ステージ1-2 女神襲撃編

第15話 救済という花

「うおーモンスター狩るぜー!」


「うほっ今回魔物の数多過ぎだろッー!!」


「ほー盛り上がってんねー。ワタシも暴れよっかな」



 近くにいたプレイヤー達も続々と街に散らばり魔物を狩っている。こういう時は乱暴なプレイヤーでも凄く助かるな。



 ……何か言ってるが、そういえばさっき何もしてなかったな。



「怪我したらアタシが癒やしますから!」


「頼んだぜ、ゼルちゃん」



 沢山の人々と魔物が入り混じり命懸けの死闘が各地で行われている。


 いつ女神とエンカウントするか分からない。気を引き締めておかないとだ。



「【】! 敵が想定より多いっすね……」


「……くっ、リンドウを探すんだ! 兄上なら何処に女神が居るのは気付いているはずだ!」


「ふーん、それならワタシへラルちゃんに任してよ。天汰いこーよ」



 へラルのテンションも平常じゃなく、明らかに悪ノリが増えている。


 だけどへラルとリンドウなら互いに気配とか読めそうだし、戦力を分散させずにリチアが先導し続けた方が良い。



 僕には防御力が無い。その為このままじゃ確実に足手まといになってしまう。



「シュウ、リチア! 僕はへラルとリンドウを探してくるよ! へラルなら平気だ! 僕の言う事には従ってくれる。だから、皆は皆を守って!」



「……くっ、すまない。そっちは任せた」


「へラルちゃん、天汰をよろしくね」




「オラァッ!! 早く行け! 密度が高くなってきてる!」


「はい!」



 立ち塞がるモンスターをすれ違いざまに叩き斬り、中央広場を駆け抜けていく。




 数値は目に入らなかったが、今の力だと既に100万は余裕だろう。


 ただ、これで肝心の女神を倒せるかは分からないけど。



「はあ……剣術の方でもなんか技とか習えばよかったな……」


「……」



 ま、後悔してもしょうがない。






 * * *



「ぜんっぜんいねーじゃん……リンドウ様……ぜぇぜぇ」


「……あ、見つけた」



 額から垂れる汗を拭い、顔を上げて現実を見つめる。


 倒壊した住宅に、小さな身体を包み込む血溜まりが3つ。そして未知の生命と戦うリンドウ様の姿が見えた。



 リンドウ様も肩から血を流し、止血しながら紫の光に包まれて見える。



「強いね……ボクのソイルで縛られてるはずなのにそこまで動かれると……嫌だなあ」


「リンドウ様! 僕達も手伝います!」



 目視で全長約30mもある怪物である未知の生命体は十を超える目を持ち、身体はスライム状に溶けていてどんな攻撃を仕掛けてくるか読めない。



 しかし、それでも今の僕に武器は高速火炎球しかない。



 右手を突き出し構える。

 いつもよりも魔力を多目に放出して打ち込んでやる。



「105%【火炎球】ッッ!!」



 ズドンと砲弾のような空を切る音が響き渡り、目の前の怪物の胴体を貫いた。


 なんだ、意外と簡単に……いや、違う。

 ダメージが無い。数値が見えない!?



「まずっ──」



 まるで意思を持っているかのように、飛び散ったスライムの破片が僕の顔目掛けて飛びかかってきた。





「天汰に触れようとするな」



 ピッ、と軽い音を立てて粘液はかき消された。



「油断しちゃ駄目だからなー。女神未満の魔物だからって」


「ご、ごめん」



 怒り気味のへラルが手で粘液を弾き飛ばしてくれたのか。



 なんか、いつもと雰囲気が違うような。




「王子、コイツはワタシがブッ殺すから心配すんなよー」


「ふっ……任せたよ……」



「ビァッ……!」



 対するスライムは口からビチャビチャと体液を吐き出し、へラルに照準を向けたようだった。



 恐らくコイツに魔法は通らない。というか、物理以外を無効化しているように思える。



 リンドウ様もルースの酒場では誤魔化していたが、特殊な武器を使っているし毒攻撃が物理に該当されるのかも怪しい。


 火炎球が通らなかったのも魔法だったからだ。そうなると今いる3人の中じゃ物理攻撃に長けているのはへラルしかいない。



 早速、全滅の危機にある訳だがへラルが戦う姿も意外と珍しく感じる。大抵のことはシュウかリチアが対応していたし、本人はふざけてただけだし。



「相性が悪過ぎたね、おたがい」


「【黒薔薇クロバラ】」


「っおい、へラル粘液がッ!」


「──大丈夫、もう死んでる」


「え」



 自分の頬についた粘液を指で触れてみる。ドロッとしているだけで全くの無害な塊でしかなかった。



 そしてあんなにも大きく、リンドウ様を圧倒していた怪物は、地面に根を張る一輪のどす黒い薔薇を咲かせていた。



「流石悪魔だ……ボクでも目で追いきれなかった」


「……女神が何処にいるか教えて?」


「ボクにははっきり聞こえてきたよ。何処に女神が出現したかもね」


「──ただ、一つだけ条件を呑んでほしい」



 二人の会話が頭にスッキリと入って来ないのは、きっとまだへラルが使った技に理解が出来てないからだろう。



 この技は、はっきり言って最悪だ。趣味が悪すぎる。

 いくつかの目玉がバラの花弁の透き目に詰まっていて、スライムの身体から水分を抜き取って呼吸をする様子からバラが自我を持っているようにも見えていた。



「この化け物に……トドメを刺してくれよ」


「まだ……呼吸をする音が聞こえる」




 何より害悪なのが、花の全ての部位から数値がはみ出ていた事だ。


 100000008桁の数字が心拍数のように何度も刻まれていくのは不気味で、異様だった。




「……分かった。解除する。……これでよし」



 へラルが渋々とした感じで言葉を洩らしたのに合わせて黒い花びらが舞い、瞬きする間に黒薔薇は枯れきってしまった。




「ありがとう。いいか、聞き逃さないで。マアイトワノ森から微かに異変が起こっている。国からは女神の声なんて存在しなかった! そこしか考えられない」


「なるほどー。確かに有り得る。天汰、急いでナントカ森に向かおう」




「あと……最後に頼むたい。リチアを……妹を任せるよ、天汰」




「王子様が遺言みたいなの残しちゃうんですか? ワタシ達の責任重大だなぁ〜」





「そんな心配は要らない……。ボクが死ぬのはこの国が滅ぶときさ……」





 リンドウ様はいつだってそうだ。強力過ぎるギフトを持っているからいつもこんな苦労し続けている。



 きっとリンドウ様は、この国から一生出られないであろう。



 リンドウ様は誰よりも優れていて、最強であるからこそ誰よりも縛られていて孤独なんだから。





「そんな時はまた会いましょう。そしてまた笑って、自分の好きな人の話をしましょう。リンドウ様」




 自分の命すら失いかねない危険な状況でも、こんな弱気な王子を前にしては



 あなたも家族なんだと。

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