どうやら二人は仲良しになったらしい。

 長い階段を上り、教室に行った。

 教室に入り、黒板に書かれた朝の連絡を確認した後、席に向かった。


 「おう、涼真。今日は少し遅かったな」


 席に座り、すぐに話しかけてきたのは友達の亮。


 「まあ、少しな」

 「お前、いつの間に心々音と仲良くなったんだよ~」


 ニヤニヤしながら俺に聞いてくる。 

 適当に「少しな」と流しつつ、授業道具を取り出していると担任が教室に入って来た。


 「よ~しお前ら、今日は連絡があるから少し早めにHR始めるぞ~」


 HR開始までまだ5分程あるのに担任が教室に入って来た。

 各々、少し面倒臭そうな顔をしながら席に座る。

 担任が皆席に座った事を確認すると話を始めた。


 「今日は家の事情で来れていなかった中山さんが登校してきてくれたので、自己紹介も兼ねて皆に挨拶をと思ってな」


 担任が「入ってくれ」と言うと教室の扉が開いてみるくが入って来た。

 正直大丈夫なのか?と思ったが全然大丈夫じゃなかった。

 入って来たみるくはガッチガチで四肢が固まっているのかのように真っすぐに動いていて、まるでロボットのようだった。


 「な、ななな、中山く、胡桃です。え、えーと、みみ、皆さんと仲良く出来たら良いで、です。お、お願いします!」


 今にも泣きだしそうだったが、それを何とか堪えたのか体を大きく折り曲げて一礼した。

 担任に席の場所を教えてもらうと、みるくはそこに座った。


 波乱のHRだったが、それからは軽い連絡で終わり休み時間に入った。

 みるくの席にはほぼ全てのクラスメイトが集まっていてみるくの様子が確認できなかった。


 「なぁなぁ、あの胡桃ちゃんって子。めっちゃ可愛くね?」

 

 後ろに座っていた亮が話しかけて来た。

 亮にはみるくと幼馴染という事をまだ伝えていない、伝えるかどうか迷ったがそのうち関わる事になるだろうと思い、関係を伝えた。

 

 「おい、まじかよ!めっちゃ可愛い幼馴染って羨ましいな」

 「お前こそ五十嵐と仲良いじゃねぇかよ」

 「え、バレてた?まぁ、幼馴染だしな」

 「わお、衝撃的展開」

 「知らなかったのかよ」

 

