第34話 インフレと最強乙女
「ぶっ倒す……やってみなさいよ、坊やに出来るかな?」
「何度消えるんだよ! くっそ……カエデさん反射って何回使えそうですか!?」
「あれくらいの攻撃なら余裕で耐え切れる! だから天汰は俺のそばに居てくれ!」
「はい!」
ルージュにプレイヤーじゃないって悟られないように倒さないといけないな。
どの技ならこの敵に有効なのか考えてみるか。
まず、剣術の一つ
そうなると現状最速で撃てる火炎球以外じゃ太刀打ちは不可能か。
霧の中で一人考える。どうしたら確実に当てられるのか。
「……とりあえず火は出しておくか」
僕は掌に魔力を集中させ、火の玉を出して辺りを照らす。
そこで僕はあることを思いついた。
今まで魔力の消費が激しいからやってこなかったが、女神襲撃時の比じゃないレベルで魔力が増加している今なら僕も耐えられるかも。
「カエデさん、この技知ってますか? これは僕が好きな漫画に出てくるカッコイイ技なんですよ」
「使っていい! ただ警戒だけは忘れないように!」
「はい! 行きます──【
構えた剣を腰に差し両手から何度も火炎球を出して宙に浮かせまくる。いつ霧の中から攻撃を仕掛けようとも執念で一発当ててやる。
一発さえ当たれば遅れて二発目以降も当てられる。
そんな考えを張り巡らせている間、カエデさんが何をしているのか目の前で起きているのに僕は気が付かなかった。
「ぐわああああああ!」
「……カエデさん!? なんで僕の技食らってるんですか!?」
「味方同士で自滅とは滑稽! 【
「うぐっ──」
ルージュは僕の顔の右半分を掴んだ。その手の感触が気味が悪いほどひんやりしていて、指先の砂粒が霧に溶け僕の顔を破壊した。
外から体内に向けてそれが流れ込んできたからか筒から空気の破裂音のような音が一瞬聞こえ、それから何も聞こえなくなった。
「……たれ……っ」
「……離しなさい! 霧に……なれない……!?」
「血から……逃れられないぞ」
僕は彼女が伸ばした手を掴み返し、残りの火炎球を引き寄せる。
両耳から血が垂れ、片目からしか景色は見えないが、ようやく女の変わらない表情を崩せたみたいだ。
「天汰! 後は任せろ! うおおおおお!! ぐはっ!」
「だからどうして……僕の攻撃を消すんですか!?」
「俺は全部跳ね返せるからだ! 【
「な──」
経験したことがない衝撃が、女の腕越しに僕までも伝わり、僕ごとカエデさんは遠くまで吹き飛ばした。
「ッッ!! ぐ、はぁ……はぁ……」
カエデさんに一言言いたい。これは僕じゃなかったら死んでるよ。
全身がまだ僅かに痺れているが、右目や顔面も既に再生を始めている。
腹の石に手を当て、その存在を確かめた。今思えば髪色もこれに影響されてたのか!
「ダメージは……え」
痙攣を続けるルージュの頭上には
カンストが9999万から変わった事実を改めて突き付けられ少し気持ちが落ち込んだが、くよくよしている暇はない。
「……た……い」
「ルージュ、僕達の勝ちだ」
「……死に……た…………い」
彼女は僕の足に縋り付こうとするが手に力が入らなくなり上手く掴めない様子だった。
ルージュは身体を制御出来なくなったのか全身のあらゆる所が霧となっていく。
しかし、攻撃の気配はまるで無く、ぽろぽろと涙を零すだけだった。
「死にたく……ない」
悪魔に操られてもう死んでいるのに。
「死にたく……な──」
ルージュの身体は霧になってそのまま消えた。視界を悪くしていた霧も彼女と一緒に消え去った。
「天汰、大丈夫か? 回復足りてるか?」
「平気です! もう回復し終わりました」
「……二人を探そう! さっき言ってたことが本当なら、二人も今戦ってるはずだ」
「階段探します! 何処かにあるは──」
「──カエデ! 天汰! 無事だったー?」
暗闇から声が聞こえる。ケイの声だ!
「ケイ! 俺達は無事だ。ユメちゃんは見つけたか?」
「残念ながら上にはいなかった! ここって多分二階だよ!」
「ケイさん……ロゼが弟と戦わせるって言ってましたよね。……どうしてここに」
「ん〜? もうウチが倒したからに決まってんじゃ〜ん!」
なんてこった。ケイさんがリーダーなのは認めていたけど、ここまで強いとは知らなかった。
戦い方が僕の上位互換で似ていたから後で教えてもらおうかな。
「──貴様が、悪魔の契約者か?」
「……誰? ウチら以外にいるの?」
「メのマエに」
「──!」
「ケイさん!?」
ケイさんは二本の剣で辛うじて男の攻撃を防ぎきったが、男は常に笑っていて思考が読めない。
「貴様が叔父を殺したんだろ? オレは強い奴が気に食わない」
「【エンドレスラッシュ】!」
二刀が男を何度も切り刻んだが、僕には空を切っているようにしか見えない。
「火力は合格だねぇ……一発4000万こんなのくらったら叔父は死んじゃうか」
「アンタ名前は? ウチとタイマンやろーや」
「オレは
「もう死んじゃってるね〜ざんねん!」
相手が動揺したタイミングでケイさんは距離を取り、僕とカエデさんの隣に移動する。
「ここは三人で倒そう。ユメちゃんでもロゼは勝てるよ」
「ふっ、悪魔に力を継承した我々に勝てるとでも?」
「うん。だってアンタ達
「……は?」
ケイさんの言葉に狼狽えだすノワール。今回は僕にもケイさんの言う意味が分かったぞ。
「アンタ達がここで悪魔の召喚を試して何日経ってると思ってんのさ?」
「なるほど……俺達の攻撃に耐えられないってことか……」
「そう思うならやってみろよ、三人でいいぜ」
「ノワール、ウチとタイマンする気は無いん?」
「……」
僕は腰に差した剣を抜き構え直す。
いち早くノワールを倒して、今度こそユメちゃんとヘラルと合流しないと。
二人ならきっと大丈夫だろう。それでも僕はこれ以上、仲間を失いたくなかった。
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