第10話 待ち合わせ

 夕方の公園。いい感じにさびれている。夕暮れの住宅街は人通りも少ない。


 高坂祐実はメールをチェックしてから、公園に入った。


 辺りが夕焼けに染まる。逢魔が時おうまがとき


 約束の相手、岸田ひろは既に来ていた。

 一人で夕暮れの公園のベンチに座っている。なかなか様になるイケメンだった。


 下の名前がひろと言うことは人に聞いて調べてある。なかなかのイケメンで女の子の扱いが上手く、ガールフレンドは沢山。だが、特定の女子とは付き合っていない。

 イケメン過ぎて、中学生とは思えない。


 ただ、岸田は中学に入るときに引っ越してきたため、それ以前の情報はなかった。


「待たせたな、岸田」祐実は声をかけた。

「いえ、僕も今来たところですよ」岸田は立ち上がり、そう言って祐実に微笑みかけた。

「悪いな。実はお前に会いたがっていたのは、私の兄貴なんだ」

「? どう言うことですか?」岸田が怪訝な顔をする。


「悪いな、岸田くん」

 兄の洋介が、すまなさそうな表情で公園に入ってきた。


 もうちょっと、カッコ良く登場して欲しいな。祐実はどうでも良いことを思った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 吉川結衣は恋をしている。


 想う相手は同じクラスの岸田ひろだ。

 彼は中学に入学にあわせて引っ越してきたらしい。

 つまり、みんな条件は同じだ。同じクラスの女子のほとんどが彼に夢中になった。彼を好きにならない女子はどうかしていると思った。

 2年生になったとき、また彼と同じクラスになった。

 ついている。


 私は可愛い方だ。つきもある。

 そう結衣は信じた。


 当然のように、岸田と同じグループに収まる。クラスで一番目立つグループだ。その中でも岸田と結衣は美男美女のカップルに見えた。


 だが、見えただけだった。


 岸田は結衣とだけ付き合うことはしなかった。

 彼は沢山の女子と仲良くなった。違うクラスの子とも。上級生や下級生とも。


 だが、誰か一人を選ばなかった。彼はホストのようだった。

 もちろんホストが何か結衣は知らない。でもマンガやテレビで見るホストのイメージに近いことは感じた。


 結衣の不満はつのっていった。

 そこに現れたのは、嘘つき睦瑞希だった。


 瑞希は霊感があると言って、岸田に近づいた。

 岸田はいつものように、瑞希にも良い顔をする。

 だが、瑞希は落ちない。お祓いに行こうとか、意味不明な事を彼にいい募る。

 落ちない瑞希に岸田は、より落としにかかる。


 ここで結衣は間違いに気づいた。

 彼を落とすには、気の無いふりをするべきだったのだ。

 睦瑞希のように。


 嘘つき瑞希はクレーバーだと思った。そして怖くなった。

 結衣の取り巻きたちと、瑞希をしめようとしたら、知らない高校生に邪魔された。


 挙げ句に今日は、この中学校で一番美人と言われる3年生が岸田を誘いにきた。

 高坂祐実である。

 彼女は有名だから名前を知っている。


 彼女は瑞希の知り合いらしい。彼女が教室に来た後、二人が話をしていたから。


 もう一度瑞希を呼び出す。

 今度は高坂祐実に邪魔された。


 結衣はいても立ってもいられなくなった。

 ビビってしまった取り巻きたちを棄てて、一人で岸田の後をつける。


 そして夕暮れの公園。

 結衣は公園の植木に隠れて、岸田を見ていた。道路側から見たらただの不審者だ。


 そして結衣はもう一人の不審者に気づいた。

 近くの植え込みの影から、岸田を盗み見る不審者。


 睦瑞希だった。



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