お説教もサブスク化する時代じゃない?
「先生のちょー鬱陶しいお説教もさあ、サブスク化すればいいのに」
と、マキナちゃんがわたしの机の上に座りながら言った。準備しておいた教科書とノートがその可愛い丸いお尻に踏まれているけど気にしない。
だって、マキナちゃんに言っても仕方ないし。
「さっきまで怒られて泣いてたけど……、あ、だからサブスク化すればいいって思ったの?」
「はぁ!? 泣いてないし!!」
いや、泣いてたよ……、わたしも後ろで見てたし……でもあれはマキナちゃんが悪いと思う。何度も何度も注意されていたのに、マキナちゃんが後ろを向いて喋るからでしょ……。
「サブスクって……、映画とかアニメとか音楽の配信サービスのこと?」
「びじねすモデルって言うんだって。見たいアニメにお金を払うんじゃなくて……、定額? を払っていれば、用意されてる全部が見られるってサービス。パパとママが登録してるからあたしも見れるんだよー」
わたしもお父さんとお母さんが登録してくれているから見ることができる……、昔はレンタルショップに借りにいっていた、と聞いたことがあるけど……そんなお店があるんだね。
お母さんが言う、借りたい映画が他の人に借りられていて見られなかった、なんてことはネットに繋げてしまえばあり得ない。手軽に見たいものを見れる時代になった、って呟いていたのを聞いたことがある。
だけど意外と、いつでも見れるから、って理由で今すぐには見ないんだよね、とも言っていた……、便利になるとこういうこともあるらしい。
期限が決められている方が見るのかな。
締め切り間近の宿題みたいなものなのかも……。
「そのサブスクがどうかしたの? あ、お説教をサブスク化するって……?」
つまり、いつでもどこでも自分のタイミングで先生のお説教の内容を聞けるようにするってこと……? でもお説教の内容なんか、状況によるでしょ。
「学校でそういうサイトでも作ってくれればさ、あたしたちが悪いことをした時に、その場で怒るんじゃなくて、怒る内容を録音して、後でサイトに上げておけば、あたしたちが自分たちで聞くことで時間短縮になるじゃん。だって授業を止めてまですることかな? 先生が自分で止めておいて『いまお前はみんなの時間を奪ってるんだぞ』って――いやそれあんたでしょ」
口が悪いというか考えが悪いというか……マキナちゃんらしいけどさ。
じゃあその場で言ってあげたら良かったのに……、と思うけど、泣いていたマキナちゃんには無理な話だよね。思っていても言える度胸はないだろうし、冷静になればぽんぽんと案が浮かんでくるのはマキナちゃんに限ったことじゃない。
「言い返すと『口答えをするな』って言うし……、こっちの意見が言えないならリアルタイムで聞いてる意味ってある? どうせこっちには『はい』しかなくて、『いいえ』は拒絶されるんでしょ? それって後で録音されたお説教の内容を聞くのとなにが違うの?」
うーん、共感できちゃうなあ。口答えをするな、ってよく言われるけど、脇が甘いからでしょ。ランドセルを背負ってる女の子に言い返せちゃうような隙を見せる先生が悪いと思うけど……、理屈は無視で、上から力で押し潰される体験をさせてくれているなら、これはこれで必要なことなのかもしれない……。
マキナちゃんには、するべきかもね。
この子は弱みを見せた相手にはほんと、なめた態度を取るから。
「ようはお説教の内容があたしに届けばいいわけじゃん。だったら口頭だろうとイヤホンだろうと一緒じゃないの? ねえ、まほろもそう思うでしょ!?」
「うーん……まあ、面白いとは思うけどね。生徒が悪さをして、内容を『お題』として上げて、この学校だけじゃない色々な先生のお説教内容を投稿させてリストにしておけば、生徒たちはそれを順々に聞いて評価ができるし……先生たちの腕が見られるってところもポイントかも」
悪さをした生徒への接し方、教え方が分かる。生徒側からすると、担任の先生以外の教育方針って分からないものだし、比較対象があると自分の担任が『当たり』か『ハズレ』か分かるしね。……ただこれ、先生たちを生徒が評価する形になるから、先生たちがやりたがるかな、ってところが懸念点だけど……というかそんなサイト、わざわざ作らないでしょ。
生徒には見せずに試験的に先生たちだけでやるのはありじゃないかな?
「ネットだと気が大きくなるって言うじゃん。実際、匿名だと他者を攻撃する言葉が強くなったりするし。面と向かっては言えないおとなしい子が、ネットでは超攻撃的だとか……本心とか本性とか、本当の実力が見れるって意味でも、『お説教のサブスク化』は良い案かなあと思ったんだけど……。温厚で怒らない先生ほど、お説教の内容がすっごい心に刺さるかもしれないじゃん。だとしたらもったいなくない?」
「うちの担任のあのお説教はダメだった?」
「ダメだね、聞く価値もないよ。サブスクで聞こうとも思わないよ、あれが『
ぎゃはは、と下品な笑い方をするマキナちゃん……うわあ。
クソガキだねえ……、わたし、知ーらないっ、と。
「マキナちゃん、授業、始まるよ」
「はーい、っと」
わたしの机から下りたマキナちゃんが、「――ひっ」と声を漏らした。
あー、気づいたんだ?
遅かったねえ、マキナちゃん?
「……気軽に取れるものじゃないぞ。
こっちは死ぬほど努力して、ここまで上がってきたんだ、バカたれが」
「せ、せん、せ……」
「
「ち、いえ、たり、まんぞ、くに――、聞いてました反省してますごめんなさいっっ!!」
こめかみを拳でぐりぐりとされたマキナちゃんが、泣いて謝っていた……あらら。
やっぱりマキナちゃんは、そうやって謝ってる姿が一番、可愛いよねえ。
「
「はい。なんですか? わたしは優等生ですけど言いたいことでもありますか、先生?」
「……お前みたいな生徒には効果があるのかもな……いや、刺さるのかもな」
先生はどうやら、わたしたちの会話に興味を持ってくれたらしい。
「説教のサブスク化。怒りづらい生徒には、渡しやすいコンテンツかもな」
「……勘弁してくださいよ」
もしも。
閲覧、視聴時間の履歴を確認されたら面倒なことになる。
聞くことが宿題にでもなったりしたら……、あ、でも流しておけばいいわけか。
ラジオと一緒だよね!
「……実際、荒垣よりもお前みたいな生徒が一番、やりづれえよ」
「ふふふ、ちょっとだけ頭が回る小学生はお嫌いですか、先生?」
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