第28話 ルドベキアは永遠に
「おー! 何この子すっげえ可愛いじゃーん!」
扉を開けてすぐ、金髪の彼女が僕に突進してきてそのまま僕を押し倒した。
重ッ……くはないかもしれない……けど苦しい……当たってる。
「は、離れて……」
「おい女ァ! 天汰が離れろォッ!」
「おーわりぃわりぃ。シュウの弟って聞いたらさー舞い上がっちゃったわー!」
「は、はあ……もしかしてあなたが僕の姉ちゃんの友達……?」
「そうそう! シュウが初心者だったときに偶然出会ってさー! めっちゃ仲良くなったんよ!」
「あ、あとさっき急に抱きついでごめんごめん!」
金髪の女性は照れ臭そうに頭を掻きながら片手で軽く謝ってきた。
「へへっ、災難だったな! こいつ良い奴なんだけどこういうとこあっからー!」
「う、うぉい! 変なこと言うな! 恥ずかしいだろーが!」
「そうか? 素直になろうぜ!」
「うっわ……暑苦しいよこの人」
ヘラルがドン引きする中、目の前の陽気な緑髪の男は自己紹介を始める。
「初めまして、俺はカエデって言います! こっちのギャルは──」
「あーっ! ずるい、ずるいじゃんよ! ウチから言わせてや! ウチはケイ。ケイ姉ちゃ〜んって呼んで!」
「ケイ姉ちゃん。いいな! 俺も呼びたい」
「カエデはダメーッ!」
何だろう。本当に姉ちゃんはこんな人達と友達なのかな。
あっ、もしかしたらもう一人の白髪で眼鏡をかけた小柄な女の子が友達なのかも! 僕と同い年くらいだと嬉しいが……他の二人はちょっと、面倒そうだ。
「……寒い」
「え?」
少女はそう言うとしゃがんで丸まり始めた。しばらく見つめていたが彼女はそこから微動だにせずまた黙り続けた。
「……春じゃないですっけ、現実は」
僕がそう言うとケイは少女に抱き着きながら代わりに話し始めた。
「ユメちゃんクーラー大好きっ子だもんね〜! 冷房抑えなよ? ほら自己紹介しな〜?」
「……ユメです」
「あっはぁ〜……! 可愛すぎ〜!!」
ユメはケイに頬ずりをされて多少困惑していたが嫌がっては見えなかった。
まあ、それだけ仲が良いんだろうな。
……何となく三人の見た目と名前は覚えられたな。
スラッとした体型でとにかく派手な女性がケイ。
ガッシリとした体型で陽気な緑髪の男性がカエデ。
そして、二人よりも小柄で眼鏡をかけている少女がユメ。
──なんか、三人に似てるな。
はっ、駄目だ駄目だ引きずるのは!
「リチア……え?」
背後を振り返るとリチアが白目を向いて気絶していた。
まさか陽の光に当てられてか!? 気持ちは分かるけど……!
「そうだね……本題をボクからしようか」
「リンドウ様……助けて……」
「え、ええとね。これから君達新生テュポーンズはここじゃない何処かに向かってほしい。進路は……そうだな、ケイに任せよう」
「ウチ? 了解了解! 天汰クンって言うんでしょ? もう聞いてるから〜」
「おう! 天汰! よろしくな!」
「……天汰、君……よろしく」
一同が僕に挨拶攻撃をしかけるもんで、僕は思わず怯んでしまう。
「よ、よろしくお願いします」
「グフフ……カワイイ……」
「ひっ」
「……ワタシは?」
残念だが、この三人がプレイヤーだからヘラルについて説明するのは難しいだろう。
三人には彼女が見えないのだ。
「……いつもみたいに寝てていいよ」
ヘラルに向けてそう言ったつもりだったのだが。
「……うん」
「えっユメ……ちゃん?」
ユメちゃんはゆっくりと起き上がり、今度は僕の胸にべったりとくっつき目を瞑って眠り出した。
「キーッ! ワタシの寝床を!?」
「ユメがこんな簡単に懐くなんて……! 天汰ぁ、お前めちゃくちゃ良い奴だ! ワクワクしてきたー!」
「カエデさん、首絞めてるからそれ! うぐっ」
「ウチもウチも〜! 混ぜてーッ!」
「うわわわわああ!」
ドサドサと、みんなの重みに耐えきれず僕等はその場に倒れ下敷きに。
「死、死ぬ……」
「天汰の首絞めてんじゃないよ! 緑髪め!」
「ガハハハ! まあ仲良くしていこーよ天汰」
リチアはまだ白目剥いてるしリンドウ様はずっと困惑している……ヘラルなんか誰にも聞こえてないし!