 五十嵐は基本男子とつるまない、だけど亮とだけは楽しそうに話したりしていたから何かあると思っていたが、まさか幼馴染とは思わなかった。

 亮と五十嵐の意外な情報に驚いていると、授業開始のチャイムが鳴った。


 ~~~


 「ではこれで終了、号令」

 「「ありがとうございました!」」


 6時間目が終了し、帰りのHRも終了した。

 みるくはかなり疲れたようで体をぐったりさせながら俺の所に来た。

 

 「りょーくん、疲れた……」

 「お疲れ様、どんな感じだった?」

 「もう、皆酷いんだよ!?私がなんで休んでたのとか付き合ってだとか可愛いだとか」

 「ははは……散々だな」


 みるくの話を聞いていると掃除を終えたのか、教室に戻って来た心々音が俺らの所に来た。

 

 「あ、涼真くんとみるくちゃんここに居てくれましたか」

 「ああ、ちゃんと付き合うために居てやったぞ?」

 

 クラスに残っていた同級生がこちらに視線をやる。

 謎の緊張感がクラスに走った。


 「ふふっ、紛らわしい言い方をしますね。何かを狙っているんですか?」

 「いえ、何も?俺たちは元々こういう関係だからな」

 「どんな関係なんでしょうかね」

 「それは分からんな」


 ぐったりしていたみるくが異様に俺に視線を送って来る。

 このまま心々音と会話を続けたらグーパンチが飛んできそうだったので、本題に入る事にした。

 

 「それで、付き合って欲しい事って何なんだよ」

 「ああ、そうですね……ここで話すのはあんまりよろしくないですね」

 「なんでだよ」

 「ひ・み・つの特訓ですから、今日はとことん付き合ってもらいますよ?」


 この心々音のセリフにより、宮下心々音と荒川涼真が付き合っているかもという噂が流れたのであった。



 外に出た俺たちは電車を待っていた。


 「おい、そろそろ教えろよ」


 未だに何に付き合って欲しいのかは聞いていない。

 「ふふっ」と心々音が不気味な笑みをこぼした。

 

 「それはですね……」

 「それは?」

 「カ・ラ・オ・ケです!」

 「はぁ……?」

 「はい?なんですか?」

 「俺帰るわ」

 

 呆れた、あの日俺がカラオケに行けなかったことを根に持って俺の事をおちょくってるのかと思ってしまう。

 だが、心々音は「まぁまぁ、少し待ってください」と俺を引き留めた。


 「別に涼真くんを煽っているわけじゃないです」

 「じゃあなんなんだよ」

 「私、実は歌が凄い下手くそで……配信で歌枠がつくれないんですよね」

 「は、はぁ……」

 

 歌枠とは何か分からないがとりあえず、歌が下手だから練習に付き合えという事か。

 

 「カラオケ!?私も行きたーい!」


 隣に居たみるくも乗り気だったので俺は心々音のカラオケに付き合う事にした。


 「仕方ないな、それでどこのカラオケに行くんだ?」

 「そうですね……大泉のカラオケは北嶺生が多いので少し遠いですが北野の方にしますか」

  

 場所を決めたところで電車が来たので乗り込んだ。

 

 席に座るや否や、みるくが心々音に話しかけた。

 

 「心々音ちゃんって歌そんなに下手くそだったの?」

 

 みるくが不思議そうに聞くと、心々音は少し難しい顔をした。


 「そう、すっごく下手くそなんだよね」

 「でも、歌ってみたとか凄い上手く聞こえたけど……」

 「あれはミックスしてもらってるからね。音源提供するのすっごい恥ずかしくて、提供したらしたらでミックス担当の人にも【キレイな歌声ですね】って棒読みで返されたぐらいなんだから」

 「そうなんだ」

 「それに比べて、みるくちゃんは歌上手いよね……」

 

 心々音は死んだ目でみるくに話しかけた。


 「そ、そんなことないよ。私も歌はあんまり自信ないから……」

 「でも、涼真くんに乱入された日も歌枠取ってたじゃん」

 「そ、そうだけど!あれは運営さんにそろそろ歌枠やれって言われてたから仕方なく……ああもう、思い出しただけでも恥ずかしい……」


 何だか空気が悪くなってきた。

 それにしても今日はみるくから心々音に話題を振るというなんとも珍しい事が起きている。

 どこかで仲良くなったのだろうか。


 「お前ら、何か少し仲良くなったか?」

 「どうしたんですか?急に」

 

 心々音は不思議そうにしていたがみるくは違った。


 「うん、私心々音ちゃんのこと好きになった!」


 みるくがそう言った瞬間、心々音は何かに打たれたかのように倒れた。

 

 「ちょ、ちょっと心々音ちゃん!?」

 「みるく安心しろ、これがコイツの素だ」

 「え……?」

 

 飯を食った時以来、ずっと考えていたが宮下心々音という人間はオタクだと思う。

 その証拠に今もとろけた顔をしている。


 「おーい、心々音さーん?」

 「す、好きって……へへへ……」

 「だめだこりゃ」


 みるくの攻撃によって心々音がダウンしてしまったので、なぜ好きになったのか理由を聞くことにした。


 「何か好きになる理由でもあったのか?」


 そう聞くと、みるくは嬉しそうに話し始めた。

 

 「今日ね、私がクラスメイトに囲まれて困って泣きそうになってたの。そしたら心々音ちゃんがね、【皆ごめんね、みるくちゃんは私のものだから手出しはさせないよ】って言ってくれたの!」

 

 俺は苦笑した。

 クラスで一番可愛いと称されている人が不登校だった子の事を「私の物」って言ったら手出しは出来ないよな。

 まあ、二人の仲に進展があって俺は良かったと思う。

 

 「だからね、私。心々音ちゃんのこと大好きなんだ!」

 「おうっ」


 また何か聞こえたが気にしないようにした。

 

 「次は北野~北野~」

 「あ、もう着くね」

 「そうだな」


 みるくの攻撃でダウンした心々音を蘇生させ電車から降りた。


 「いや~危なかった。じゃあ、二人とも、今日は私の歌のコーチとしてよろしく頼んだ!」

 「ああ、分かったよ」

 「心々音ちゃんの歌、楽しみ~」


 こうして、心々音の歌の練習に付き合うべく三人仲睦まじくカラオケに向かった。

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