どうやら学校祭は始まったらしい。
噛みつかれて1週間、以前心々音に噛みつかれた場所はハッキリと噛み跡が残っている。
そして今日は文化祭2日前、学級旗作成も終盤だ。
「あ、そこピンクでお願いね」
「あ、はい。分かりました」
詳しい事が分からない組は背景のピンクなどの色を担当し、発案者の宮前さんと心々音は5人組の顔や髪などの色を塗っていた。
すでに完成間近で、背景が6分の一ぐらいと5人組のセンターの子を描けば終わりというとこまで来ていた。
「背景は……大人数でやっても邪魔になりそうだな」
「そうだね、あとは僕と荒川くんでやろうか」
紅音さんとみるくには筆を洗って来てもらうようにし、俺と赤城くんで筆を進めた。
5人組担当班もかなり進んだようで、心々音の担当している髪の毛部分と宮前さんが担当している目の部分で終わりを迎えようとしていた。
「ここは、こんな感じの色で良いかしら?」
「そうね、うん!私の思ってた通りの色だよ!」
「じゃあ、塗っていくわね」
ムラが無いように塗る、一見簡単そうに見えて実は難しい。
背景部分なら誤魔化す事は出来るが、注目の集まる5人組の部分になると話は変わってくる。
一番目立つ場所は間違いなく5人組の部分、そして何よりクオリティが他のクラスと比べて明らかに違う。
他の同学年のクラスは空を模様した背景だけの物や、人の顔は描かずシルエットのみの物などばかり。
しかし、うちのクラスの学級旗は5人組、そしてシルエットではなく顔もしっかりと描かれている。
背景もピンク一色ではなく所々に白などを散りばめたりなど工夫し過ぎている分、注目も集まると宮前さんは考えていたようだ。
あ、俺が考えたんじゃなくて宮前さんがそう言ってただけだから、うん。
だから、宮前さん的にはしっかりと納得のいくものが作りたいらしい。
「あ、ごめん。はみ出しちゃった」
「あー、大丈夫。こうすればカバーできる!」
「いやー、ごめんね」
「気にしないで!」
このように、宮前さんは人のミスもカバー出来てしまう完璧人間なのだ。
宮前に関心しつつ、自分の作業を進める。
「うし、こんなもんか」
「そうだね、細かい部分は僕がやっておくよ」
「ああ、じゃあ頼んだわ」
「おっけー」
背景の大まかな部分は終了し、細かい部分を赤城くんがやってくれるとの事だったので不器用な俺は役目を終えたと思い作業をやめた。
筆を洗うためにトイレの前の水飲み場に向かうと、みるくと紅音さんがお互い何も話さず、真剣に筆を洗っていた。
きっと気まずいのだろうと思い、二人の間に入ろうと思ったが何か訳があって話していない可能性もあったので、結局二人とは離れた端の方の蛇口で筆を洗った。
~~~
教室に戻ると、宮前さん達が片づけを始めていた。
「宮前さん、完成したんですか?」
「うん!無事に完成しました!ちょっと、写真撮りたいから涼真くんの帰宅を待ってたんだよねー」
宮前さんは無邪気に喜んだ後、「写真とるから端の方持ってくれない?」と頼み込んで来た。
それに応えるため俺と心々音で学級旗の端を持ち、中央に作業メンバーが集まった。
皆が集合して5秒ほどして「パシャリ」と音が鳴り、宮前さんがスマホを確認する。
「おっけ!バッチリみんな写ってるよー!」
写真を確認するため宮前さんの周りに人が集まった。
みるくも見たそうにしていたが如何せん身長が低いため外に漏れてしまう。
しょんぼりして悲しそうにしていたみるくに「あとで送ってもらうから」と声を掛けると、にまっと顔を明るくした。
~~~
そして今日は学校祭当日。
ダンスの練習も昨日フルで出来たためバッチリとまではいかないが、多分大丈夫だ。
別に学級旗制作に全て時間を使っていたわけではない、交代制にしてこの日は誰かがダンス練習してこの人が学級旗制作、という風にしていたため全く練習をしていないという訳では無かった。
