第324話 想定外だ!
耳に心地よい音に絆されることなく、
「遅い起床でなによりだよ。何週間寝てたと思ってるんだい?」
「仕方ないよばーちゃん。俺の体にぼくちゃんの呪いかかってるんだから。今だってちょっと動くだけでも命削ってるんだから。寝るくらい大目に見てよ」
「この色ボケ男が!
「流石、清栄様」
「報告すんだよ!」
「はいはい。分かってますよぉー」
「軽すぎだクソ孫が!」
「まぁいいじゃん。まだ生きてるんだから。起きてすぐのお説教は勘弁してよぅ」
まるで子供にようだと呆れた
禁忌を扱うことは今に始まったことではない。ただ今回扱った禁術は全ての世界の禁忌だったため回避が出来なかっただけである。
「たった一か月程度寝込むだけで済んで良かったわい。悪運が強いのはお前の長所だなぁ。それで、寿命はどこまでありそうか?」
「うーん。八十年は残ってるよ」
「ならばよし。次にやることは分かっておるよな?」
「適当な女を攫ってきて新たな神に捧げて孕ませて逃がす、だよね。それか奪って育ててから頃合いを見計らってアメミットに保護させる? ってその場合は俺が育てるの?」
めんどうだよー。と間延びした声を上げて、だるそうに片手で顔を隠す。
「どっちでもええわい。私としては女を逃がして勝手に育ててもらった方が楽だとおもうぞ」
一気に飲み干してから、げぇっぷ、と息を吐く。
「しかしまー、それだけの代償を払っても
「何ってんのばーちゃん。瑠璃ちゃんの霊魂は消滅したよ。残っているのは肉体だけ。今頃病院の集中治療室に寝かされてるんじゃない?」
「いいや。
「そんな馬鹿な! 確かに俺は瑠璃ちゃんを消滅させたのに……」
自身の発言きハッとして、ソファーから立ち上がった。
「そうか、霊魂が消滅した隙に、誰かが勝手に体の中に入り込んだ。そうに違いない!」
「たまたま入り込んだ魂が空気を読んで息吹戸のように振る舞いあまつさえ神鏡能力で参戦しておる。そんなうまい話があるもんかねぇ? 魂に傷を負った副作用というのが自然じゃなか?」
「絶対そうだって! でないと瑠璃ちゃんの肉体が動けるはずがない! そもそも彼女に神鏡能力はないから! それこそが偽物の力だよ。どうせ生に未練たらたらの死霊が入り込んだんだ。ムカつくっ!」
「くっそー! 人工霊魂を突っ込んで恋人にする計画だったのに横取りされてしまうなんて想定外だ! 変態な霊魂が入ってたらどうしよう。ビッチとかになってたらどうしよう! 初体験は僕のものだと楽しみにしていたのに畜生! あの時、無理してでも持って帰るべきだった!」
相打ちになりそうだったが、一瞬だけ力が上回ったことで
昏睡状態の肉体を持ち帰れば御の字だったが、自らの霊魂を半分以上削るほど力を出しきってしまい、そんな余力が残っていなかったうえ間が悪いことに、
異空間迷路になっているとはいえ、鼻が利く彼が追ってくるのは目に見えている。
衰弱した状態で出くわせば確実に負けると懸念し、
結果だけで言えば、
ビルから出た直後――時間にすれば五分も満たない――に、
近くで待機していた中間がすぐに彼を保護したため最悪の事態は免れた。
とはいえ、手に入ったはずの獲物が予想に反して勝手に動いていると知り、
「あああ想定外にもほどがある! 持って帰れなかったのは
「まぁ……お前の判断は正しいと思うぞい。
鉢合わせの確率はとても高い上、瀕死になっても攻撃を止めないしつこさは頭痛の種であった。
「あああもう悔しい! せっかく色々用意した服を着せようと楽しみにしてたのに、まだお預けとか最悪!」
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