どうやら俺はⅤtuberの配信に乱入してしまったらしい。

  チャイムを押した、しかし反応は無い。誰も居ないのか?と思いつつドアノブを引くと、扉は開いた。まさか倒れているんじゃと思い俺は急いで中に入った。 

 すると二階から「みんな~の声が♪」と楽しそうに歌う声が聞こえてきた。

 良かった、倒れているわけじゃないのか。

 俺は胸に手を当て、息を吐き安心した。


 どうやらこの歌は二階から流れているらしい。俺は「おじゃまします」と言いみるくの家にあがった。

  それにしてもこの芳香剤の匂いがうっすらと香るこの感じ、懐かしい。

 最後に来たのは中学3年生の頃だったか。

 俺とみるく、二人で遊んでて俺がモジモジしてたんだよな、そしたらおばさんが俺の事茶化して……そっか、もうおばさんは居ないのか。

 俺は階段を上がり、歌声が聞こえるみるくの部屋まで来た。

 勝手に入るのは悪い気がしたので少しだけ扉を開けて中を観察する。

 中の様子は詳しくは上手く見えない部分もあるが、カーテンは閉め切っており、部屋は真っ暗に近い。良く見えるのはパソコンの光で照らされている、みるくの周囲だけ。

 みるくは白いヘッドフォンをして頭を愉快に揺らし、謎の歌を歌っていた。

 

 「それじゃあ、もう一曲だけ行こうかな。」


 みるくはそう呟くと、パソコンをカタカタと打ち始めた。

 そしてまた頭を揺らし、今度はさっきの歌とはまた違った歌を歌い始めた。

 ここで俺は今日ここに来た目的を思い出した。

 みるくにプリントを渡さなければ。

 俺はみるくの部屋にそーっと入り、みるくのそばに近寄った。

 みるくのパソコンにはギャルゲーのヒロインのようなキャラクターが映し出されていた。

 見た目は白髪ロングで碧眼、服は肩が見えるオープンショルダーを着ている。

 みるくの肩を叩くが曲に集中しているのか反応は返ってこない、仕方がないのでヘッドフォンを外した。


 「君の気持ち~ってあれ、なんで音が……ってきゃあ!だ、誰!」

 「そんなに驚くことないだろ!」

 「だ、だれなの……?てか今、配信中なの!」

 「配信中と言われてもなぁ」

 

 俺からしたら、何が何だがわからない。

 配信中?配信ってリアルタイムでゲームとかする生放送の事か、まぁどうでも良い。

 みるくが戸惑っている間に俺は持ってきたプリントをみるくに渡した。

 

 「はい、先生からプリント渡せって言われたから持ってきた」

 「え……?」


 みるくは上手く状況が呑み込めていない状態だった。

 しかし、特に話すことはないので俺はプリントを近くの机に置いて、帰ることにした。

 「じゃあ、俺は帰るわ。みるくが元気そうで良かった」

 「みるくって、もしかして……」


 みるくは何か言いたそうだったが、俺はそれを無視して家を後にした。

 あいつも大変そうだし、そっとしておくのが良いだろう。

 しかし、次の日俺に待っていたのはいつも通りの平々凡々な生活ではなく、炎上だった。


 ~~~


 今日は土曜日。

 俺は部活動には入っていない、そう帰宅部なのだ。

 だから部活動も無いので一日中暇なのだ。

 何しようかなと思いスマホを手に取り、電源を着けると不在着信が30件ほど入っていた。

 何事だ!と思い不在着信を確認してみるとそれは全てみるくからだった。

 一番最近のもので朝の5時、まだ寝てるっつーの。

 俺はみるくに電話をかけた。

 すると2コールもしないうちにみるくが出た。


 「もしも――」

 「もしもしじゃないわよ!あんた!」


 鼓膜がぁ、鼓膜がぁ、俺の右鼓膜は破壊されかけた。

 しかし、なぜこんなに怒っているのだろうか。

 俺は昨日なにかしただろうか、プリントの中に何かいけない物でも入っていたのだろうか。


 「ど、どした」

 「あんた、Twltterやってる?」

 「ま、まぁ…」

 「それで、中野みるくって調べてみて!」

 

 俺が「なんで……」と言うとみるくは「いいから早く!」とこれまた鼓膜を破壊するレベルの声量で言った。

 まぁ、これだけ言うのなら重大な事なのだろうと思い俺は検索をかけた。

 ちなみにTwltterとは、アメリカの会社が開発したSNSで限られた文字数になってしまうが、多種多様な情報を世界中の情報を知ったり、調べたり出来る便利なアプリだ。

 検索してみると、画面の一番上に【中野みるく、彼氏が帰ってきて配信大荒れwww】というタイトルの動画が出てきた。

 動画を再生してみると、昨日見たキャラクターが歌っている所に男性の声が入り、やがて喧嘩になるという内容だった。

 この動画を見て俺は察した「昨日の俺じゃん」と。

 

 「ねぇ、見た?りょーくん!」


 りょーくんとはみるくが俺を呼ぶときのあだ名だ。

 今はそんなことどうでも良い。

 リプ欄を見ると「可愛かったから推してたのに……」というリプや「プリント渡しに来たって言ってるから彼氏じゃなくね?ww」というリプなど、様々なリプが飛んでいた。

 そのツイートはいいねが5万、リツイートは2万というとんでもない数字を叩き出していた。


 「い、今見た」

 「どうしてくれるの!」

 「ちょ、直接会って話そう、俺がそっち行くわ」

 「わかった」

 

 とんでもないことになってしまった、まさかあの配信でこんな事になってしまうとは。

 俺は急いでパジャマから私服に着替えてすぐにみるくの家に向かった。

 チャイムを押すと昨日とは違ってみるくが出迎えてくれた。

 しかし、昔のように嬉しそうにではなく今はムスッとしている。

 

 「どうぞ」

 「お、おじゃまします」


 家にあがるとリビングではなく、みるくの部屋に案内された。

 昨日と変わらずカーテンは閉め切っており、明かりがあるのはパソコンだけ。

 「確かこの辺に……」とみるくが壁に手を当てている、きっと電気のスイッチを探しているのだろう。

 俺は昔の記憶を頼りに電気のスイッチを押した。

 

 「あっ、ありがと」

 「お前、部屋の電気のスイッチ分かんなくなるって何してたんだよ」

 「うるさいなぁ、それより!昨日の事どうしてくれるの!」

 「ぐっ……」

 「運営さんからも連絡来て、もしかしたら私クビになるかもしれないんだよ!」


 ク、クビ、何がクビになるのか分からないがまずい気がした。

 もしかしたら、みるくの生きがいは配信だけかもしれないのに、それがなくなったらみるくは……


 「なーんて冗談です」

 

 は?こいつ今なんて言った?


 「なんもこれぐらいでクビになるわけないじゃん」


 クスクスと笑いながらみるくは俺の事をおちょくる。

 このガキ、心配してた俺がバカみたいじゃないか。

 

 「なんだよ、焦らせんなよ」

 「でも、ちゃんとリスナーに説明はして欲しいかな」

 「説明?」

 「そう、りょーくんが帰ったあとすっごく大変だったんだから」

 「嘘つけ」

 

 「ほんとほんと、昨日の配信のアーカイブは運営さんから非公開にしろって言われて非公開にしたけど、私ちゃんと録画しておいたんだよ?」と言いみるくは一つの動画を見せてきた。

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