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 北部より、戦車20台、進軍中。対戦車装備を持つ、一番近い部隊は……第26連隊。狭隘きょうあい路におびき寄せて先頭車両を撃破せよ、と……


 おっと、敵支援攻撃機が北西より侵入。第303中隊、携帯型SAM(地対空ミサイルSurface to Air Missile)にて迎撃せよ、と……


 西部駐屯地で物資が不足中。民間の支援団体に補給のための安全なコースを指示、と……


 敵に物量で劣る我が軍は、最小限の兵力で最大限の戦果を上げなければならない。そのためには正確な情報把握と迅速な判断が要求される。それが私の任務だ。私は24インチモニターの画面の中で任務を遂行する。サーバ室に鎮座ましましているAI、「ラプラス」と共に。


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 私が軍のOSINT(オープンソース情報Open Source Inteligence)部局の局長となってから、もう1年ほどになる。とは言え、それ以前には部局そのものがなかったわけだから、実質私が軍内で初めてそのような部局を作ったと言ってもいいだろう。


 古来、戦争で重要な役割を果たしてきたのが情報だ。暗号技術はもとより、諜報活動、プロパガンダ……どの時代でも、情報は戦争と切っても切り離せない存在だった。


 しかし、現代ではインターネットの発展により、情報が溢れている。しかもそれらは基本的にオープンソース……誰でもがアクセスできるものなのだ。OSINTは、そのようなオープンソースの情報を収集、分析することで、戦局を明らかにするものである。


 その重要な情報源は、SNS や動画サイトだ。そこには一般市民のユーザーが撮影した動画などの情報が無数に投稿されている。自国のユーザーだけでなく、敵国のユーザーのものも、だ。それら全ての映像の中から戦局に関連するものだけをピックアップし、現状を読み取る。もちろん中にはフェイクな情報もある。しかし、私が開発した「ラプラス」を使えば、数秒でほぼ90%以上の精度でフェイクを見破ることができるのだ。


 現在我が国は隣の大国と交戦状態にある。隣国から陸海空の軍隊が多数侵入しているが、それらの様子は一般市民たちに捉えられ、逐一SNSに映像が投稿される。もはやいたるところにカメラがあり、それらから逃れるのは非常に困難だ。そうして得られた貴重な映像から、私は敵の状況を把握し、今後の行動を予測、その裏をかく。戦力で劣る我が軍が辛うじて持ちこたえているのは、このことが背景にあるためなのだ。


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