どうやら俺は今日もコラボをするらしい。

 「今日は学校祭について話し合ってもらうぞ~」


 心々音こと三星夏南とのオフコラボから1週間ほどたった。

 みるくはいつも通りの配信に戻り、心々音は昨日歌枠をしていた。

 練習の成果が出たのか、前回の歌枠よりも好評だったらしい。

 俺も、あれから3日に一回配信をしており、一度の配信で5000人程の人が見てくれるようになった。

 収益化も通り、配信にも慣れてきた。

 安定期に入り、俺は現を抜かしていた。


 「おい、涼真」

 「ん、どした?」

 「学校祭だってよ、この季節にやるとかだるくね?」

 「まあ、どっちかって言うとだるいな」


 北嶺高校の学祭は6月と全国的に見ても早すぎる日程だ。

 なぜこんなに早いのかと言うと、近くのショッピングセンターの駐車場を借りて地域の人にダンスや劇を披露するというイベントがあるからだ。

 北海道の秋はとても寒くなる。

 そんな中、はっぴを着たり薄い衣装で踊る事はかなり厳しいだろう。

 だから、暖かい時期の6月に行ってしまうらしい。


 「アニメとかでもさ、学祭って9月とか秋にやるイメージだよな」

 「まあ、確かに。でもうちらって秋に球技大会あるじゃん」

 「でもさ、それこそ【外が寒い】とか【雪が降ってる】とかでグラウンド使えなくて室内スポーツに限られた結果、サッカーとかの外種目が出来なくなるじゃん」

 「……そうだな」


 俺と亮がコソコソ話している内に話が大分進んでいた。

 クラスの議題としてはダンスにするかそれとも劇にするかの話し合いになった。

 学級委員長が教卓の前に出ると「席移動しても良いので色んな人と話し合ってください」と言った。

 それを気に、席に座っていたクラスメイトが一斉に立ち上がり各々友達の席に移動していく。

 俺は亮と近くだったので移動はしなかったが、俺たちの席にみるく、心々音、そして五十嵐紅音が来た。


 「りょーくん、私も入れてよー!」

 「どうも、涼真くんと亮くん」

 「はせっち、私も入れなさいよ」


 男子からの視線が鋭く、至る所に刺さる。

 それもそうか、クラスで一、二番目に可愛いと言われている女子、それに加え全く来なかった可愛い小動物系女子が二人の男子の元に自分から来たのだから。


 「周りの目が痛いな」

 「涼真、その気持ち凄く分かる」

 「お前もか、ハハハ……」

 

 俺と亮は苦笑した。


 「それで、皆さんは劇かダンス、どちらが良いんですか?」

 「私はダンス!」 

 「へー、みるくがダンスとは意外だな」

 「だって、劇は恥ずかしいしダンスだったら端の方に入れば多少ミスしても目立たないでしょ?」 

 「な、なるほど……」

 「紅音さんはどうなんですか?」

 「えっ……」

 

 挨拶以外口を開かなかった紅音は心々音に話題を振られた事に驚いたのか急にあたふたし始めた。


 「わ、私は劇とかダンスとかあんまり得意じゃないからどっちでも良いっていうか……」

 「は?紅音、劇上手かっただろ」

 「ち、ちがっ。あれは……その……はせっちと一緒だったから……」

 

 二人でいちゃつきやがって、俺たちは中学が違うからそんな話されても分からないんだよ!

 と思いながら二人のイチャイチャを憎たらしく見ている。


 「そっか、まあ紅音が好きな方で良いんじゃね?俺はダンスかな、小中って全部劇だったし」

 「なるほど、私もダンスですかね。皆でやるの楽しそうですし。涼真くんは?」

 「俺もダンスかな。やっぱハイな方が良いと思うし」

 

