どうやら俺は無事にデビュー出来たらしい。
「りょーくんこれ着て!」
みるくが持ってきたのは黒のプルオーバータイプのTシャツ。
それと黒のジーパンでTシャツには真ん中に英語で「old playmate IS lover」というロゴが入っているもの。
みるくにまた強引に試着室に入れられ、持ってきてもらった服に着替えた。
「おお~!めちゃくちゃ似合ってる!」
「全然似合ってません!」
また二人が喧嘩を始めてしまった。
店中で何度も喧嘩されるのは俺も迷惑だし、何より店員さんやお客さんに申し訳ない。
そして恥ずかしい。
二人がヒートアップする前に、「わかった、二つ買って貰うからお前ら落ち着け!」と静止させ、心々音にお金を出してもらって店を出た。
店の去り際、店員さんが俺の事を見て来た。
なんだかヒモ男だと思われたみたいでなんだか心が狭くなる思いをした。
昼食をAONEで取った後、家に戻って来た。
買って来た服のタグを切り、洗濯機にすべてぶち込んだ。
「パスタ、美味しかったね」
「うん、凄い美味しかった!」
「ああ、上手かった。悪いな、奢ってもらって」
「いえいえ、全然大丈夫です。基本無駄遣いはしないのでお金はたくさんあります」
「今日、沢山無駄遣していたような……」
「あれは無駄遣いじゃないです!」
心々音は大きな声でそう言った後「そ、それに――」と何か言いかけたが顔を赤くして言うのをやめた後、そっぽを向いてしまった。
なぜ心々音が顔を赤くしたのかは分からないが、今日は心々音のおかげでかなり助かった。
「心々音、今日は助かった。ありがとう」
「……!そ、そうです!私に感謝してください!」
「ああ、感謝する。ほんとありがと」
心々音はもっと顔を赤くさせた後、口を小さく動かした。
その口の動きが「もっと好きになっちゃう」と言っているように見えた。
俺はそれを正確に読み取ってしまった事に後悔し、赤面した。
~~~
「りょーくん、もう40分だよ?」
配信開始20分前まで来た。
枠も作ったし、概要欄も書いた、マイクなどの準備も完了している。
「うえー、何か緊張する」
「親フラ対策とかはしっかりしてるんですか?」
「ああ、それは事前に【今日は大事な日だから、俺が部屋から出てくるまで部屋に近づくなよ!】って父親にキツめに言ってある」
「そうですか、大丈夫そうでよかったです」
みるくに手伝ってもらいながら、背景のなどを設定したあとみるくが「トイレ行ってくる」と言い部屋から出て行ってしまった。
部屋に残されたのは俺と心々音、最近三人で居る事ばかりだったが二人となると何かと気まずい。
気まずさを消そうと考えていると心々音が無言で俺に近づいて来た。
「あの、心々音さん?」
一瞬で距離を詰められ、今にもキスをしてしまそうな距離。
心々音は何も喋らず、ただ近づいてくるだけ。
それが何かとミステリアスで子供っぽいみるくと対照的に大人っぽく見えてしまう。
心臓が急に激しくなる、鼓動がうるさい。
「おい、いい加減に――」
心々音が俺の顔を手で掴むと、おでこを当てて来た。
ドキドキしているせいで熱くなっている俺のおでことは反対に、心々音のおでこはひんやりしていて気持ち良い。
10秒ほどくっつけあっていたが、やがて恥ずかしくなったのか心々音からおでこを離した。
「おい、心々音……なんで……」
「これが私のほんとの気持ち。今はまだ、恥ずかしくてこれ以上は出来ないけど……」
「だから、気持ちってな――」
「ただいまー!ってあれ?二人とも何か顔赤くない?」
「「!!!」」
俺と心々音は突然の来訪者に驚き、肩を上げた。
その直後「何もなかったよー」と二人でいつもより2トーンぐらい高い声で否定した。
みるくは不思議そうにしていたが、すぐに配信の最終確認に移っていたので安心した。
「じゃあ、りょーくん、ここ押して?」
みるくに促されてマウスを操作し俺は配信開始ボタンを押した。
