第349話 自由すぎる時間
「さてさて、さっそく一杯ひっかけるかねぇ」
「ほぉう。会いたかったぞ」
「あの……それは……任務中にお酒は……駄目なんじゃない、でしょうか?」
「
堂々とした態度に、
「いや。アルコールは精神刺劇薬じゃなくて抑制剤の方では? モルヒネとかの鎮痛剤の」
「だから疲労回復だっつーの! 酒は命の源だ! 水がない時は酒を飲んで生き伸びてきたんだ。安心しな、私はのんべぇだから酔わないさ」
にやりと不敵に笑って、
とろりんとりんとし目に恍惚の光が宿る。
ちびちびと一人酒を楽しみ始めた
「見なかったことにするか」
「そうしよう」
あれこれ言っても聞く耳がないのなら無駄だと諦めた。しかし何かあったときに告げ口してやろうと心の隅には留めておく。
「センセーが酒飲んでるなら、俺はこれで遊ぼっと」
スイッチを入れると音が流れる。大きい音だったので部屋に響いた。
慌てて音量を小さくするが、数人の女性が『いつまでも恋の寸止め』と可愛らしく囁くセリフが響いて、
「すみませーん」
「氷見妃美ちゃんがもうすぐ攻略できそうなんだよねー。みてみて」
と
「俺は解析したいから話しかけるな」
仕事をしていると伝えれば引っ込むはず、そう考えていたが。
「なーあ磐倉! 手伝ってくれー! これー! これみてー!」
「やめろ」
イラっとしながら払いのけると、
画面にアニメタッチの青いツインテ少女が映っていた。頬が染まり怒ったような表情をしており、セリフ欄にツンデレっぽい言葉が並んでいる。
これがいま、
「氷見妃美ちゃんいっつもあと一歩なんだよ。セリフ選び間違えたり好感度上げ切れなかったりで告白してもらえないんだよー。助けてくれーアドバイスよこせ!」
「殴るぞ」
しかし
「このセリフはどっち選べばいいと思う? 今までの会話の積み重ねがあるから、同じセリフでもルートによって好感度の上がり下がりが違ってくるんだけどっ! どう思う!?」
「……呆れた。たかがゲームでそこまで必死になれるのか?」
「お前ならどっちだと思う? アドバイス!」
自由時間と言い渡されたゆえ遊んでもいいが、どうも釈然としない。
モヤモヤする気持ちがあるものの、深呼吸をして洗い流した。
「未習得のゲームで好感度が上がるセリフを選べるわけない」
「よし聞け。氷見妃美ちゃんはエーントララレスリーノという架空世界にあるニーニノーホという国にあるマズアスリウリョウ学園に通う名家のお嬢様で、厳しく育てられてしまったせいで両親の愛情を受けていないと思い込み、恋とか愛に否定的でだな」
聞いてもいないのに、キャラの生い立ちやイベントの流れや好感度の上がりやすさが熱く語られ始めた。
どうやら絡みからウザ絡みに進化したようだ。
耳に吐息がかかる位置で聞きたくもない情報がつらつらと並べられてキレそうになるが、任務中に喧嘩してはならないと理性が働く。
そこでポケットからL版サイズの手帳を取り出してページを開き、挟まっていた一枚の写真を見つめた。
これは
一軒家の庭先、ラフな姿でピースをしている
写真をジッと見つめる
この写真は磐倉の精神安定剤であった。
気持ちが落ち着いたので、手帳を閉じて胸ポケットに収めると、ちょうど
「ってことで、どっち選んだらいいと思う?」
全く聞いていなかったが、ウザ絡みレベルを上げないため選択肢を適当に選ぶことにする。
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