第33話 生者と死者のサバイバルゲーム

「中はかなり暗いな……ケイ、見えそう?」


「ムリ。てか天井高くない? しかも雰囲気ホラーゲームと一緒じゃん……あんま好きじゃないんよ」


「……来る」



 儀の塔に入って早々それぞれが内装について感想を述べていく。

 僕はアマテラスのいた空洞のような既視感を感じている。


 何か嫌な事が起こりそうな予感がする。



「……なんか内装、教会みたいに見えませんか? ほら、椅子の並びとかも……あれって祭壇ですかね?」


「待ちな天汰。あんまり前に出ないでいいよ、ウチとカエデが戦うから」


「……ほう。我の存在によく気が付いたな」


「誰だ……」



 声の正体は祭壇の背後からぬるりと僕達の前に現れる。

 男の指には複数の光り輝く金属の指輪が何個も付けられ、男は赤色のタキシードを着ており、不健康にやせ細った姿をしていた。



「我の名は・テレイオス。テレイオス家のである」



 男はロゼ・テレイオスと名乗った。そうか、これが悪魔の召喚を目論んだ実行犯の姿か。


 しかし、奴の目は血を垂れ流し続けており、生気を感じ取れなかった。



「……誰だキサマ──! オカシイぞ何かが……悪魔が何故……そこにいる……?」


「ワタシを指差すなー? 操られてるだけの癖に」



 ロゼに指を刺されようとも動揺する素振りも見せないヘラル。

 他の三人からは突然現れて錯乱しているようにしか見えないだろうが、それならば今が好機だ。



「天日・【】──!」


「──くっ……!」


「避けた……!?」



 レギナエを避けただと。この技は光速に近い速度で攻撃しているのに目視で避けられた!?


 僕が顔を上げると、男の血走った目が目前を塞ぐ。



「我々と競い合おうではないか。誰が悪魔に相応しいか」


「……は?」



 意味不明な言葉に思わず本音をまた漏らす。悪魔に相応しい? 何の話だ。



「勝ち残った者が悪魔を受け入れるのに相応しい、サバイバルゲームをしよう」


「……何言ってんのあのおっさんは。ウチはその悪魔を倒しに来たんだって!」


「……そこの女は……そうだな。……我のと戦え」


「戦う〜? アンタ以外に誰もいないじゃん」


「我が送ってやる」


「逃げてケイさ──」


「あ──」



 全身に軽く風の衝撃波が直撃し、視野がほんの少しボヤけ尻餅をついた。

 吸った空気の違和感が僕を襲う。空気がさっきより薄くなっているような気がする。


 この感覚は以前に体験したことがある。



「天汰無事か!? 俺達以外は……どうした!?」


「転移させられました……」


「え?」


「アイツに僕らこの塔のどこかに飛ばされたんです」



 この場にいたのは僕とカエデさんの二人だけで、ヘラルも居なくなっていた。

 僕は状況確認のために周囲を注意深く観察する。一見、全体的に暗く気付くのに遅れたが、一階にあった椅子などが見当たらない。


 代わりに華やかな大量のドレスがマネキンにかけられ放置されていた。



「なんか不気味だな。天汰も警戒してくれ。どこから何が来るか分からない!」


「はい……」



 そう言われ僕は剣を構えていつでも火炎球で対応出来るように準備する。

 だが、それとは別に考え事をしていた。


 それは、ここが塔のどこなのか、だ。

 塔に入ってからずっと感じていた不気味な気配がここに来て強くなっている。


 しかも、匂いも鮮烈になってきた。それはここの階層に限った話かもしれないが。



「──【流動紅ルーインリップ】」


「ッッ!!」


「あら?」



 僕の目の前に紅に色付けられた液体が横切った。

 異様な香りが目の前に現れたので何とか避けられたがこの攻撃は何だ?



「やるじゃないか坊や」


「……だれだ」



 真っ赤な唇が特徴的で、黒いドレスに身を纏った妖しい女が30m先で僕を睨みつけていた。

 こいつがこの階層のボスか。



「ワタクシは・テレイオス。先代当主のであり、現当主の母と名乗るべきでしょうか」


「ルージュ……俺は聞いたことあるぜ。プレイヤーの中で推す人もそこそこいたイメージだったが……確かに容姿は綺麗だな!」


「ああ……でも、この人」



 彼女の生前は凄く美しかったのだろう。今は体は朽ち果て、肌もかなり枯れてしまっている。

 唯一彼女の名残があると言えるのは、その特徴的だと思った唇に塗られた口紅くらいだろう。



「ワタクシはこれでいいのです。不死にさえなれれば」


「僕は……そうは思わない」



 剣を持つ手に力が入る。この敵は僕が倒したいと僕は思っていた。

 だが、不死を自称している以上倒し方はすぐには分からないな……様子を見るか。



「……ルージュ。俺達は聞きたいことがある」


「何でしょうか」


「俺の仲間達はどうなった」



 僕も知りたいことだがそう簡単に答えてくれる質問ではない。

 だけど彼女は淡々と業務作業のように語り始めた。



「ワタクシは貴方達二人、金髪の方はワタクシのである・テレイオスと。そして眼鏡の少女はロゼ様直々に戦うことになっております」


「なっ……ユメちゃんがアイツと……?」



 まただ。僕は嫌な既視感を感じている。僕の脳内で最悪の光景がチラつく。



「俺達は二人でとか舐められてるのかな? 天汰、やるぜ!」


「う、うん」



 大丈夫だ、落ち着け。負けることは有り得ないし、そもそも皆プレイヤーだから人は死なない。

 魔力の感覚を研ぎ澄まし、心の安定を図る。



「避けられるかな」



 女は姿を消し、独特な香りが遠のいたり近付いたりしてくる。

 きっとこの匂いがルージュだ。

 次近付いてきたら火炎球を当ててやる。



「【反射リフレクション】」


「……ウッ! 中々やるじゃないですか。反射……使ってる方はほとんどいなかったので用心を忘れていました」



 ルージュがカエデさんに攻撃を仕掛けたが、跳ね返されて苦しんでいた。

 ダメージは700000007000万も出していた。



「【霧化粧キリゲショウ】」


「また消えるのか! 天汰気を付けろ!」



 この階に充満していた匂いがより強烈になり、視界も霧がかってカエデさんが見えづらくなっていく。



 匂いが近付いてくる。



「【火炎球】ッ!」



 僕は反射に振り向き、匂う塊に向かって火炎球を放つ。

 超高速で放たれた火炎球はそれを貫き、焦がしていった。



「グワアアアアッ!!」


「バレバレだ……!」


「何故ワタクシの位置が分かった!?」



 コイツ、もしかして僕がプレイヤーじゃないって気が付いてないのか?

 僕が匂いで感知できていることが分かっていないのか?

 なら良い、このまま二人で撃破してやる。



200000002000万ダメージ。これで合計900000009000万ダメージだ。後何発くらったら降参する?」


「ワタクシが降参? する訳がないだろう!!」


「分かった。二人でお前をぶっ倒す」

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