コメント欄はすでに動いており、配信開始を待って居た人たちが「待機」とコメントしている。
俺は咳払いをした後、顔を叩いて気合を入れた。
「りょーくん頑張ってね。何か困ったら私が助けるから」
「ああ」
俺の配信はスタートした。
「皆さんこんばんは、staralive所属のRYOです。昨日はみるくの配信にお邪魔させて頂きました。これからよろしくお願いします」
視聴者数をチラッと確認すると30000という数字が見えた。
俺の配信を今、3万人の人が見ている。
それを考えるだけでぞっとしてしまうが、今は配信に集中しないと。
「まあ、昨日のみるくの配信で俺の大まかな紹介はしたんで、今回は俺の配信で何をしていくか説明しようかな」
「どんぱふ~」
後ろで見ていたみるくが我慢出来なくなったのか急に乱入してきた。
みるくの合いの手によってコメント欄は「誰の声!?」「みるくちゃんじゃね!?」などザワついた。
「急に出てくるな」
「へぶっ」
みるくに軽いチョップを入れた後、一応自己紹介をしてもらった。
「中野みるくでーす、こんな感じで良いですかね?」
「なめてんだろ」
「りょーくんの体とかなめたこと無いし」
「おえっ」
「なんで気持ち悪がるんですか!?」
「当たり前だろ」
「ぶーぶー」と言いながらみるくはグーパンチ(痛くない)
そして後ろではお決まりの心々音が~以下略~
「まあ、俺が配信でしたいことはコラボ、雑談、ゲーム配信かな。ストリーマー部門で入らせてもらったからゲーム中心になると思うけど。あと、需要があったらシチュエーションボイスもやるかも」
シチュエーションボイスをやるかもと言った瞬間、コメント欄は良い意味で荒れた。
「マジですか!?」「伝説がまた増えるんですか!?」など歓喜の声が伺えた。
「まあ今日は、テストを含めたデビュー配信だし、やる事も無いのでこの辺で切っても良いかな?」
「ダメですよ、りょーくん」
「まだ生きていたのか……!」
「なんですか、その臭い演技」
「俺のチョップで死なないとは、貴様中々やるな!」
「ふふふ、私はりょーくんが大好きですからね。対策など山ほどあるのですよ!」
「なんだと……?」
「秘儀、みるく流奥義かかえこみ!」
「うごっ」
みるくはそう言った瞬間、俺に飛びついて来た。
大体の人なら、【美少女に抱き着かれた!嬉しい!】ってなるかもしれんが、今は、ヤバい。
「ちょ、おま、離れてくれ!ヤバいとこ入ってるから!」
「ふふふ、離すわけないじゃないですか」
小柄で細い腕、その腕についている関節の部分。
そう、肘が、肘が俺のみぞおちにダイレクトインしてる。
ヤバい、痛い、痛すぎる。
「おい、みぞおちに入ってるから!ほんとにヤバいから!」
「いつも私をイジメる罰です!」
「あっ……くえぇ……」
「ちょっと!りょーくん!?」
「ぐ、だから言ったじゃないか。ヤバいって」
「わ、私のせいで……うぅ、ひっぐ……」
「いや、泣くなよ。確かにヤバかったが何とか位置ずらして大丈夫だから」
「うぅ……ごめんね?私が全部悪かったから、許して……?」
「おい、配信ついてるんだからあんま泣くなよ」
みるくは俺の拘束を解くと、がん泣きで俺に飛びついて来た。
相手を少し傷つけてしまっただけでこんなにも親身になれる、俺はそんなみるくに惹かれてしまった。
服が涙で濡れる。
いつもは冷たい涙、それなのに今日はなにか暖かさを感じた。
「もう、分かったから。配信閉じた後、いっぱい泣いてください」
俺はそう言い、「じゃあ皆さんお疲れさまでした。明日も配信するんでお願いします。それじゃあ」と言い配信を切った。
「ほら、もう泣くなって」
「だって、私りょーくんの事傷つけたもん」
「もういいって、許すから」
「うん……まだこうしてる」
みるくは俺に抱き着いて、顔を
「はあ……」とため息を吐き、後ろを見ると心々音はまだ倒れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます