第24話 あなたと僕ともう一人
「みんな……落ちたのか? プレイヤーが介入できないように仕組んでたのか……」
「少し違う。我々は
アップデートだと。そういうのは大抵事前に報告される……緊急メンテナンスという体でアップデートだなんて聞いたことがないぞ。
「きっと我が敗北すると思ってメンテナンスに持ち込んだようだが……都合が良い」
「次から次に嫌がらせしやがって……」
「『ごめん、天汰……連撃がリセットされちゃった』」
「しょうがないさ……はあ……はあ」
いくら僕の肉体が再生し続ける身体になったとしても、息は上がってしまうか。
「その武器を捨てなさい」
「イヤだね。まだ……」
「勝てると思っているのか?」
「くっ……」
今の状況を整理し直す。プレイヤーはこの世界から全員消え、この場にいるのは僕とヘラルだけだ。
アレゼルとダイアさんは目の前で死に、ツバキは見ていないけどあの攻撃は耐えきれるとは思えない……。
頼みの綱のリチアも意識を失ったままだ。
「天汰……と申したか。汝は本当に可愛らしい……人間と同じ感情を持ってしまったよ。汝があの女に向けた同じ感情をだ」
「愛おしいんだよ」
「──にするな」
「お前程度が、僕と同じ土俵に立とうとするな」
僕はヘラルに操作させた身体を強引に解除しようとする。ヘラルもかなり弱っているため簡単に解除出来てしまった。
「『あ……待って、天汰。動かないで……』」
「……ごめん、ムキになって」
「……何故そこまでして我の下に来ない?」
「ムカつくんだよ何もかも。なんで人を襲った? どうして神がルドベキアに迷惑をかけた?」
「……そうか、話し合えば解決できるとでも?」
アマテラスは僕の顔を見て大きく笑った。
「そうかそうか……なら面白いから答えてやろうではないか」
「まず第一に人は愚かだ」
油断している今がチャンス……でも少しくらい話を聞いてみるか。
今焦って行動したって勝てやしないんだ……ヘラルや援護がくるのも待った方がいい……。
「──だからこそ人々は神がいると信じてしまったのだ。我々は人々に造られた存在……元は存在していなかった」
「次に生まれたのは悪魔だ……人は希望に反する絶望の存在すらも信じてしまったのだ」
「だが……そんな作りを変えてしまった組織が存在する」
それがこのゲームの運営で、姉ちゃんがいる世界とこの世界を繋ぐ組織か。
「神と悪魔の存在意義そのものを入れ替えてしまったのだ。こうして姿を保つのも難しいんだ」
「汝も似たようなものなのだよ……転移させられて辛かっただろう……悪魔に利用されて」
「……だまれ」
「フフフ」
アマテラスは笑うのを止めない。どんな笑いか理解出来ないが耐えるしかない。
「我の名を知っているのはもうここに三人しかいない。どうだ? 今なら本当に汝だけは救おう」
……ヘラルは胸元で息を荒げて目を瞑っている。意識はありそうだが何かを行う気力や魔力が相当少なくなっているだろう。
「汝が石を取り込んだ時点で我と同じ不老不死なのだよ……? そんな悪魔なぞ捨てて我と一つになろう」
「ふっ……ははっ、僕もお前も忘れられるんだな……」
「お互いがいれば存在証明しあえるではないか」
「三人いなきゃ……二人が存在してることが証明出来ないだろうが。
あまりにバカバカしくて怒りに任せてしまった。だが、お互いに手を出せないのは同じのはずだ。
僕を殺せないし、僕は女神を殺せない。
「なるほど。だから人は悪魔を生んだのか」
アマテラスはやけに納得した表情で僕を見つめる。そして、ヘラルに目を見るために胸元を覗いてくる。
「人は自らを証明するために我等を創り出したのか」
「人が不幸であることを証明するために神という証人を生み、人が幸福であることを証明するために悪魔という証人を生んだ」
「フフフ……面白いではないか」
面白くねえよクソが。まるで難しい問題を自力で解けたみたいな喜びをわざわざ見せつけやがって。
「『天汰……もう一回だけ……ワタシに操らさせて……』」
ヘラルはかなり回復できた顔色でアマテラスにバレないように小声で話しかけてくる。
それに僕は目を合わせず、黙って聞き続ける。
「『ツバキとリチアがこっちに向かってきてる……これが最後の攻撃になる』」
「汝らよ、我等は三者ともに存在すべきだったのだ」
「『……無視して。お願い』」
そっと僕は力を抜く。いつでも身体を操れるように。
「一つである必要は無かった」
「……」
「『ありがとう。天汰』」
三度僕は身体にヘラルを宿した。それにアマテラスは気付いていないようだ。
「……僕達は三人ではいられないんだ」
「何を言っている? ……ああ、天汰はきっとルドベキアの王子頼りなのだろう? アレは天汰だろうが妹であろうと助けに来ようとはしないぞ」
「国を守ることが全ての、悲しい人間だ」
「──兄上を侮辱するな」
頭部に巻かれた包帯が中途半端に外れかけ、鬼神のごとく恐ろしい形相を見せて剣を構える者が現れる。
さらに、真逆の方角からも強い血の匂いを漂わせる彼がこちらを見ている。
ただこっちは、決して戦える状況とは言えない。執念でここまで這ってきていたのだ。
「そして、私の友人に手を出すな」
「……愚かしい。我は人間の行動をやはり完璧には理解出来ないか」
「……家族だから……っす」
ツバキ、もう喋るな。頼むからもう何もしないでくれ。
「ツバキはずっと……迷ってたっす。クローンなのに……こんな優遇されていいのか……」
「奴隷同然だと思っていたツバキを変えてくれた言葉なんすから」
そうだ……アレゼルさんがそう言ってくれなかったら、ここまで信頼し会うことはあり得なかった。
「だから……ツバキは
「やめろツバキ──!」
「結局技は一つしかないっすけど……全力の【シキミ】っす……」
顔を歪ませながらも毒魔法を詠唱し、アマテラスに直撃させ、絶命した。
それでもアマテラスは何ともない顔をして自分の頭上の数値を見て鼻で笑った。
「5000ダメージ……? クローンこそ真に憐れな存在よ」
ヘラルの黒薔薇と比べるとゆっくりと5000を刻んでいる。
女神が笑い続ける間もそれは刻み続けている。
「『……天汰、行くよ。最後の攻撃を』」
「……ああ、始めようぜ」
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