第41話 サプライズイベント

「はぁ〜笑い疲れた。そろそろ出よっか、天汰」


「……」


「あはっもう言わないからさっ」



 僕はイジられるのにあんまり慣れてないんだよ。でもまあ……三人とも笑ってくれたしいいかな。



「てか、カエデさんとユメちゃん遅くないですか? 道迷ってたりしないか心配だな」


「大丈夫……かなぁ? もしかしたら……いや、でもうん」



 ケイさんは何やら考えた様子だったがすぐにいつもの笑顔に戻り、従者さんとマユさんの方へ顔を向けた。



「あのっウチらはそろそろ行きます! すっごく楽しかったんで、また今度来ます! マユちゃん、モカちゃんありがとうございました!」


「ありがとうございました……! ケイさんも天汰君も頑張ってくださいね」



 二人は僕とケイさんに向けて大きく手を振って、少しでも上手く行くように願いながら見送ってくれた。



「さて……どうしよっか。完全に夜だし! あ、ご飯食べてないよね? ウチが奢るからさ、しっかり食べてよ?」


「ありがとうございます! あと……出来れば二杯下さい。ヘラルも食べると思うんで」


「あ! そういえば服買ってあげてない……へへへっ、ヘラルちゃーん起きなー?」


「……誰だワタシの名前を呼んだのは」



 珍しく人の声に反応しヘラルが目を覚ました。ケイさんは一体へラルに何をしようと企んでいるんだ、目視出来ないのに。



「一方的にウチが言うね。超可愛い服へラルちゃんに買ってあげる!」


「なんだギャルか……ワタシに合うの選べるの? センス、ワタシの方があるけど」


「ん、へラルも買ってもらいたいそうです」


「おいワタシはまだ何も言ってないんだが!?」


「おけー、じゃ付いてきな」



 そう言ってケイさんは僕の腕を引っ張り、近くの服屋に直行した。


 僕がカエデさんと訪れた所ではなく、それこそ性能よりもファッション重視な服ばかりが並ぶ店だった。



「コレとコレとコレだ! 天汰が着るんだよ!」


「えっ僕? スカートとか恥ずかしいよ……」


「そんなこと言ってる暇なんて無いから! 夜だよ!?」


「ふーん、合格点をワタシから授与しようかな」



 呑気なこと言ってる暇こそないが!?

 僕は抵抗したがケイさんに勝つことなんて出来ず、無理矢理ケイさんの思うへラルに似合いそうな服を3着も着させられた。



「あぁ……最高じゃん……! 天汰、最高」


「脱いで……いいですか、もう」


「ここで!?」


「カーテン閉めさして!!」


「ふふーん、見下ろし視点で除けちゃうの知らんかった?」


「ふむふむ、天汰。ギャルも意外とセンスが良いな。気に入ったぞ」



 結局僕はその後も何着か着させられ、羞恥心に耐えて地獄を体験し終わった。

 ケイさんが買ったのは数着の服と、イヤリングやチョーカーといった小物だ。


 精神的に疲れた僕だったが、外に出て辺りの異変にすぐ気が付いた。

 ケイさんも同時に感じ取っているだろう。



「……とりあえずヘラルにワンピースは着てもらうか」



 ケイさんが選んだ黒色のシンプルなワンピースをへラルにとりあえず着てもらったが、暑いという理由ですごく嫌がっていた。



「あ! 見えた! 今浮いてる服がへラルちゃんだ!」


「へラルが着た服は透けないのか」



 なるほど、その為にケイさんは服を最優先に買いたかったのか。

 ただ肝心の本人が乗り気じゃないけどな……。



「あの、僕はここで夜を経験していないので分からないんですけど、皆の様子がおかしくありませんか?」


「まーするけど、どうせすぐは分かんないしご飯食べな?」



 またまた僕はケイさんに一方的に引っ張られて強制的に近くの異世界ラーメン屋に。


 慣れた手順であっという間に僕の前に大きなどんぶりが置かれ、そこにどんぶりから零れそうになるまでもやしを積まれた。



「へいっお待ち! テラハイパーラーメン二人前でえ!」


「……頂きます」


「ゆう〜っくりお食べ。ウチもリアルで食べとくから、カップ麺。ずるずる〜っ」



 僕の啜る動作を真似してへラルも食べたが、凄く食べづらそうに苦戦していて面白い。

 それに、思っていた以上にここのお店の料理は美味しかった。へラルも同じ反応を示して、店主に親指を立ててサムズアップした。



「ぷはぁ、美味かった。ワタシが食べた事無かったけどいいね。らーめん?」


「天汰食べ終わったね。ウチも食べ終わったし、宿でも探そうか」


「……あの、カエデさん達は待たなくていいでしょうか」



 僕が尋ねるとケイさんは何か隠すように素振りで誤魔化し始めた。



「まあまあ……宿見つけんのが優先じゃん? 役割は分けなきゃじゃんね」


「ああ、はい」



 やっぱり街も昼に来たときよりも悪化している気がするな。

 僕についての噂話をする者が増えている。



「フェンリルでもまだ見つけきれてないらしいな……気を付けようぜ」


「大量虐殺の野郎、神の子らしいぞ」



 全く、最初と違う噂まで流れてるじゃないか。後フェンリルって見つける気本当にあるのかな……。



「……天汰、止まって。ワタシ服の中に隠れるから」



 僕は周りに気付かれないようにそっとヘラルが入ってくるのを待つ。

 入りきったのを確認してから一歩進もうとしたその時、ケイさんが歩みを止めた。



「──え、なんで」



 ケイさんが指を指した先は空。そこには、僕が以前ルドベキアで見たような景色が広がっていた。



「女神、襲撃……!?」


「数日しか経ってないはずなのに……またくるのかよ!」


「天汰剣を出して。ワタシが指示する」



 次々とどよめきが起こり、トリテリアを恐怖が包み込んだ。


 僕にとって二度目の女神襲撃。しかも、この様子だと誰も聞かされていなかったのか?

 空から降りてくる眩い光が、トリテリアを照らす。


 女神は、口から息を吐き、それが姿を変えて地上に降り立った。



「うふふ」「あはは」


「逃げ──」



 そしてその生き物は、偶然近くにいた男の肩を掴んで食い千切る。



「はぁ……はぁ……」


「天汰、大丈夫よ落ち着いて。戦うよ」



 既にもう何十体を降りて人を狩り始めてる。なのに、女神は空から眺めているだけ。

 火炎球を直接アイツに当てることは出来るか? いや、距離が遠過ぎるか。



「──うふふ」


「──ッ【レギナエ】!」



 背後から迫ってきていた天の使いを振り向いて叩き斬る。

 ダメージは表示されない。生き物なんかじゃないみたいだ。



「なるほどねぇ〜……ウチの技もそうなりそうじゃん……!」


「天汰、まずこの雑魚を全部蹴散らしちゃおう。本体はワタシ達を試してる」


「分かった。ヘラルも援護頼む」



 僕達三人は武器を構え、この天使達を狩ることを開始する。

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