「……そろそろ行く? 姫様も疲れてるしここに残ってたら天汰が狙われるんでしょ? ウチが仕切ってくっからさ〜安心して付いてきてね〜」
「……天汰、頑張れよ」
リンドウ様からのエールは有り難いが、どういう意図からなんだその発言は!
「……はっ……あ、貴様もう行くんだな……」
「リチア……お世話になりました。僕は強くなって帰ってきます、その時はまた貴様って呼んでくださいよ」
「ふっ、変わり者だな貴様は……」
「──またな」
* * *
ルドベキアを出た一歩目は全くの別世界で、ヘラル以外今までとはまるで違う面子に違和感を持ちながらも、僕は希望を抱いていた。
きっとまた姉ちゃんに会える。そのためにはヘラルをもっと信じられるようにならないとな。
ヘラルはやっと服の中に入れて満足したのか、今はぐっすりと眠っている。
……もしかしてずっと今まで寝ずに起きていたのか?
「天汰ー! このゲーム、サイコーだよね! 世界がめっちゃ広くて超神じゃん!」
「始めたばっかりって聞いたぜ。俺達が色々教えてるぜ! なんかワクワクしてきたな……!」
「……わくわく」
でもやっぱり不安は残るけど。
「僕も楽しいです。姉ちゃんに友達がいたこともそうですけど、三人も友達って感じで羨ましく思ってます」
「え? 何言ってんの? ウチら一緒にゲームしてる時点で友達じゃーん! ね! 二人もそうっしょ?」
「そうだぜ! やっぱりお前良い奴なんだな……」
「……友達。……うん」
僕は嬉しくて本音が漏れる。
「……すごく嬉しいや。この世界で一人ぼっちになると……思ってたから」
「なにその感想……カワイイ。ウチらがずっと居てやっから安心しなー!」
僕は髪がぐしゃぐしゃになるまで頭を撫でられ、ケイはその時何かに疑問を持ち僕に訪ねた。
「……天汰の髪ってどうやって染めたのー? え、キャラクリすっごぉ!?」
「え? 僕染めてませんけど」
「ほんとだ、なんか一部分だけ茶色っぽくなってね?」
「……琥珀色」
琥珀色……? 僕は染めた経験も無いし黒髪なんだけどな……。
「メッシュなんて出来たのか〜後でウチにも教えて!」
「ええ……?」
「──ケイ、どこ行く? 天汰がどれくらいのダンジョン行けるかステータス見てみ──あれ、見れないな?」
「え、嘘だー……ってマジじゃん。バグった?」
「……天汰君、多分つよい」
「ユメちゃん……ありがとう、なんか」
「……ふふ」
少し嬉しそうに頬を赤らめるユメちゃん、凄く分かりやすくて助かる。
「ま、いいや。俺達いるし! ぜってえ傷つけさせねえ! そうだ、まずは
「おーいいじゃーん! あっち治安悪いけど武器とか揃えるならあそこしかないじゃんね!」
「……あそこ怖い」
「もぉ〜う可愛いねユメちゃ〜ん!」
この二人のじゃれ合いにも慣れてきたな。
「じゃ、そこ目指しましょう! 僕も火炎球と天日シリーズ一個は使えますから!」
「え、リチア様の専用技使えんの!? やっば! ヤバイじゃん!」
「恥ずかしくなってくるんでその反応やめてくださいよ!」
「へへ、可愛いねお姉ちゃんそっくり……」
顔が赤くなっているのを隠すため僕は1歩先を歩き三人に背を向けた。
「あっれ〜? 顔真っ赤!」
「あっはっは! 天汰ぁ正直者だな〜」
「……君も照れるんだ。知らなかった」
僕の目的はダメージのカンストを達成して現実世界に帰ること。
姉ちゃんもいない今、そして
ただこの安心感はそれだけじゃない気がする。
この三人は全員プレイヤーだ。だからこそ、頼りやすいのだ。
三人はこの世界で死んでも蘇るし、どこも痛くならない。
僕含めて死を恐れなくていいのは凄く合理的に戦えるようになった。
それに、プレイヤー同士ならいつか来る別れを惜しまなくて済む。
現に今も僕には別れたくない人が何人もいる。
また会えるかもしれない友達なら、そんな心配なんて要らないはずだ。
「──行こう、トリテリアに!」
僕がそれっぽく言うと三人は乗っかってくれた。
「……おー」
「行くぞぉー!!」
「新生テュポーンズの旅は今始まった〜!」
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