第35話 縛られた女
「オレがインフレとやらに置いて行かれている……笑えるぜ。ならこの攻撃も受け切れるんだろうなぁ!?」
「ウチはアンタに攻撃もさせないから。浄化魔法・【
「眩しっ」
ケイさんが魔法を唱えると、直視すると目が痛くなるほどの光がケイさんの正面に突然現れた魔法陣から放たれる。
「……ぐっ、なんで……ダメージが通らないの……!?」
「天汰! 俺の背中に張り付け! 危ねーぞ」
「……」
僕はカエデさんに従ってカエデさんを盾にしながら、覗き見ていた。
ケイさんの言うとおり、当たっている気配がしない。もしかしてこれがノワールの能力か?
カラクリが全く分からないな……。
「ギャハハハハハハハ! その程度かぁ!?」
「しつこいな……」
光から飛び出してきたノワールの攻撃を、再度ケイさんは刀で防ぐ。
僕が入り込む余地が無いほどの剣幕でケイさんが薙ぎ払う。
「オレは悪魔そのものに成れたんだ! この能力と今から見せる技がその証拠さ!」
「カエデ! 天汰を守って!」
「ああ! 【
カエデさんと僕の周りをドーム状のバリアのような物が囲い、ノワールの攻撃を防ぐ為防御に徹する。
「何もかもが完全な闇に飲み込まれる。【フィルム・ノワール】」
向かいの壁まで完璧に見えないほど暗かった塔内が、目の前にいるカエデさんまでもが見えない完全な暗闇に照らされる。
「ぐ……ぶっ……ガハッ……」
口から血を吐き出した。そこで僕が気が付かぬ間に意識を失ったことを知った。
「【
「カエデ、耐えて! こんなの……一発当てちゃいつもみたくどうにかなる!」
「『いつもみたく』? 笑えるぜ。例外だってことに気づけねえで!」
遠くから三人の声がする。僕はどこまで飛ばされたんだ。
背中の壁に持たれている今の状況で僕が出来ることは何だ。
色々とノワールに対して有効手段を考えていたのだが、そのうちの一つの案が今なら実行出来るんじゃないか。
「……それしかない……か」
声にならないほどか細い声で呟く。僕の考えた案、それはノワールに勝つことを諦めることだ。
けれど、敗北なんかじゃない。あれほどまでに強調していた言葉、つまり悪魔を倒せば契約自体を無かったことにできるかもしれない。
「──居た! 天汰!」
「……ヘラル? お前どこに──」
「いいからワタシに捕まって!」
急に現れたヘラルが伸ばした左手を僕は掴んだ。
彼女の手はいつもよりも温かく感じた。
「上に行くよ! 道は全部把握してる!」
「分かった! そういうことなんだな!」
「──逃すかッ!」
さっきまでケイさん達と戦っていたはずのノワールから攻撃を、ヘラルは驚きもせず回避する。
「ごめんね、ワタシ達はあなたに構ってる暇はないの」
「……てめえか、悪魔め……」
「ノワール! アンタの相手はウチらだ!」
ヘラルはノワールに見向きもせず高速で飛び去り、上に行く道に進んでいく。
「……ヘラル、これどこに向かってる?」
「ん? このまま真っ直ぐいけば上に──」
「壁、じゃない? このまま行ったら」
ヘラルが進んだ先はどう見ても壁しか見えないし、階段があるような雰囲気では無かった。
「行くよ──」
「くっ!」
壁に衝突する寸前で空気が変わり、目を開けてみると違う景色が広がっていた。
「ここが三階。ワタシのここにいたんだけどさ、ギャルのケイが強過ぎて笑っちゃった」
「今のがマップ移動なんだ……で、悪魔はどこだ? この上?」
「そうだよ。四階からとんでもない気配がしてる。感じるでしょ?」
言われて意識をしてみれば確かに上からとてつもない気配を感じる。
ノワールなんかよりも何十倍も強い気がする。
「……で、ここから上の層に行くには隠されてる隠しワープでも探さないとだ」
「ヘラルはそういうの分からないのか? 同じ悪魔なんだろ?」
「悪魔なのはそうだけど……なんかここオカシイからな〜」
ヘラルは顎に手を乗せて悩む素振りをしていたが、ここから隠しワープを探すとか相当時間がかからないか?
下手すると、僕以外の三人がやられてしまうかもしれない。
「……二手に別れて探そう」
「ああ」
二人で手分けして探すことになり、僕は今までの階層とは違う部屋を覗いていくことにした。
それぞれの部屋は牢獄に似ていて、ジメジメとした雰囲気だ。
壁を伝い時計回りで檻の中を覗いたり、入ったりして調べ回ったがそれらしい場所は何も無い。
「……あれ、ここだけ何か──」
ほんの少しだけ赤くなっている壁に触れると、また何処かにワープした。
ここが四階か?
「……え、誰?」
ここが何処なのか確認しようと振り返った先には、白い糸で全身を張り付けられ、服も着ておらず死んだような目の女がそこにいた。
「……生きてますか?」
僕が会話を試みるが言葉に反応も無く、彼女は無言で床を眺めていた。
「天汰! ワープしたなら言ってよ〜ワタシが声聞いてなかったら危なかったよ?」
「……ヘラル、この人は誰だ?」
「……人間?」
僕とヘラルで女の身体に触れて色々と確認すると、まだ生きていることが分かった。
ただ、それ以外の情報は何一つなく、仕方ないので重く封じられた扉を無理矢理こじ開けて密室からの脱出を図る。
「【
「……なんかこの扉を特殊だね? 封印……されてた?」
「僕もそんな気がする。でも、この人は悪魔じゃないんだろ?」
僕がそういうとほぼ同時に背後から喚き声が上がる。
女のトラウマを刺激したようで、女は絡まった全身を動かし暴れ始めた。
「や……だ! 助けて……悪魔は……もう嫌だ……」
「ヘラル。この人、もしかして」
「……うん。この人がロゼの
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