人生初プリクラが可愛い可愛い心々音さんとで」
「ああ、普通に楽しかった。まあ、良い事ばかりでは無かったがな」
「何かあったのか?」
亮にチャラ男に絡まれたことを説明すると「お前かっこよ」と素直に褒めてくれた。
亮ともう少し話そうと思った所でカップル限定メニューがテーブルに運ばれてきた。
少し大き目なモンブランと大き目なグラスに入れられたメロンソーダ。
メロンソーダの上にはアイスクリームが乗せられていてフロートになっている。
そして目玉と言っても良い、飲み口が二つあるハートの形をしたストローが刺されていた。
「うわ~、美味しそう……」
「モンブラン、好きなのか?」
「それはもう、大好きです!」
「全部食えるなら全部食っても良いけど」
「ほんとですか!?じゃあ、お言葉に甘えて頂きます!」
美味しそうに少し大き目のモンブランを心々音は黙々と食べ進める。
俺はそれを眺めながら、複雑な思いでアイスクリームを口に運びストローでメロンソーダを飲んだ。
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