それでも、みるくは不安なのか少し緊張しているように見えた。
「おい、大丈夫か?」
「う、うん。少し緊張してるだけ……」
「ま、これが終われば緊張も無くなる。俺らの出番は……2番目だな」
一年生から学年、クラス順に発表していく。
トップバッターの一組は、演劇でロミオをジュリエットをやるらしい。
小説などの物語の最中によく登場してくるロミオとジュリエット。
よく登場してくるとはいえ「あぁ……ロミオ……どうしてあなたはロミオなの……?」という有名なフレーズしか知らないため、普通に見たかったが準備があるため見る事は出来ない。
少し残念だ。
「ふえぇ……もう、発表順早すぎるよー」
「早い方が良いだろ。他と比べられなくて済むし、出番が終われば後は他のクラスの発表を見れば良いだけだ」
「それでも嫌だよぉ……」
「俺たちは学級旗班で練習に来れる時間が他より少ないから端の方にしてもらっただろ?」
「ふんだ」
「拗ねんな」
学校に着き、クラスに入るといつもと違う風景に少し新鮮味を感じた。
いつもは男子は学ラン、女子は少しダサめな灰色のロングスカートと黒のブレザーを着ていた。
それなのに今日は学校祭という事で、クラスによって異なったTシャツを着る事が許可されている。
2組はサッカー選手のユニフォームのような薄紫色と白色のシマシマ模様のTシャツ。
言い方が悪いが、いつも光っていない男子女子も今日だけは光沢がある。
しかし、そんな人たちを差し置いても心々音と紅音さんは光りまくっていた。
「あ、みるくちゃんと涼真くん。おはようございます」
「うい、おはよう」
「おはよー!心々音ちゃん!」
「おほー!みるくちゃん、いつも可愛いですが今日は特段可愛いです!」
心々音が挨拶を交わすとみるくに飛びつき頭をスリスリしている。
少し嫌そうにしながらもみるくは心々音の事を突き放そうとはしなかった。
みるくの成長を噛み締めながら俺は席に座った。
「ういっす」
「おいっす」
「今日のコンディションはどんな感じで?」
「まぁ、普通かな。緊張も特にしてないしだからと言って楽しみってわけでも」
「見た感じそんな感じするわ。てかさ、聞いたか?」
「ん?」
後ろに座っている亮はニヤニヤしながら俺に話を続ける。
「明日の夜にトープの駐車場を貸し切って焚火をするらしいんだよ」
トープとは北嶺高校の近くにあるショッピングセンターのことだ。
「ほうほう」
「それで、その焚火が終わるまで一緒に居た男女は今後、何とは言わないけど結ばれる可能性が高いんだってよ!」
意味の分からない話に俺は呆れ半分で聞いていた。
学校の伝統なのか言い伝えなのか分からないが、そんな胡散臭い話を信じて何になるのだろうか。
てか、そんなものアニメや漫画の世界だけだと思っていたが、まさか実際にあるとは。
やっぱり興味沸いて来たかも。
「今日は学校で他のクラスの奴らに披露だろ?で本番は明日の焚火よ!」
「はあ……そんなもの信じるのか?」
「あったり前だろ?」
「てかその伝統?を信じるのは良いけどお前は誰と一緒にいるつもりなんだよ」
「え?紅音しかいないだろ」
うわっ、この人イケメン……
幼馴染第一ですか、カッコ良すぎでしょ。
てか、この伝統を紅音さんは知っているのだろうか。
それによっては誘い方とか何か変わってきそうな気がするが他人の恋愛事情に首を突っ込んでも良い事はあまり無い。
俺は「頑張れよ」と亮に声を掛け、持ってきたクリアファイルと筆箱を机の中に突っ込んだ。
伝統か、信じてはいないが少し考えてみるか。
担任が入って来て連絡事項を伝えた。
LR終了のチャイムがなり日直が号令をかけた。
そしてここから、高校初めての学校祭は始まった。
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