第13話 幼馴染みは武道をたしなむ

 俺達兄妹の幼馴染み、三塚瑠璃みつかるりはたおやかな少女だ。

 クラスで委員長を任されるぐらいには、人望もある。惜しむらくは、三つ編みでもなければ眼鏡もかけていないくらいだ。


 そんな欠点らしい欠点が一つくらいしかない、たおやかな幼馴染みは俺を見ている。

 醜悪な表情を浮かべて。


「何だこの体。力が漲ってくる?」

 とり憑いた悪霊が驚いている。

 ん、まあ、瑠璃だからね。


 瑠璃の依り代よりしろ体質は異常だ。巫女とか童女に向いている。怪しげな新興宗教とかに目をつけられないか心配するレベル。


 それ以前にしょっちゅう何かに憑かれる。

 俺や祐実が絶えず気を付けていて、その度にお祓いする。俺が。祐実は祓えない。


「その体から離れろ」俺は怒りを抑えて、瑠璃にとり憑いた悪霊に言った。

「失うぞ」これは脅しだ。普段なら祓ったあと、お祭りして正しく精霊に移行させる。いずれ多くの精霊と交わり混然となって神のようなものになる。

 俺は霊魂の痕跡すら残さず消滅させると脅した。


「ふん。やってみれば? この体なら負ける気がしない」

 調子にのりやがって。上質の依り代を手に入れて気が大きくなっている。


 だが不利なのは事実だ。


「兄さん……」祐実が不安げに声をかけてきた。

 俺は振り替えることはしなかった。目の前の悪霊に集中していたから。

 大丈夫、兄さんが何とかするから。


 俺はカバンを開けて、短刀を鞘に入れた。鯉口を切ったまま。

 瑠璃に怪我をさせるわけにはいかないから。この時点で攻める手を制限されている。


 再度一枚お札を手にした。

 お札はの両面テープ外側の糊面保護シートを台紙に張り付けて、片手でも剥がせるようにしてある。お札は5枚用意してある。あと3枚。

 お札は3枚では足りないと、昔のお伽話が言ってたから。


 赤い紙に金の文字。金の社印を押してある。俺の手作り。字が上手くないところが気に入らないところ。習字教室も通ったんだけどな。


 塩は出さなかった。いやがらせ程度にしかならなかったから。


 俺はゆっくりと瑠璃に近づく。口のなかで大祓詞おおはらえのことばりながら。


 取り憑いている悪霊には実体があるから、実体として戦わなければならない。具体的には、頭部か体にお札を張り付けたい。


 俺は一歩踏み込んで、お札を持った右手を瑠璃に打ち出す。

 瑠璃は右斜めに踏み込んで体を沈める。

 瑠璃の左手は、俺の打ち出した手に合わせてカウンターパンチを打っていた。


 瑠璃の拳が俺の胸を打つ。俺は吹き飛ばされるように、たたらを踏んで後退した。


 瑠璃は武道を嗜むんだよな。

 俺も小学生の頃、瑠璃と一緒の剣道場に通っていた。

 けして俺は弱かったわけではない。ただ瑠璃にはセンスがあった。

 ある時期から瑠璃に全く勝てなくなり、つまらなくなって剣道をやめた。


 つまりそう言う事だ。


 俺が瑠璃に勝てるビジョンが見えない。



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