 ここで学級委員長から「皆さん席についてくださーい!」とあったので女子三人組は「じゃあ」と言い席に戻って行った。

 その後、ダンスにするか劇にするかの多数決が取られ、ダンス18、劇12という票数に別れ1年2組はダンスをするという方向で決まった。

 

 ~~~

 

 授業が終わり放課後、俺とみるくと心々音は三人で集まっていた。

 

 「お二人とも、今日の夜は予定空いてますか?」

 「ああ、空いているが」

 「空いてるよ!」

 「ほんとですか!?では今日はコラボをしましょう!」

 

 俺が口を開く前に心々音はスマホを取り出し、素早く何かを入力した。


 「運営さんに連絡したら許可を頂いたので決定ですね!」

 「俺はまだ、やると言って無いが?」 

 「そんなの関係ありません、それに私がやろうとしているのはHEROXですよ?」

 「ぐっ……その誘い方はせこいな」

 「わ、私もちゃんとプラチナムまではやってるから少しは出来る……はず!」

 「ふふっ、甘いですねみるくちゃん。私はダイアです!」

 「すまん、ソロマス」

 

 心々音が「は?」みたいな顔をしていたが俺は無視して駅に歩き出した。

 

 「ちょっと、置いてくなんて酷いですよ」

 「何か言われると思ったから逃げただけだ」

 「別に何も言いませんよ、ソロマスって聞いたんでちょっとだげランクマを手伝って欲しいって思っただけですよーだ」

 「そうかそうか、別に今日の配信をタイマン企画にしてやっても良いんだぞ~?」

 「げっ、それはやめておきます」


 三人で電車に乗り込み、心々音は大泉で降り、俺たちも西北野で降りた。


 「りょーくんってそんなにHEROX強かったんだね」

 「HEROXだけはガチでやってるからな」

 「じゃあさ、私のランクマ手伝ってよ」

 

 「お願い!」と手を合わされたが、これはどうしても出来ない。

 俺がみるくの事を嫌いだからとかじゃなくて、ゲームの仕様上ランク差が二つ離れていると一緒にランクマをプレイすることは出来ない。

 俺のランクはマスター、みるくはプラチナム、これにより仕様上出来ない事になる。

 サブ垢でやれば――と思うかもしれないがこれもストリーマーになった以上これもできない。

 強い人が弱い人のランクを上げるためにサブアカウントでプレイして弱い人を育てる事を通称スマーフと言う。

 この行為はゲームによっては悪質行為とみなされHEROXではだれがやってもBAN、つまりアカウント停止対象。

 少し前に違うゲームだが、プロゲーマー二人とそのプロゲーマーが所属しているオーナーが一人のVtuberのランクマをスマーフするという事態が発生し、それが世の中にバレた事によって大炎上、そしてその行為を行った人、全員のアカウントが削除されるという措置が取られた。

 シーズン0からやっていて、最古参勢、そして課金も大量にして思い入れのあるアカウントをBANされては困るというより、生きていけなくなってしまう。

 だから、みるくには申し訳ないが手伝う事は出来ない。


 「スマーフはできん」

 「なんでー!」

 「BANされるから。カジュアルで良いだろう?」

 「むー、じゃあ、カジュアルで良いから教えて?私、HEROX上手くなりたいからさ」

 「それなら良いよ」

 「ほんと!?やったー!」


 こんな話をしているといつの間にか家に着いた。

 みるくは「今日は絶対やってねー!」と手を振りながら走って家に帰って行った。

 みるくが家に入ったのを確認して、俺も家に入った。


 「ただいま」

 

 一人そう呟きキッチンで手を洗い、制服をハンガーにかけた後脱衣所で部屋着に着替え自室に向かった。

 パソコンでTwltterを開き、今日の配信の告知をする。

 「今日は配信します。メンバー、俺、みるく、夏南先輩。」

 という文と共に、HEROXの今シーズンのキービジュアルの写真を貼り、そのままツイートした。


 すぐにリツイートやいいね、リプなどが飛んで来たり付けられたする。

 最近どんなリプが来るか見てなかったなと思い、リプ欄を開いて見ると「まさかの、みるみなりょー再来ですか!?」「みるみなりょーきちゃあ」など意味の分からない単語ばかりで埋め尽くされていた。

 俺が「みるみなりょーってなんぞや」とツイートすると「三人でコラボする時の名称見たいなものです!」とリプが飛んできた。

 「おお、良いなそれ」と思いながら俺は教えてくれた人に「ありがとう」と返信した後Twltterを閉じた。

 

 「ははは……こんなに有名になったのか、俺は」

 

 独り言をぼやき、俺はHEROXを起動した。

 射撃訓練場に行き、AIMを温めた後カジュアルを始めた。

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