第39話 友達だから!

「んー! んーんっんんん?」



 ……あれ、うまく喋れない。それどころか手足をロープか何かで縛られて身動きも取れなくなってる?


 どうやら僕はまた意識を無くしてたみたいだが、今回は何をやらかしたんだ!



「あ! 天汰が起きたよ〜カエデ! ユメちゃん!」


「んーっ!」



 ここは外……ってことは、僕とヘラルがアクマを倒した後無事に出られたんだな! 良かった。

 じゃなくて! 目の前にいるのはケイさん……? というか皆いる!


 僕を縛ったのはテュポーンズの三人だったのか……。



「お前に聞きたいことがあってな」


「んんんんっ!」


「……俺達に隠してたことがあるんだろ?」



 ……バレた? どっちが?



「んんんんん……」


「……剥がそうよ、縄」


「そうだな……」



 カエデさんに口を縛る縄を解かれ、やっと話せるようになった。


 正直、これから僕が話す話を信じてもらえるならいいんだけど、信じてもらえるかな……。



「正直、ケイから聞いてたよ。天汰、お前はプレイヤーじゃないと」


「……それは」



 やっぱり姉ちゃんがケイさんに事前に話していたか。そうじゃないとここまで信用する訳無かっただろう。



「問題はそっちじゃねえんだ。俺達はそれでもお前を守るって……決めてたから」


「……わえも知ってた」



 ……わえ!? 一人称がわえって聞いたことない……独特だ、ユメちゃん。

 じゃなくて! 皆知ってたの? なのに、そう思わせないように振る舞ってくれていたのか。



「ウチから言わせて。悪魔の女の子に思い当たる節はある?」


「それは、言わないといけませんか」



 僕は強気な態度を取ってみた。それでもケイさんは退かず淡々と言葉を吐いた。



「ウチらは天汰の姉ちゃんを信じてる訳じゃんな? でも悪魔の事は一切聞いてなかったんよ。その女は一体誰なの!」


「……説明難しいんですけどいいですか?」


「とりあえず話してみて。そっからウチで何言ってるか考えるから」



 僕はとにかく全てを説明した。

 いきなり異世界に転移させられたこと、原因は悪魔の女の子だということも。

 そして、僕が異世界だと思っていた世界はケイさん達のしているオンラインゲームの世界だったということも。



「──シュウから聞いた内容とほとんど一緒だ……その女の子の姿さえウチらに見えれば良かったのにな〜」


「あの、もういいですか? 縄がそろそろ痛いです……」


「……解く」


「ありがとう」



 ユメちゃんが僕の手足を縛った縄を全て解き、解放されてまず全身に入っていた無駄な力を抜いた。



「僕ってそんなに信用されてないですか?」


「そりゃ……俺達に黙ってた訳だからな。隠し事は俺達の間では無しだ! 友達だからな」


「友達……か」



 良い響きだ。僕にも数少ない友達を現実の世界に残している。

 僕がいなくなって三日以上経った、僕の心配とかしてるんだろうか。



「……天汰君、その子は今どこに……?」


「ああ、ヘラルは大体ここに……」



 普段なら僕の服の中にいるはず。そう思い、胸元を覗いたがヘラルは居なかった。


 もしかして、逃げたのか。



「──あ、何してんの天汰〜趣味?」


「違う! ヘラルの事話してたんだよ今!」


「でもどうせワタシは見えないし話す意味ある?」


「……悪魔ちゃん……いる?」



 ヘラルめ、肝心な時に居なくなったら困るだろ!



「そう言えば、あの僕と一緒にいた女性はどこに……」


「ああ、それはウチ達で縛っといたよ」


「な、何してんですか!?」



 そうか、ヘラルに気付いたのはあの女の人経由か!

 だからヘラルを見た女性を逃さないために縛ったんだろうけど、解放してあげないと。



「だ、大丈夫ですか!?」


「おーこの人も縛られてんじゃん面白ー。二人してそういう趣味持ち?」


「ヘラル、解くの手伝って」


「ん……んんっ……んんんっ」



 もじもじと動いて僕をじっと睨み付けている彼女。何を伝えようとしている?


 僕は何があったかを聞く為に全てを解いてあげると、凄く疲れきった表情で僕に耳打ちをする。



「女の子の事……話してしまってごめんなさい。全員知っていることだと……勘違いしました」


「そ、それは全然大丈夫ですよー……ははっ」


「あれ、天汰はこの人名前とか聞いてる?」


「いや……知らないです」



 僕がそう言うと少し悲しそうに女は耳打ちを続けた。



「私の名前はマユ、マユ・テレイオスです」


「……耳打ち、どうして……?」



 ユメちゃんの言うとおりだ、どうして僕に耳打ちしてくるんだ。三人を嫌っているのか?


 それはそうと、マユさんか。テレイオス家だと名前に違和感があるな。他の人達は多分色彩関係の名前を授けられているのに、一人だけマユ?



「全員揃ったわけだし、これからどうするか話し合いしましょ」


「……やっぱりマユを連れて帰るが最優先だが……」


「……帰れる?」


「私は……そうですね、帰っても一人の従者しかいないのですよね」



 テレイオスにはもう何も残っていない。残ったのは従順で心優しいたった一人の従者と、特別扱いをされてきたお姫様だけだ。



「ワタシは帰った方がいいと思うけどな。ここにいて良いことなんて何も無いし。あ……これ天汰が伝えて」


「あー……ヘラル曰く『一緒に旅を続けると死んじゃうかもしれないからトリテリアに戻って従者さんと二人で生活した方がいい』と言っています」


「そうですね……私はとりあえずトリテリアに帰りたいです」



 トリテリアも安全とは言い難いが……マユさんが望むなら、そっちの方がいいよな。



「最初にさ変な兵士が居たのみんな覚えてる? ウチはさ、同じ道通って戻って来いって言われたけどなんか怪しいと思うんよ」


「それにマユもいるしな……アイツらここの事知ってるから下手すると戦うことになりそうじゃないか!?」


「……うん」



 そういえばそんな奴いたな。たしかにマユさんが帰りに突然増えていたら困惑されるか。



「決めた。ウチは行きと違う道通って帰る。マユちゃんも付いてきていいよ、ウチが守るし」


「僕もそうします。マユさんは僕も守ります」


「──ありがとう、ございます」


「えっ、なんで!?」



 マユさんは感謝の言葉を述べながら大粒の涙を零しだす。

 そんな彼女を見て、ケイさんはめちゃくちゃ動揺している。



「初めての接しられ方で、嬉しくて泣いちゃいました」


「何言ってんの! もうウチらは友達じゃん! 友達なんだから当たり前じゃんよ!」



 ケイさんは指を二本突き立てて微笑んだ。

 それを見てマユさんも笑い、僕達がこれから何をするのか方向が決まった。



 誰とも遭遇せずにトリテリアまでマユさんを護衛する。

 皆が僕を信じてくれたから、僕も皆の為に戦う。


 そう思って僕はヘラルと目を合わせて笑った。

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