第14話 戦闘開始

 あれから結局、福源の石の行方も分からず二人からもリンドウ様が知っていた以上の情報を得られなかった。



 ひとまず、テュポーンズは女神襲撃に備える為にリンドウ様とは分かれて行動することにした。





「日も落ちてしまったな」


「そうだね……」



 リチアとシュウが揃って腕を組んで、天井を見上げている。そんな二人を、僕はただ床に尻をつき見上げることしか出来なかった。



「なぁ〜天汰〜あと1時間で始まっちゃうし散歩でもいーから外で遊ぼーよー」


「へラル……緊張感ないな、悪魔だからか? 僕達は死ぬかもしれないんだ、だから集中させてくれ」


「だーかーらー! ワタシがいるから天汰は死なないって〜」


「……ごめんねへラルちゃん。ちょっと天汰と話したいから天汰は私が連れていくね?」


「……どこ見てんのこの人」



 ……ああ、姉ちゃん……というかプレイヤーからはへラルの存在を視認できないんだったな。



「分かった。皆はちょっと待っててください。へラルも」



 そうして宿屋を出て人気の無さそうな場所まで歩き続けた。


 外は真っ暗で前日までとは違う緊迫感が国全体を覆っている。僕と姉ちゃんも例外ではない。



「あと50分で始まる……」


「うん……姉ちゃん、話って」


「あの……私は天汰達が戦う必要は無いと思うの」


「え?」



 夜風が吹いて、辺り一帯の気温を奪っていく。



「だって……戦ったら死んじゃうから」


「ぼ、僕は死なないよ! だってへラルが……」


「私には見えない。見えないんだよその子は。なんで、信じられると思うの……?」



 姉ちゃんの身体は静止しているが遠くからか細い泣き声が聞こえてくる。



「天汰……帰ってきてよ……私が何もしてこなかったから……」


「ちがうよ……違うんだよ。姉ちゃんは何も悪くないから」



 僕は姉ちゃんが泣いている姿なんて見たくないよ。



 だから僕はシュウを抱きしめた。姉ちゃんには伝わらないかもだけど、シュウの身体はとても冷たかった。



「……これしか出来なくてごめん」


「………………気持ちの整理がついたよ、ありがとう。天汰」


「私は天汰を信じて戦うよ。天汰だけでも……私が……守る」



 ギュッと身体を抱きしめ返された。


 初めて抱きしめられたかも。



 不思議な感覚だ。この身体に魂は無いのに、お互いが触れ合っているわけじゃないのに何だか温かい。



「……天汰。温かいね」


「うん……。お姉ちゃんもなんだ……良かった」



 絶対に生きて姉ちゃんの元に帰る。僕は改めてそう誓った。



「で……どうしよっか。天汰は何か考えてある?」


「それなんだけど、女神襲撃って今までもあったんだよね? 今回の女神が誰なのかとか知ってる?」


「あーそれがね、始まってからじゃないと分からないんだよ」



「そっか」



 せめて神様の名前ぐらい分かっていれば、姉ちゃんに調べてもらって対策方法とか考えることも出来たのにな。



「……もしさ、僕等にしかその神様が倒せないとしたら、姉ちゃんは戦う?」


「当たり前でしょ! 私はリチア達がいる国も、天汰も、ツバキ達も皆を守れるなら全力で戦う!」


「……僕も! だって皆家族だから」


「そうだね。……だからね」



 そう言うと姉ちゃんはより強く僕を抱きしめた。



 空は異世界に居ても綺麗に見えた。星々が鮮明に写り、どこか不安になる暗闇も、ただ僕は生きていると思いなおした。


 そういえばへラルと初めて出会った場所もこういう感じだったな。




 僕はへラルを……信じたい。








 * * *


「あと、5分」



 リチアの告げた言葉に僕達一同は思わず息を呑む。


 とうとうはじまる。女神襲撃が。



 もう誰も喋らない。既に街では武器を構えて襲撃に備えるプレイヤーもぼちぼち増えだした。



「……なぁあれここの王女じゃね?」


「たしかに。戦うのかな」



 ヒソヒソ声で喋ってるつもりだろうが、僕には聞こえてるからな?



「……ああ怖えな」



 珍しくダイアさんが弱音を吐いた。それに対して返答が無いのも、全員が共通して思っているからだろう。



「……リチア。女神襲撃って……どう、くるの?」


「魔物が増加したり、地形が変形すると聞いた。ルドベキアに来るのは2度目だが、前回は女神に襲われたんだ」



 なるほど、それは厄介だ。ただ、結局女神を倒さないといけないなら、前回同様にすぐ現れてほしいのだが。



「アレ、なんすか──」


「──危なイッ!」



 ツバキの脳天を貫かんとした槍を、寸前でリチアの剣が弾いた。


 不意に起こった戦闘は予想済みだ。今までの僕とは違う。



 腰に携えた剣を握り、片手はいつでも魔法を撃てるように構える。



「魔物パターンかッ……!」


「来るぞ!」



 ……嘘だろ。


 このゲームを体験してきた僕からすると、この空に見える魔物の数は星の数より多い。



 目の前の1匹の魔物を速攻でリチアが叩き斬ったが、一安心する間すら残されていなかった。



「【火炎球】ッ!」

「【NO.2 終撃シュウゲキ】」

「【散る生命フォール・イグジスト】」




 2000000200万250000002500万350003万5000

 それぞれの威力で夜空に攻撃を仕掛けたが、一層目の膜が剥がされただけで、天体は観測出来ない。



「【】」



 ツバキの技。これは、毒を全体に撒き散らす技だ。それをツバキは空に向けて放った。



「仕返しッス!」


「……やるしかないか。女神本体に撃ちたかったが……皆、私から離れてくれ!」



 リチアは剣を平行に構え目を瞑った。すぐさまリチアから僕達は距離を取る。


 僕はリチアの技は二つしか知らない。まだ誰にも見せていない秘技があるのか?




「──はぁっ、天日テンジツ極楽鳥花ゴクラクチョウカァッ」




 地面に紋様が大きく描かれ金色の光が彼女を包み、風が唐突に吹き荒れる。


 王女は右足左足を交互に一歩踏み込み、左足を軸に時計回りに一回転し空に斬撃を飛ばした。



「──ァ」



 不死鳥の如く極大な翼を羽ばたかせ、何重にもなっている魔物の壁を貫いてみせた。



400000004000万!?」



 微かに見えた数字に、僕は思わず驚きの声を上げてしまった。



「まだだ! 私達の頭上の奴等以外は着陸してしまった!」



 そう、貫いてみせたのは確かだが、余りにもこの国は広すぎた。



 国中から人々の悲鳴や蠢く声が聞こえてくる。恐怖がプレイヤーすらも呑み込んでいく。



「行くぞ、私について来い!」


「天汰、行こう!」


だ」

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