第21話 幾万の恨み

「フフフ……人間如きが我に叶うとでも?」



 女神と名乗ってるくせに人間に対しても当たりが強い。そんなんだから悪魔と立ち位置変わるんだよバーカ。



 しかし、どう戦う? 僕の持ち武器は女神以前に人に勝てなかったんだ。そうなると皆に頼るしか勝つ手段はない。



「もう逃げ場は無いよアマテラス。ワタシも倒せないのに二人も増えちゃったよ?」


「それがどうした? 奴等は戦力にも満たないだろう? まさかアレが戦力だとでも?」



 挑発か……どんどん小物臭がしてくるなこの女神……。



「は? マジで何がいいたいのあなたは? あーあ女神って性格悪いんだね〜」



「……その通りだ。だから陽光を汝らに見せてやろう」


「!? また!?」



 なんだ、陽光って。ちょっと前にイキってみたけど割と魔力より体力的にキツイんだ、動けないかも。



「避けて! 天汰ぁ!!」



 は? へラルと超巨大光線がほぼ同時に僕に向かってきた。ギリギリ反応は出来たけど、逃れることも対応することだって無理だ。



 だったら、へラルを信じるしかない。




「間に合ったァ!!」


「くっ!」


「……」



 強引に体を操られてGがかかって意識がぶっ飛んだが、回避には成功した。


 意識が戻ったのはへラルに抱っこされながら避けきったあとだったが。



「壁に穴空いてんじゃん……」



 へラルの言うとおり、自然に出来た壁を光は貫通してしまい、向こう側の景色が丸見えになっていた。



「へラル、僕を操ってくれ!」


「完璧に操ることはできないよ?」


「それでいい! いつも僕の服の中に入ってるのと同じようにやってくれ。そうすればへラルも戦えるだろ!?」



「あー、試してみるよ。天汰」



 そう言ってへラルは僕の中に入り、常時と変わらない感覚を味わう。



 だが、そんなことを話している合間にも攻撃は止まない。


 僕とダイアさんは必死に避けることだけに集中する。

 何故だ、初撃だけよりも攻撃の速度が落ちている。



 ……泳がしているのか?



「『よし、今から体動かすよ!』」


「え、うわどこ触ってるの!?」



 へラルに操られた瞬間に全身がむず痒くなってきた。どこを触っているとかじゃなくて、全身をずっと撫で回されてる感じに近いかも。



「『アマテラス! ワタシ達に勝てると思うなよ!』」


「ああ!」



 変なクソレビューをしてる暇なんてなかった。


 僕の身体は面白いくらい身軽に動く。いつ覚えたのかヘラルは僕の身体で格闘技のステップを踏み、挑発をアマテラスに対しやり返した。



「『剣もワタシにまかせて! 天汰は魔力調節をやって! アマテラスの体力は2000万、いっきに倒そう!』」


「了解」


「よく分からねえが二人に任せた! 俺は回避しつつ銃で撃つ」


「雑魚どもが……」


 ヘラルは剣を構え、戦闘スタイルを僕とは全く違う振る舞いになっている。

 そして、僕は飛んだ。



「『【火炎球】! からの【れぎなえ】だあ!』」



 ヘラルは僕の身体を使ってリチアの動作を見様見真似で剣を構えて女神に襲いかかる。


 この感触を覚えておけば、僕ももしかしたらそれっぽく習得できるかもしれないな。



「これが……最高火力の火炎球だああああああ!!」


「『ちょ待って、溜めないで!!』」



 火炎球より先に剣先から衝撃が手に伝わり、女神の頭上にあれが見えたので即座にそれを見つめる。


 140065001400万6500ダメージ。それにほんの少しだけ遅れて火炎球は打ち込まれた。



「『くっごめん天汰、伝え忘れてた! こいつリジェネ持ちだ!』」


「リジェネ……ってなんだ!?」



 聞いたことがない単語が聞こえて思わず動揺してしまった。

 り、リジェネ……? オタクしか知らない言葉か……? なんだ?



「『くっ!』」

「いってえ!!」



 天井から光が落ちてきて、僕らは地面に思い切り叩きつけられた。

 ヘラルによって顔を勝手に上げられ、女神の姿を目視したがケロッとした表情で僕をあざ笑っている。




「! ヘラル、7500000750万ダメージ出たのになんで生きてるんだ!?」


「コイツは……回復し続けてる。毎秒1800もね……」



 なんだよそれチートじゃん……。



「多重陽光」


「『──な』」



 自分の全身がいきなり光ったと思えば、燃えるような激痛が僕を襲った。


 目はこの一瞬で失明したようでうっすらと白い光に包まれて呼吸も出来ない。



 僕のせいでヘラルも巻き込んでしまった。本当ならさっき倒せたはずだった。







「……!? 避けられ──」




 聴力だけはギリギリ機能は保たれていたようで、ダイアさんの悲しい声だけが聴こえた。



「──【天日・】」



 誰かが僕らの身体を抱え光を抜けた。さっきまでの苦痛も次第に和らぎだすが視力が戻るのはかなり遅いらしい。



「──……すまない」



 普段の声色とは違う、僕が嫌いな声で彼女は優しく、僕を抱きしめてくれた。



 あと、リチアは僕の名前を覚えてたんだな。



「ありがとうリチア……」


「ぎゃあああああっっ! 貴様生きているのかッ!」


「説明はあとで。僕は死なない。それよりもダイアさんを助けなきゃ」


「──ダイア先輩大丈夫すか?」


「何とか避けきれたぜ……ありがとうツバキ」



「ツバキ……」




 視力がようやく回復し、二人の声がする方向に目を向けると五体満足のツバキとダイアさんが立っていた。



「貴様……とにかく降りろ」


「そうだ、ヘラル! 死んでないよな」


「……」


「……ヘラル?」



「『天汰、気を付けてよ。次あんなのくらったらワタシ死ぬから』」


「悪魔もか……」



 ひょっこりと衣服の間からヘラルが顔を出したことで僕は安堵した。


 ヘラルはぬるりとそこから抜け出して、僕を操ることを解除した。



「数で詰めたほうが良さそうだね。あとさ、さっきのは悔いなくて平気だよ。多分、上手くいってなかったから」


「悪魔らしくない気遣いありがとう」



 女神一人と人間側が五人。この人数差なら絶対に勝てる。そう自己暗示をかける他なかった。



 あとは姉ちゃんだけだ。姉ちゃんが来れば勝ちは確定する。もうこれ以上死者は出さずにいけるかもしれない。



「貴様が女神か。あの程度の光なら私が斬ってみせる」


「我はアマテラス。ようやく真打ち登場か。弱者を蹂躙するのは神といえど心苦しいのだ」


「テュポーンズを侮辱するな、このめ。私達の父を先祖を裏切った恨みを私は忘れたことなどない」


「私が、裁いてやろう」

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