ステージ2 トリテリア
第29話 贅沢な選択肢
「【火炎球】!」
「グウェェッ!」
「
夜もふけ、暗闇に覆われた森で僕は一人戦っていた。
オンラインゲームの異世界に来てから大体一週間が経っただろうか。魔法を使って剣を振うのも慣れてきた。
今僕は四人の仲間と行動をともにしている。その内三人は、僕が異世界で実際に戦っている事を知らないゲームのプレイヤーだ。
残りの一人は問題児だ。それは僕を召喚した張本人で、元の世界に帰るためにダメージをカンストする契約を結ばせた悪魔の少女。
冷静になって考えるとマッチポンプすぎるだろ!
「このゴブリン、前も見たな」
僕の知っていたルドベキアの近くにあった森とは違い、非常に背が高い木々に囲まれ、視野がとにかく良くない。空を見上げても樹葉で雲も全く見えなかった。
今回はゴブリンが一匹だけだったが、ここで囲まれたりなんてしたら相当苦戦するだろうな。
「おーいヘラル! 僕迷子になった! 声出してくれー!」
「……」
「……おーい! もしかして怒ってんの? 悪かったって、でも説明しようがなかっただろ?」
必死に大声を上げようともヘラルは反応すらしない。そう遠くには行ってないはずなんだけど。
悪魔であるヘラルがこんなに怒るとはな……たしかに、僕以外のパーティーの皆には見えないからってずっと無視を決め込んでいたのは流石にやり過ぎた。
「ごめん! これからはコッソリ話しかけるからさぁ! ここで迷ったら面倒だし、後もう寝たいよ……」
「……もっとくるしめー」
右斜め後ろからヘラルの声がボソッと聞こえた。
狭い木の隙間をすり抜け草を踏みつけて声をする方へ走り抜ける。
開けた土地に出た。どうやら戻ってこれたみたいだ。
さっきまで暖を取っていた焚き火は時間が経ちすぎて消えてしまったようで、気温も普通の森の中と変わりなく冷えていた。
燃え尽きた焚き火の傍で少し悲しそうにヘラルが座り込んでいた。
「……ヘラル、何かキャラ変わったな」
「……そう? ワタシが天汰と出会った時から変わってないと思うけど」
「幼稚なのは変わってないけど、なんか変わった。……嫉妬か?」
「は?」
どうやら図星だったのかヘラルはまた苛つきながら振り向いて僕の顔を睨みつける。
感情的で単純なのは一緒のままだな。
「どーせログインしてない時間しかヘラルとは長く喋れなさそうだし、今聞いときたいんだけど
「……んーと、トリテリアはめちゃくちゃ治安が悪いし、貧乏な街だよ。ルドベキアとは対象的だね」
「でも武器とは装備はかなり充実してるって、ケイさんが言ってたけど」
「ケイ……? あーあの金髪ギャルでワタシに口調似せてる人ね」
「似てねーよ」
「まー装備とかは現地の民からすれば必需品だからさ。危険な武器も買いまくれるよ」
「へ〜! カエデさんが奢ってくれるって言ってたしヘラルの分も何か買ってもらおっかな?」
「カエデ……あーあの馬鹿そうで騙されてそうな人ね」
その下り何回やんだよ。と、野暮なツッコミを入れそうになったが無言で抑えて話を続けた。
「……いやだってさ、ヘラルは服絶対買った方がいいよ。だって局部とか隠してるだけでただの痴女だよ」
実際に初めて会った時から同じ服装をしているが下着と変わらないし、こんな格好で外を歩かれたりでもしたら悪目立ちしてしまう。
それは、僕としても巻き込まれそうで避けたい。
「ちぇっ。だって服着ると暑いんだよ、普段はこの服装で天汰の服の中に隠れとくからさ……眼鏡でワタシと似た体型のユメみたいにね……」
「さっきからその恨みなんなんだよ!」
……あっ。
ごほん、と咳をしたふりで誤魔化してみる。
「ワタシの勝ちね、天汰」
