第1話 曾祖父 1

私は幼い頃、名前で呼ばれた事は、殆ど皆無だった。


お坊ちゃま、若様、若君等と呼ばれ、その違和感に気づいたのは遅かった。


おそらく小学生の頃だった。


曾祖父が建てた家は、正門と裏口があり、正門は時代劇に出て来るような


かんぬきのある門だった。その門を進むと、二体の菩薩の石像が、


お互いを見つめ合うように、道の両脇に立っていた。


そのまま正面に行くと病院になっており、途中の左側には再び、閂のある


門があった。その門を進むと中庭があり、池には鯉が、十数匹飼われていた。


そしてその池の上には茶室があった。


草木も生えていたが、お抱えの庭師が、常に美を損ねないように管理していた。


裏口のほうには、まず、数百坪のみかん畑があり、その道を進むと、


二階建ての蔵があった。そしてその蔵と向き合うように、


数匹は入る馬小屋があった。


そしてその道の先に裏口があった。


裏口から入ると物置部屋や十数人は眠れる二階建ての別館があり、正門の庭とはまた


違った雰囲気の内庭があり、広々とした空間に池があり、木も植えられていた。


どちらの庭も吹き抜けであったが、正門の庭のイメージはよく見かけるような、


庭師が何かをイメージしたような、形にした低い木々と対照的に、裏口の庭には


二階を超える程の高さの木が立っていた。


そして内庭からみかん畑とは別に、内庭から行ける外庭があった。


柿の木やイチジクの木、ふきのとう等がある80坪ほどの庭だった。


そして曾祖父は海を見渡せる絶景の場所の山を切り崩して、


そこに一族全員が入れる墓を建てた。


私は直接、曾祖父とは会った事は無い。


だが、話はよく聞いた。


ピーク時には県内で1,2を争う程の財閥であった。


曾祖父が中学生の時に、帆船のセールスマンが来たらしい。


しかし、その時、両親は不在であったが、曾祖父は購入した。


両親が戻り、当然の如く、叱られた。

曾祖父は「それなら自分で稼いで買う」と言った。


私の父は医者で、医者は現実的な人間が多い。


しかし、曾祖父に関しては「運」というものがあるとしか考えられないと


よく言っていた。私が色々な人から聞いた人物像では、


人生は一度きり、やりたいように過ごすと言った感じの人物だっただろう。


そして、公言通り、自分で稼いで、帆船を中学生にして購入した。


普通であれば、時間をかけて買うようなものではあるが、彼は違った。


やる事が全て当たり、すぐに人財産を築き、特別お金は必要無い程


20代の頃にはお金を貸したり、今でもある博打のような倉庫買い。


それらが全て当たり、財は増え続けた。そして友人にお金を貸したが


友人は他界し、お金の返済は出来ないので、蔵を買い取って欲しいと


頼まれ、お金に執着心の無い彼は、それに同意し、買い取った。


ここからが彼の人生の飛躍に繋がる。






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