ある女の仕事
いつも一番になれない。
好きになる人と友達以上になれなくて、燻る私の恋。
仕事もそんな感じ。
本が好きで編集者を目指してたけど、実力のある人は星の数程いて、自分の無力さを知った。
そんな時見つけた次の夢。それが今の仕事だった。
空を飛びたい。
その思いで、CAになった。
気がついたらもう十数年。
毎日沢山の人に会ってるのに、まだ大切な人に出会えてない。
飛行機に乗り込むと不具合で1時間の遅れが発生すると、整備士から伝えられた。
「わー。」ついて出た言葉。
「信乃ちゃん。お疲れー。」話かけられたのは、
機長の明智さん。
「お疲れー。じゃないですよ!今日長いのに、、って、一緒じゃないですか。」
「だねー。もう今日はダメかぁ~。」笑いながら場を和ませてくれる素敵な紳士。人として尊敬できる。
「ゆっくりいこー。焦ってると、お客様に伝わっちゃうからね~。」にこやかに私達に配慮してくれる。
「気を付けます。」と、私が言う。
「皆さん、どーぞー」小早川がギャレー※から人数分のコーヒーを淹れきた。
「気が利くー」私が言うと、
「私の愛がこもってます。」と、小早川。
不覚にも笑った。
整備士から「操縦室の不具合なので、もしかすると、このまま飛行不可かもです。」と、言われて今日の終わり時間を考えると絶望した。
その時、ケータイが鳴った。会社からの電話。
「お疲れ様です。武内です。」出ると、冴木さんからの電話。武内とは私の名字。
「武内ちゃん。冴木です。残念なお知らせなんだけど、、。」冴木さんは私達のスケジュール管理をしてる部署の人。私が好きだった人。
「欠航になるみたいだから、スケジュール変更です。」やっぱり。「そーだろーなーって思いました。次はどこ行きですか?」
「今から機材変わって、伊丹往復になりました。」「伊丹なら日帰だし、全然大丈夫です。」冴木さんと話せるだけで元気になる、自分が恥ずかしい。
「明日の勤務変更は後で皆にメールするので。気をつけてね。忙しいけど、宜しくお願いします。行ってらっしゃい。」優しい口調がやっぱり好きだと思ってしまう。
「機材変更です。伊丹往復になりました。ビジネスの人、連休前の方が多いので、皆の笑顔で癒してあげてね。」アナウンスで一緒の仲間に伝えた。「さっすが、パーサー。皆の扱い方分かってるぅ~」小早川がふざけて言う。
満席、飛行時間が短い中、サービスも忙しく時間が過ぎる。大型連休前で家路に急ぐ人、家族、カップルで手を繋ぐ人を見てると、沢山の人生を見てるな、とも思う。
「CAさん達、明日仕事なんですか?」話の中でお客様に聞かれた。「明日も仕事なんです。皆さん大型連休で羨ましいです。」人混みが好きじゃないので、別に羨ましくはないけど。なんて、思ったりするのは、疲れてるからですかね。
伊丹からのバタバタ忙しい便を終えて、
「羽田空港に到着致しました。本日のご搭乗ありがとうございました。」アナウンスをしながら、ふと窓の外をみると、夕陽に照らされた空港。
あぁ、今日も仕事したなぁって思う瞬間。
仕事は好きかもって思う。神様、無い物ねだりをしてすみません。なんてこと、頭で考えていた。
飛行機を降りてオフィスへ着くと、
「武内さん明日なんだけど、千歳便D/H※に変更してます。」冴木さんが伝えて来た。
「D/Hだけですか?」
「武内さんの乗務時間の関係でね。朝イチしか座席空いてなかったのは、申し訳ないけど。」
すかさず「えー信乃先輩ずるいー。明日私、その便、乗務なのにー。」と、小早川が可愛く言う。「武内さん今月働き過ぎだからだよ。」と、冴木さん。
「ごめんね。小早川。」
「いいなぁ~頑張りまーす。」と、ちょっと拗ね気味の小早川をなだめた。
※ギャレー 乗客に食べ物を準備するところ
※D/H(デットヘット) 乗務ではなく、お客様の座席に座って飛行機で移動すること。
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