第339話 些細な違いから膨らむ憶測
どよん、と曇った空気を背中に背負いつつ、
彼女はたった今、眠気が吹っ飛んでしまうほどの恐怖を味わってきたところである。
「つ、かれたぁ」
六十分びっしり、
まず初動の封じ込め失敗の原因を述べるだけでメンタルに響いた。
そこから一度目の撤退、
その後に
失態を掘り返されて苦痛を覚え、返答に詰まると大勢の命を引き出されて責任を問われる。
苦しくても責任転嫁もできない。まさに針の筵をたっぷりと味わった時間だった。
「久々のお説教は効いたぁ……始末書も書かないと」
「でもまぁ、次頑張ればいいか! 生きたもん勝ち!」
怒られたことを頭の隅に押しやって、
彼女は今、
元気だな、と生暖かい視線を受けながら、食料を取りに女子ロッカー室へ向かった。
ドアを開けて中に入る。入ってすぐはロッカーの背があるため中はみえない。
右に進むと長いベンチがある。
今度は左に曲がるとロッカーがコンクリート壁に敷き詰められ、背中合わせで列のように並んでいた。部署ごとに配列され名札に色がついている。
ロッカーの中央は荷物置き兼ベンチがおかれて、休憩をしたり着替えができるようになっている。両手を伸ばさなければ余裕で着替えられるスペースだ。
スリムロッカーL字二人用であり、
その隣は
その隣が
「さぁて、お菓子はぁっと」
指紋認証でロックを解除したあとに、チョコスナックを五袋取り出す。全部食べるわけではなく任務で迷惑をかけた
詫びが二百貨以内のお菓子ではやや誠意に欠ける気がするが、これをネチネチという輩ではないことを知っている。喜んで受け取ってくれるであろう特に
バタンとロッカーを閉めると。
「ええっ! それホントの話!?」
二つ向こう側のロッカーで驚く女性の声が聞こえた。
「ほんとほんと! すっごくおしゃれしてたの! びっくりするくらいに!」
「まっさかぁ。
「うんうん。私も制服以外は見た事なかったから驚いてるんだってば。誰か分からなかったくらい化粧も上手で」
「えー。意外。あの人、へたくそなイメージがする」
「おなじく」
「それでね。荷物を大切にしていたことから推測すると、デート帰りとか考えられるんじゃない?」
「ありえなーい」
「ないでしょそれ」
「なぁなぁワタシも混ぜてくれよ!」
突然の乱入者にベンチに座っていた女性たちが「ぎゃあ!」と悲鳴を上げた。
本人に聞かれたと思ったようで顔を真っ青にしていたが、
談話していたのは開発部の女性職員だ。今はお昼休憩なので、ここでお菓子を摘まみながら話に花を咲かせていたようだ。
「しょ、
女性達で一番年上である
「ちょっと聞いてくださいよ。
隣に座る二十歳女性、開発課研究部の
「で。息吹戸がなんだって?」
続きを催促する。
「滝登りドームで事件があったじゃないですか」
開発課研究部の関あずさの何気ない一言に、
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます