第22話 肉壁
「最初から全力を出そう。天日・【
地面が揺らぎ黄金の紋章が地に刻まれる。横から見るリチアは真剣そのものだ。
リチアの横顔を初めてはっきりと見てみたが、やっぱり美人だった。
「今っす! 全員で攻撃するっす!」
「【
「【
「【
「【
リチアに続いて僕達は魔法を唱える。リチアは右足左足を交互に一歩踏み込み、左足を軸に時計回りに一回転し斬撃を飛ばす。
僕にはこの斬撃が、紋章から生まれ女神よりも大きい不死鳥のように見えた。
「そんなものが……効くか!」
僕達の攻撃は無数の光にかき消された。ただし、リチアの不死鳥とヘラルの黒百合だけは光すら貫通して女神へ着弾した。
「やった……」
「な、なんで……」
ヘラルは黒薔薇で1000万を、リチアはこの技で4000万を一撃で叩き出したことを僕は覚えている。
なのに、なんだこの数字は。
「1800万ダメージ……だけ?」
「女神、やったね!? ステータスが上がってる。あなた奴らと手を組んだでしょ!?」
ヘラルの言う奴らとは誰だ。しかもステータスが上がってるだと?
「私の奥義が……通らない……?」
珍しく額から汗を垂らすリチアに僕は今度こそ息を呑んだ。
僕には他人のステータスが見えないし、自分のステータスでさえ知らない。だからどれだけ上がったかは視認できない。
けど、ヘラルの見様見真似レギナエが1400万、リチアとヘラルが合わせた攻撃は1800万。
防御力でも上がってるのか? だとしたらこれ以上ステータスが上がるのはまずい。
今の時点で僕とツバキとダイアさんの三人の攻撃は通りもしなかった。
残った二人の攻撃も通らなくなってしまえば、僕達に勝ち目がなくなる。
「汝がどう足掻こうが、我の刹那の輝きだけで朽ち果ててしまう軟弱な肉体。何故歯向かう」
「我は光で嬲り殺すことに飽きた。直接手をくだそうではないか」
そう言うと女神アマテラスは僕とリチアの目前に突如として現れ、美しく醜悪な面持ちで目を細めた。
手を伸ばせば触れられる距離で鋭い眼光を向けられたことで僕は威圧され、立ち竦むことしか出来なかった。
「【オーガスタ】ッ!」
ただ、隣にいたリチアは違った。躊躇無く女神に剣を振るった。
オーガスタはリチアの中で最速の技だ。だから一瞬過ぎて何が起きたのか判断が遅れたし、その技がアマテラスの右腕に負けたのが認められなかった。
「なっ……!」
「どけ」
「ぐわあああああ」
そしてアマテラスは右腕でリチアの身体を弾き飛ばし、彼女を何十メートルも離れた壁にぶつけた。
「リチア……?」
この言葉に返答は無く、リチアは打ち付けられた頭部から血を流し、手足には力が抜け落ち首はだらんと下を向いていた。
「リチアは俺が守る! ツバキは天汰を守れッ! 死なすな!」
「おらああああああっ!!」
「無意味だ」
ヘラルが近距離戦を仕掛けたが女神は姿を消し、ヘラルの拳は空を切った。
「天汰、逃げろッ──」
「潰えろ」
「ツバキッ!!」
走ってくるツバキの目の前に女神が姿を現し、両手で押し飛ばす。
ツバキは天井に身体をぶつけながら遠くまで吹き飛ばされ、落下し衝突音が洞窟に大きく響いた。
「ダイアさん……逃げて……僕は死なないから……」
「……いいや俺はまだ戦う──」
「人もどきが我に勝てると?」
「ぐっ」
アマテラスは接近してきたダイアさんの腹を拳で殴り、ダイアさんがうめき声を上げた。
効かなくても時間さえ稼げればまだ勝機は…ある。
「雑魚よりも先に大将にトドメをささねば」
「まっ……ちやがれ」
「やめろ。か……【火炎球】」
また姿を消しやがった。どこに女神が現れるのか……4択だ。
どこに現れようが火炎球を1発当ててやる……。
「天汰……俺はお前に会えて感謝してる」
「……なに言ってんだよ……ダイアさん」
「俺は出来る事をただやるだけだ」
「──死ね」
現れたのはリチアの前。どうあがいても近付いても間に合わない。今僕に出来るのは火炎球を当てるだけだ……。
「【高速火炎球】」
「──ッ」
爪サイズの小さな火炎球だが、リチアに拳を振りかざす直前に当てることはできた。
「50万程度か……憐れだ」
「ふんっ──」
「ガハッ……!」
頭蓋骨を粉砕する鈍い音が僕の耳に届き、僕はただ絶望した。彼の表情からして即死ではない、苦悶の顔を浮かべていた。
「てん……た、すま……ね……ぇ」
「ダイアさん……? なんで……!」
リチアの頭に拳が触れる前にダイアさんが割り込み、リチアを庇った。
僕が隙を作ったせいで、ダイアさんは間に合ってしまった。
ダイアさんは数秒で事切れて顔面から倒れ込み、アマテラスはその姿をあざ笑う。
「──なぁ、汝だけは生かしてやろうか?」
「ッ──」
僕の前にまた現れ、女神は僕の両腕を掴み僕を押し倒した。
「我はその力に興味を持った。ここの香りと似た物を汝から感じる。どうだ、我と一つにならないか?」
「はな……せよッ!」
「神と人間ごときが交わるなどあり得ないぞ? 特例で我は汝とだけは──」
「天汰から手を離せッ!!」
「おっと──」
ヘラルの飛び蹴りを透過して回避したため、僕は即座に立ち上がった。
「……そうだったな。汝は悪魔と手を組んでいる愚者だ。その力、惜しいが諦めねばならぬ……いや、殺して肉体を頂けば良いのか」
「……僕達は皆を犠牲にした。だけど、まだ負けてない」
「何を言っているんだ? 何故抗うと聞き続けているが、希望なんてもとからないだろう。大将は瀕死、汝の仲間はもう3人も息絶えている」
「はあ……はあ……」
僕とヘラルは息を乱しながらも思考は止めていない。
最初はここでカンストを目指す予定だったなんて、僕もヘラルも舐めていたな。
……仲間はまだいる。
「……ああそうか。これから来るのか」
「
「──いたぞ! アレが
何十何百の戦士達がこの洞窟に雪崩れこむ。彼らは、ルドベキアでの戦闘を終わらせた強者達。
「【
彼女の言葉に僕達の身体は熱く燃えるように、めちゃくちゃな力が湧き上がってくる。
「オレ達のステータスめちゃくちゃ上がってんぞ!?」
「攻撃力が2倍になってる!」
「動きやすい!」
僕とアマテラスの間にどんどんプレイヤーが増えていく。
「あの子供を皆で守れ! リチア姫もだ!」
「……お前ら街は……?」
酒場で暴れ怪我をした親子を安全な所まで運んだあいつらとまた会えるとはな。何が起こるかなんて予想は当たらないもんだ。
「ちっ、数だけは多い雑魚のくせに」
「この三人をとにかく運べ! 外に!」
「死んでてもいいから早く!」
僕はリーダーの男に抱えられ、リチアとダイアさんは複数人がゆっくりと運んでいく様子が見えた。
アマテラスから徐々に離され、無限に湧き出てくるプレイヤーによってその姿も見えなくなっていった。
「ここならもう平気だろ」
そう言うと男は空洞の入口付近で僕達を降ろした。そして一目散にダイアさんとリチアの元に向かった。
「……クローンの方はもう……」
ゼルちゃん同様に体が少しずつ溶け、透明になっていくダイアさんの体。
僕はその手を掴んで、ただ祈ることしか出来なかった。
「……ありがとう、ダイアさん」
言い終えたときに彼の体はもう何も無かった。
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