どうやら俺はこれから配信に出続けなければいけないらしい。
動画には視聴者に対して「皆さん落ち着いてください、あれは私の幼馴染です。婚約者などではありません、まず私は結婚をする気がありませんから」とみるくの声と若干違うが、みるくの面影のある声をしたキャラクターが喋っていた。
「は?これの何が大変だったんだよ」
「私はこれでも清楚キャラで売っていましてね」
「しらねぇよ」
「だから、清楚っぽいこと言えば落ち着くのです」
えっへんと言いたげな顔をしているが俺がそれを阻止した。
「こんなんで炎上が収まるわけあるか、アホ」
「けど最近、清楚キャラが壊れ始めたからネタに困ってたんだよね」
「ていうか、どこまでが嘘でどこまでが本当なんだ?それだけハッキリしてくれ」
何が嘘で何が本当なのか分からないと、俺もどうしようもない。
それに、みるくは両親を亡くして心に深い傷を負っているはず。
それなのに、こんなに元気になのは配信が関係していると思う。
「運営さんから連絡が来たのは本当、でもクビは冗談」
「ほとんど本当のことじゃねぇか!」
「運営さんに説明するの大変だったんだからね!幼馴染ですって言っても「付き合ってるんでしょ」とか「許嫁なんじゃないの?」とか全然信じてくれなくてさー」
みるくは頬をぷくーっと膨らませたあと、俺に無言でパンチしてきた。
もちろん、痛くはないがな。
「あの~みるくさん、無言でパンチするの止めてもらえます~?」
俺が止めるように言ってもパンチは続く。
「分かった分かった、俺に何をして欲しいのか言ってくれ」
すると、みるくはパンチを止めた。
こやつ、清楚キャラで売っていると言っていたが幼馴染の俺が一言言わせてもらう。
絶対にキャラ、合ってないから。
もう、幼少期のみるくは本当に酷かった。
一緒に遊んでいて俺がトイレに行こうとすると泣き出すし、俺が帰ろうとしても泣き出すし。
だから、みるくが泣き止むまで帰れなくて泊まらせてもらう日とかもあった。
みるくは小さい頃からずっと俺にべったりだった。
それこそ中学時代も幼少期ほどではないが一緒に帰っている時に「手繋ごう?」とか言いだすこともあった。
だけど俺以外の人前では内気な感じだった。
そんななのにみるくさんは今、清楚キャラで売っているそうですね。
私、とっても不思議です。
「コラボ相手になって」
「コラボ相手って俺はお前のやっているような配信者じゃないんだぞ」
「けどりょーくん、中学校の時友達からイケボって言われてなんかやってたじゃん」
俺には掘り返したくない過去がある。
中学2年生の時、男友達に「涼真ってイケボだよなぁ」って言われてた。
それが一人だけなら「こいつ、ふざけて言ってんだな」ってなったけど、クラスの大半の男子に言われてたんだ。
それで有頂天になって、調子に乗った俺が【Ryo.】ってアカウントを作って、シチュエーションボイスを上げた。
最初は自分でも馬鹿らしく思っていたが、日に日に再生回数は増え、俺がチャンネルを消す直前では100万再生になっていた。
「あれは……掘り返さないでくれ、恥ずかしい」
「照れてるりょーくん可愛い」
「おちょくるな!あと照れてない!」
「えへへ~?そうかな~?」
くそ、調子が狂うな。
みるくだって可愛いんだから、少しは自覚しろよ。
みるくは宮下さんと比べるとだいぶ子供っぽいが、その子供っぽい部分がみるくの内気な性格とマッチしてめちゃめちゃ可愛い。
「てか、なんで知ってるんだよ」
「私に一番最初に教えてくれたじゃん」
「そうだったか?」
「うん、りょーくんが「皆イケボって言うから投稿してやったぜ」って私の家で言ってきた事、今でも覚えてる。」
「そうだったか……てかあのチャンネルはもう消したはずだから、俺は配信者ですらないんだぞ?」
「え?」
みるくはポカンとした顔を俺に見せる。
だって、あのチャンネルは一本しか動画を上げてないのに再生回数がとんでもないことになって学校側にバレたらヤバそうだったから消したはず。
なのになんでみるくは不思議そうにこちらを見るんだ?
「りょーくんのチャンネル、まだ残ってるよ?」
「え?いやいや、俺消したから」
「私ちゃんとチャンネル登録もしてるもん。ほら」
みるくは俺にスマホを見せて来た。
画面に映っていたものは正真正銘、昔俺が作った【Ryo.】というチャンネルだった。
動画は一本しか上がっていないのにチャンネル登録者は7万人を超えていて、一本しかない動画の再生回数は300万再生を越えていた。
しかしなぜチャンネルが残っている。
俺は確かにあの時チャンネルを消したはず。
何か記憶違いかもしれないと、あの時の事をよく思い出した。
どんどん再生回数が増えて行って、怖くなって、そして焦ってチャンネルを削除……ログアウト?
俺ははっきり思い出した。
あの時俺は焦ってログアウトさえすればチャンネルが削除出来ると思ったんだ。
「りょーくん、何か分かった?」
「……ああ、思い出した。俺はあの時チャンネルを消したつもりだったけど多分ログアウトしたんだと思う」
「なるほど、それで消した気になってたけど実はチャンネルは残っていたと」
「うん」
俺は自分のスマホを取り出しログイン画面にパスワードとアドレスを打った。
すると、【Ryo.】というアカウントにログインできた。
「ほらこれ見て。ログイン出来た」
「おお~、約一年振りのログイン」
「で、俺はどうすれば良いんだ?」
「んーとね、そのりょーくんパソコンで配信とか動画とか投稿出来る?」
「まぁ、シチュエーションボイスを撮った時に少し勉強したから、多分出来る」
「そっか、じゃあ明日釈明配信するからその時は、お願いね?」
釈明配信……?こいつは一体何を言っているのだろうか。
「おいおいまてまて、釈明配信?訳が分からないのだが」
「もう、理解してよー。明日、私の配信に出るの!」
「それで……?」
「そして事の経緯を説明した後、りょーくんは【Ryo.】として、私は中野みるくとしてこれから一緒に配信していきます!って視聴者さんに説明するの」
それって、一生配信に出続けないといけないって事じゃないか……?
恐る恐る俺はみるくに聞いてみると「そうに決まってるじゃん!」と100点の笑顔で答えを貰った。
終わったわ、俺の青春。
たった数十秒配信に移り込んでしまっただけで思い描いていた、夢のスクールライフが粉々に破壊されてしまった。
「じゃあ、これからよろしくね!」
俺は「ああ……」と死んだような声でみるくに返答した。
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