第40話 変態は許されるのか

「うっわ〜ここ虫が多い……ここじゃなきゃ駄目でしたかケイさん……」


「アッハッハ! 天汰〜馴れ馴れしくなってきなあ! これからもそれでよろしくぅ〜!」


「あはは……」



 僕等は道でも何でもない草むらを進んでいく。



「あっちの二人大丈夫かなぁ……?」


「カエデとユメちゃんなら絶対大丈夫! 兵士と会話したのもあの二人だったじゃん!」


「まあ……確かにそうですけど!」



 カエデさんはともかく、ユメちゃんにどれくらい強いんだろう。

 僕が戦っている姿を見たことないからだろうけど、この二人に付いて来れるなら納得出来るな。



「えーと、ヘラルちゃん? 今、どんな感じ?」


「今は寝てますね。あははまた涎垂らしてる」


「えー見たいのになー」


「あの……私は何をすれば……」



 僕とケイさんの間にいるマユさんが不安げに会話に入ってきた。



「僕達を信じて前に進みましょう! 僕とケイさんの友達なんですから!」


「天汰そればっかり言ってない? 友達にめちゃくちゃこだわりあるの?」


「だって……響きがいいじゃないですか……!」


「それな。最高じゃん!」


「あ……ははっ、なら良かったです」



 相変わらずマユさんとは変な距離感が残ったままだ。やっぱりケイさん達に縛られてから警戒しているのかな、僕も含めて。



「夕日も落ちてきたね。急がないと天汰お腹空いて苦しくなっちゃうんじゃない? マユちゃんも!」


「マ、マユ……ちゃん……?」


「あ、なんか距離詰めすぎ? ごめーん、あ年いくつ? これ聞くのも失礼か!」


「えと、18……です」


「……え、マジ……ですか?」



 マユさんに年齢を聞いた途端、ケイさんが敬語で話し始めた。

 やっぱりケイさんでもそういうのは気にするんだな。結構予想通りだ。



「別に私は年齢とか気にしませんから。さっきと同じように接してもらいたいです」


「……愛してるよマユちゃん」


「え……? そ、そういうのは恥ずかしいのでちょっと……!?」



 全く緊張感の無い二人だ。

 代わりに僕が辺りを警戒してマユさんを護衛することに決めた。



 数十分歩き続け、ようやくトリテリアが遠くに見えだした。



「なんか……騒がしくないか?」


「そう? もしかしたら良いことあったのかもよ〜?」


「いえ……なんだか、嫌な予感が」



 近づく度トリテリアから上がる声が何なのか予想も付かず、考えている間にトリテリアに着いてしまった。



「何があったんだろ〜……げっ」


「げっ?」



 ケイさんが心底嫌そうな顔をし、その声の正体を指差しポツリと呟いた。



「『』じゃん……」


「フェンリル……? あっ、フェンリルってあの!?」



 フェンリルには聞き覚えがあった。あれはここに来てすぐにパーティーを作りに行った時だ。

 リチアとシュウ……姉ちゃんとパーティー名を考えた時に話していたような。


 たしか、この世界のパーティーだと言っていた。



「あの人達、関わると面倒だからコソッと屋敷戻ろう……」


「あーそうなんですね」



 まあ、見た感じで言うとリーダー格っぽい男女の二人はケイさん以上に派手だし、めちゃくちゃな人数が帯同していて凄く浮いている。



「──聞いたか? 運営からのご通達、今回は二人だとよ」



 どうやら町の人達が隅っこで何やら話し合っている。

 盗み聞きするか。



「──聞いたところによると、一人は大量虐殺の疑いがある奴で、もう一人はあのを従えてる奴らしいぜ……?」


「嘘だろ……こんな国に訪れるなんて……この国は終わりだな」



 そういえばマユさんの屋敷の中ってあんまり見られなかったから着いたらじっくり見てみようっと。



「……天汰の話、してなかった?」


「天汰さんの事でしたね……」


「しーっ! 屋敷まで行きましょう!」



 二人の口をどうにか塞いで急ぎ足でテレイオス屋敷に向かった。


 屋敷の前に着くと、中から駆け足で喜ぶ声と共にマユさんに抱きつく者が現れた。



「マユ様! 生きてらっしゃると信じておりました……!」


「モカ……泣かないでください。私には何も無かったんです。このお方達に助けられたんです」


「……! ケイさん天汰さん、本当にありがとうございます……! あと……先程耳にしたのですが、お気をつけください。殺人犯と悪魔使いがいるそうなので!」


「う……」


「? さあ中にどうぞ」



 あれ、もしかして従者さんに態とヘラルの姿を見せたはずなんだけど気付いてなかった……?

