「ホワイトリリー」の伝説

Phantom Cat

プロローグ

 今日、戦争が始まった。


 わたしが経験する、初めての戦争。


 テレビでしきりに「今日は家から出ないように」とニュースキャスターが言っていた。空から飛行機が飛ぶ音が何度もしていた。学校に行けないわたしたちは、SNSで友達と話をしていた。やっぱりみんな、不安でたまらないみたいだ。


 そんな時だった。


 突然、大きな爆発音。


 学校の近くの友達からのメッセージ。ミサイルが飛んできて、わたしたちが通う学校がそれに直撃されたみたいだ。生徒は誰もいなかったけど、先生は何人か出勤していて、けが人も出ているらしい。


 ミサイルは軍の施設だけを狙っている、っていう話だったのに、なんで学校に落ちるの?


 そんなことを思った、その時。


 さっきよりもひどい爆発音がして、家が大きく揺れる。


 窓から見ると、わたしの家の三軒となりの家が、激しく燃えていた。優しいおじいさんとおばあさんが、二人暮らししていた家だった。


 周りを見渡すと、街のあちこちで煙が上がっている。


 どうして……? 誰も悪いことをしていないのに、どうしてこんなことになっちゃうの?


 わたしの家も、こんな風に焼かれてしまうの?


 嫌だよ……怖いよ……助けて……神様……


 いくら祈っても神様は助けてくれない。どうしたらいいの……?


 そうだ。


 SNSには世界中の国のいろんな人がいる。世界のみんなに助けを求めてみたらどうだろう。


 わたしは今の街の様子を写真に撮ってSNSにアップロードし、学校で習った英語を使って、「助けてください!」と投稿した。わたしだけじゃない。友達もみんなわたしの呼びかけで、同じように英語でメッセージを発信していた。


---


 次の日。


 信じられないことが起こった。


 わたしのSNSの投稿に、十万をはるかに超える「いいね!」がついていたのだ。


 世界中の人達から応援の返信が届いていた。難しい英語も、翻訳機能を使えば読み取れた。だけど、とても一つ一つに返事なんかしてられない。わたしは感謝のメッセージを送信した。とたんに、それもどんどん拡散されていき、「いいね!」があっという間に増えていく。


 そして。


 ある大国の国家元首や、国連代表からもメッセージが届いた。


 ”大丈夫。きっと助けてあげるからね”


---


 それから二日が経った。


 あれだけ激しかったミサイル攻撃が、ピタリと止まった。


 テレビでは、「両国の首脳が停戦に合意」というニュースが流れていた。例の大国が、隣の国に対して経済制裁を行った、という。国連でも隣の国に対する非難決議が採択されたらしい。


 戦争は終わった。そして、わたしのユーザー名「ホワイトリリー」は、世界的に有名になってしまった。たった一人で世界を動かした少女として。


 だけど……


 それは同時に、わたし自身に危険を招くことになった。


 それから数日後、学校からの帰り道で、わたしはいきなりスーツ姿の三人の男たちに囲まれた。


「君が、『ホワイトリリー』だね?」


 男の中の一人が、隣の国の訛りを含んだ言葉遣いで、言った。


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