「……もう寝る」
「ん? 逃げるの?」
「僕は寒さで死なないから勝手にどうぞ」
これは比喩でも何でもなく、僕は不死の肉体を持っているからだ。
とにかく僕は仰向けになって寝る姿勢をとる。
「ワタシも寝ーよお!」
ナチュラルにヘラルは僕の服に滑り込み中に入ってきた。日中は大体これなので感覚も慣れてきてしまったな。
「トリテリアは変な人がいっぱいたむろしてるから、面白い情報とか手に入りそう!」
「カンスト出来るような武器が欲しいな……杖とかあれば魔法の火力も上がるか……?」
「今度こそカンスト、目指していこうな」
今度こそ、か。僕とヘラルで一度は達成しかけた。しかし、その攻撃の直前にゲーム内の仕様が変わり、ダメージの上限が四桁も引き上げられてしまった。
次の目標は
翌朝、目を覚ますとユメちゃんが僕の横に座り誰よりも先にログインをしていた。
それに全く気付かず僕は起きて早々目が合って驚愕し、どこから出たのか分からないような悲鳴を上げてしまう。
「ギャアァッ!?」
「…………おはよう」
「……おはようございます……!」
僕が奇声を上げたことはユメちゃんに一切触れられず、中身の無い会話を続けて残りの二人がログインするのを待つ。
「ユメちゃんは兄弟とかいます?」
「……いない。多分」
「多分かぁ」
「──お! おっはーユメちゃん天汰ーっ!」
「うっ……! 抱き着かないでください……首が……!」
「…………おはよう」
昨日に引き続き僕は抱き着かれ、僕とユメは無事ケイに力負けして押し倒された。
「ふわぁ……三人ともおはよう! なんか普段よりログインするの早くね? いつも二人とも遅刻してんのに」
「こんな可愛い子が増えたら舞い上がるに決まってんじゃーん!」
カエデさんは約束の時間丁度にやってきて、テュポーンズのメンバーは全員揃った。
「この森抜けたらすぐトリテリアに着くから! ちゃんと迷子にならず着いてきなよ! ……あっ、お姉ちゃんが手でも繋いでやろうか?」
「ケイ! もしかして手を繋ぎたいのか? 俺とユメじゃ不安か?」
「違うわ!!」
ケイさんとカエデさんはボケを掛け合いながらもパーティーを先導し、僕とユメちゃんは二人に着いていくことで森を抜けることができた。
「あ! あれだなトリテリア! 俺、ワクワクしてきたー!」
「ホントだ〜マジで久しぶりに来たなあ〜」
二人が指差した先を見ると、大都市だったルドベキアと比較しても入り口から寂れた雰囲気が漂っており、明らかに雑魚はお断りと言いたげな痩せた門番と目が会う。
「……なんか僕見て睨んでない?」
「……睨んでる」
ユメちゃん……? そこは否定しよう……?
「気にしない気にしない! あの人達は来る人をずうっと睨みつけるのが仕事だから!」
「はあ……」
トリテリアに入国する最中までその男にずっと睨まれたが視線を逸らして、一応気にしてない素振りだけはしておいた。
「ふうぅ〜来たね〜トリテリアだ!」
トリテリアに来て最初に抱いた感想はたった一つ。
僕が思っていたよりも貧相な国だな、とそこら中に横になって眠っている肋骨が浮き出た人達を見て思ってしまった。
「今日は服と武器の購入だな! 俺についてこい! カッコイイ奴、買おうぜ……?」
「何言ってんの! ウチが服決めたるからな……? ウチはオシャレよ……? どう?」
「……一緒に。……行こう」
急に三人が僕の目を喋りかけてきたので、また僕は一歩後ずさる。
新パーティー結成2日目にして僕は究極の3択を与えられてしまった。
「えっ……と、僕は──」
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