第20話 アマテラス

「……もう朝?」



 長い夢を見ていた気がする。なんだろう……あっ! そうか異世界に行く夢を見ていたんだ。



 僕はうつ伏せで寝落ちしていたからか、床が硬い。



 体を起こしてゆっくりと地面に座り直してみて、何となく思い出してきた。



 腹をさすり改めて現実を受け止めようと思う。


 僕は一度死んだんだ。そして生き返ったことは傷一つない腹と血でビシャビシャになった衣服から確信に変わった。



「知ってたよ……」


 ゼルちゃんに挿れられた鉱石の部分が少しだけピリピリする。



 プラスに捉えよう。僕にゲームオーバーは無くなったんだ。これだけなら姉ちゃんに並べてるはずだ。



「ここからダンジョンの奥に向かおう」



 僕は森を抜け、ダンジョン内の空洞まで急いで向かった。



「──はぁっ……」


「──ッ! ダイアさん!?」



 走った先で見かけたのは、頭から大量の血を流しグール達と交戦中のダイアさんだった。



 火炎系統でどうにかするか? いやそれじゃダイアさんも巻き込んでしまうな、接近して剣で応戦しよう。



「僕も戦います! おらっ!」


「気をつけろこいつ硬いぞ!」



 忘れてたぁ! 首を斬ろうとして途中で引っかかるのは2度目だ。このまま二の舞になるのはごめんだ。



「ダイアさんちょっと離れて【火炎球】!」



 空いている手から火炎球を放ち眼前のグールを浄化させる。



「……! 500万ダメージ……!? いつの間にそんな強くなった……!?」


「魔力の扱い方初級編はクリアしましたから」



 さて、残りもさくっとやらないとな。




「ダイアさん僕の背中にくっついてください! 【火炎鞭】!」



 ダイアさんを背にし、前方に鞭を振り抜く。


 鞭は7匹の死体を断ち切って、静かに空気に解けていった。



 さっきよりも魔力の消費量が減って思考が淀むことも無くなってきた。



7015040701万5040ダメージ……」



 安定して威力だけは上がってきてるが、こんなんじゃ女神は倒せないんじゃないか。……プラス思考になれ、天汰。



 それに今、ダイアさんにゼルちゃんについて言うべきだ。



「助かったぜ天汰。けど話す暇もねえな、シュウ達と合流しようぜ。ゼルちゃんも心配だしよ」



「……っ、あの……ゼルちゃんは……もう」



 やっぱり直接伝えたくない。僕ですら現実をまだ信じきれてないのに、ダイアさんがこれを聞いてどう思うかなんて分かってたはずなのに。



「……そうか、ゼルちゃんともう会ってたんだな」


「ごめんなさい、何も出来なくて……」


「……仕方ねえよ。俺達クローンは死ぬ前提で今戦ってんだ。だから誰に対して恨みやしねえさ」



 どこか悟ったような台詞を吐いているけど、僕にはそうは見えない。


 言葉だってずっと震え声で話してて何言ってるから頭入ってこないし、凄く迷った表情が隠しきれていない。



 ダイアさんは嘘をつくのが誰よりも下手くそだって、僕は知ってるよ。



「……身体も残りませんでした」


「……大丈夫だ、もう何も言わなくていい。……先に進もう、あんたの姉さんも待ってるはずだ」


「……はい。僕の覚悟、見てくださいよ」


「ああ……はは、分かってるさ……」





 その後お互いの気まずさを誤魔化すために黙々と魔物を狩り続けた僕達は、やがて一度攻略を諦めた空洞に到着した。



  「……臆してる余裕は無いんだよな」


「……僕ら二人なら……大丈夫、ですよね」


「ああ……」



 魂がどっかに隠れてしまった様子のダイアさんは生気をすっかり失ってしまっていた。


 こうなったのも、僕が強くなかったからだ。ゼルちゃんには特に精神面でよく助けられていたというのに、僕は何も出来ずに別れてしまった。



 こんな経験は二度としたくないんだよ。



「ダイアさん危ない!」



 ダイアさんの死角から光が差し込まれ露骨に僕達を狙っているのがわかった僕は、咄嗟にダイアさんの正面に立ち光を遮った。



「ガハッ!!」


「天汰!? おい大丈夫か!? 死ぬな!」


「大丈夫ですよ……もう僕は死なないんで」



 光線にまた腹を貫かれたけど、ダイアさんには当たってないからよしとしよう。


 信じられないくらい痛いけど流石に2回目となるとイラつきが勝ってきたな。



「……ほら、大丈夫だった」



 1分も過ぎれば、綺麗に跡残らず痛みもすっきりと消滅する。


 そんな僕にダイアさんは唖然とし、ただただ驚き口をぽかんと開けていた。



「これが福源の石の効能みたいです」


「……ゼルちゃんが……持ってたんだな……」


「──なんで俺は気付けなかった……」



「ダイアさん、急ぎましょう。まだ、皆は生きている」


「……ああ。俺はまだ戦える」



 今の攻撃は間違いなく女神からだな。容姿なんかは分からないけど確実に僕達は彼女の領域に侵入している。



「おい、あっちがなんか騒がしいぞ」


「あそこに女神が……!?」



 薄暗い空洞内は予想よりもかなり広かったが視認性がとても低く、音を頼りに僕らは進んだ。



「……へラル!」


「……ははは、天汰。逃げてよ」


「なにを──」



「グゥぇ!?」



 まっずい。突然何も聞こえず見えなくなった。



 これって頭ぶっ飛ばされた……!?




「うわあああああああああああああ」



 声を上げても何も分からない。そしてその攻撃は止まない。



「ダァッ」



 右肩を誰かに思い切り押され洞窟壁に背中から衝突し、息が詰まった。




 …………。徐々に音が聞こえ、思考もまた復活する。



「天汰……!? あなたもしかして福源の石を……!?」


「福源の石だと……? 汝が我々の聖域を侵したというのか? そんな軟弱な肉体でか?」


「……ッこれが……女神……! ……女神?」



 ダイアさんが恐怖する声が洞窟に響き渡る。

 塞がれた目も次第に開けて、声の主の姿が解き放たれた。




 神というのは大体2パターンに別れると思っている。一つは悪魔すらも脅かす不気味な姿の場合。もう一方は、人に愛されるために美しい容姿の場合。



 コイツの場合は後者なのだが、人間離れした大きさとオーラがどこか気に食わなかった。



 女神がこの世界では好かれていないことから容姿で人を騙し、人であっても侮辱してきたりとする態度に怒りが沸々と湧いてきた。



 身体も全快し背を壁に向けながら手を付き立ち上がる。



「三人でぶっ倒してやるから覚悟しろよ女神!!」



「我はアマテラス。太陽神だ」



「うるせーな地球の神様騙ってんじゃねーぞコノヤローッ!」




 目標1個決定。絶対にこの詐欺神をぶん殴る。

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