第12話 幼馴染みは必然的にあらわれる

「いやー! 岸田くん!」


 え? 何?


 短刀を抜いたところで、悲鳴が聞こえた。

 俺の意識が悲鳴の主に向かう。何故か女の子がいる。昨日睦瑞希を囲んでいたガキの一人。岸田くん大好きな中学生。

 何故? 俺の意識がショタコンの悪霊から逸れた。


 大失態だった。


 せっかく掴んだ悪霊が俺の手をすり抜ける。


「兄さん!」祐実の悲鳴のような叫びが聞こえる。

 まずい。俺は慌てて悪霊に手を伸ばす。

 届かない。


 悪霊は岸田くんには戻れない。俺がお札で封印したから。

 ショタコンは脱兎のように逃げたした。


 えー、逃げるの?

 俺は慌てて追いかける。


「兄さんのバカ! 何逃がしてるのよ!」祐実の叫び声が聞こえる。俺の後ろを走っているようだ。


「兄さん、使えない! バカなの!」

 ヒドイ。お兄さん泣くよ?


 悪霊は飛ぶように逃げる。

 いや、足無いから飛んでるのか? 浮遊?

 どっちでもいいか。

 最悪な状況には変わりない。


 悪霊が岸田くんに執着しているのはわかっている。でも、岸田くんの体は封印により、戻れない。

 では悪霊はどうするか?


 新しい依り代よりしろを求めるはず。そんな都合のいい依り代が簡単には見つかるわけがない。


 そう思いながらも、悪霊が真っ直ぐに俺の家の方向に向かった事に、不安を覚える。

 まさかとは思うが、都合の悪いことは的中する。つまり、悪霊にとって都合の良い偶然はおきる。


 俺の家の隣の家、幼馴染みの三塚瑠璃みつかるりの家の前。

 瑠璃が帰宅しようとしているところだった。


 瑠璃、弓道部の部活じゃなかったのかよ!


 これは偶然ではなく、必然だ。必然として、最悪な状況は準備されている。


「瑠璃姉!」俺の後ろを走っている祐実が叫ぶ。

 瑠璃は立ち止まって、俺たちの方を振り向く。


 意味がない。瑠璃には悪霊が見えない。祐実の警告の叫びは理解されない。


 俺の霊能力は、霊を見たりするだけではなく干渉もできる。しかし、それは俺が直接霊に触れることで、可視化したり触れたりできるだけだ。


 俺の手から逃れた悪霊は、普通の人には見えない。

 瑠璃は普通というには特別だが、本人に霊能力や霊感と呼ばれるものは備わっていない。


 彼女には、必死に走ってくる俺たち兄妹が見えるだけだ。


「!?」彼女の驚いた顔が見える。それはそうだ。突然名前を叫ばれて、見たら必死の形相で走ってくる幼馴染み兄妹。しかも、俺は抜き身の短刀まで持ってるしね。


 悪霊は躊躇無く、瑠璃にとり憑いた。


 間に合わなかった。俺は立ち止まる。後ろで祐実も立ち止まった。


 俺達の幼馴染みは、霊感はないくせに霊に寄ってこられる、依り代体質だった。


 この運の悪さは、もはや必然だね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る