 そしたら僕、ただ女の子を服の間に挟んでいる変態だと思われてる?



「ふふ……モカは抜けてる所がありまして……うふふ」


「はははっめっちゃ可愛い」


「……え? どういうことですか?」


「二人とも、揶揄うの辞めましょうよ」


「あはははははっ! あははははは」



 屋敷の中で緊張が解けたのか、従者さんとマユさんは大きな声で笑った。



「おいテメーらシカトこいてんじゃねえよ!」


「キャッ!?」


「あらあら珍しいわね、貴方が声を荒らげるなんて」



 なんだなんだ、この人達は!? よく見たらフェンリルの人達か?

 屋敷に勝手に入ってくるなんて非常識過ぎるだろ……。


 しかも男の方は苛ついてるのか……いや、なんかそうでもないような……よく分からないな。



「勝手に人ん家入ったら先にまずそっちが名乗ってくださいよ」


「なんだお前! オレはシェンだ! こっちはニーダ、オレ達はフェンリル。お前らは誰だ!?」


「うふふ、すまぬな。こやつは緊張しておるのだ。ここに来たのはわらわ達に挨拶しない理由を知りたくてな。何故だ?」


「……あなた達がうるさいからだよ……もー会う度この下りやってくるじゃん!」



 ああ、ちゃんと無視して正解だったんだな。ケイさんも珍しく本当に嫌がっているし。



「ここに来た理由がオレ達には有ってよ、運営に『トリテリアに捕獲対象が二人紛れ込んでる』って聞いて捕まえに来たんだ」


「わらわもそうは聞いておるが、そんな者こんな国にいるのかのう……?」


「……初めて知りましたね」



 この人達、僕を捕まえに来たな。ケイさんの顔色を見るに大体は察したか。

 マユさんも同様な感じがするが、従者さんはそうでもなさそう。



「……坊や、服を脱いでくれないかしら? 誰かそこに居るわよね?」


「ああ、お前からもう一人の匂いを感じんだよ、脱げ」


「脱げとか……恥ずかしいじゃないですか」



 普通にバレてる……!! こうなったら脱がない方が不自然だし、でも脱いだら爆睡してるヘラルが出てきちゃう……!


 万事休すか……?



「焦れったいわね。見せなさい」


「くっ、服伸ばさないで高かったんだよ!?」


「……あ? なんかいんぞ」



 まずい終わった。二人の目にはガッツリと悠々と眠る女悪魔が見えている。

 これを見られて怪しまれない訳がないだろう!



「……女の子を……服の中に……? どうして」


「分からん。てか悪魔ってどんな姿なんだ? こんなに可愛くはねえだろ」



 え? この人達は悪魔を見たことがないのか。いやでも、僕の口からなんて説明すれば納得してもらえるのか。



「あの……」


「モ、モカ!?」


「私から説明させてください」


「……おう」


「彼は女の子が大好きで、こうなって密着して生活するのが趣味なんだと思います」



 何を言ってるのかな従者さん!? 趣味じゃないし、そんな変態みたいな誤魔化し通用するわけないでしょうが!



「なるほど」


「んまあ……色んな趣味がありますしね」


「……帰るか。ここには変態しかいなかった」


「じゃあね、変態君」



 彼等は何事もなかったかのように玄関から出ていき、残った四人に一度沈黙が訪れた。

 まず一言目をあげたのは誰からだったか思い出せない。



「あははっ、変態君〜」


「え、どういうことですか!? あの時私に見せたのはそういうじゃなかったんですか!?」


「そうしゃないですから! 悪魔の話でなんで僕が女の子を飼っているぞ的な脅しをすると思ったんですか!?」


「『』……?」


「マユさん、突っかからないでほしいです」



 気づいたら僕を一斉でいじる流れに変わっていた。

 最悪だ……最悪、なんだけど。


 変態で良かった!



「へ、変態君w」



 それにしてもフェンリルのリーダーの名前、シェンとニーダは覚えておくか。

 名前を聞いたら僕も警戒しないといけなくなったな。



「シュウの弟って、変態だったんだなあ〜」


「変態じゃないですから!」


「……変態、じゃないんですか」


「変態……だよね、クククッ」



 ケイさん主導による僕いじりの時間が行われ、僕が弱り切るまでそれは続けられたのだった。

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