第13話 囚われている
「君に誰も殺させないから、とりあえず付いてきて」
「あ、はい……」
ただ右腕に掴まれ、ほぼ強引に引き摺られるように街へと向かった。
僕以外は皆捕まって動けなくなってしまったが、ひとまずはリンドウ様に付いていくのが得策だろう。
僕達は、マアイトワノ森を抜けて草原が続く、ゲームではよくフィールドと呼ばれる空間へ飛び出した。
「……魔物の声すら聞こえないね。ちょっと疲れるけどやるしかないか。君は僕の腕とか掴んでおいて。あと……名前はなんて言うんだっけ? まだ聞いてないよね?」
「天汰です。あと、分かりました」
さっきとは反対に僕がリンドウ様の腕にしがみつき、何かに備える。大方、魔法だろうし衝撃で身体を女神襲撃前日に痛めるなんて危険すぎるしね。
「しっかり掴んで。いくぞ変異・飛龍!」
「え、うわうわうわ!! 腕ってどこを掴めば!? てか言ってくださいよ先にぃぃぃぃ!!!!」
僕が言い切る前に、龍に姿を変えたリンドウ様は飛び立つ。白く染まったこの龍がダンジョンで見た龍と比べて格段に強い事は、筋肉隆々である彼の背に乗っかってすぐに分かった。
そしてさっきの森全貌を見下ろせるくらいの高度を僕達は飛んでいた。リンドウ様からしたら緊急事態で周囲なんて気にもしていないだろうがこうやって見ると心が落ち着くというか、なんというか。
僕がなんとなくで想像していた世界の広さは本当に適当で、ルドベキアという土地がどれだけ巨大で大切な都市なのかを思い知らされた気がした。
やがて、ルドベキアの上空に辿り着く。絶賛直下する陽射しをこれでもかとくらいたじろぐ僕とは対称的に、頻繁に龍は首を揺らした。
「……見つけた。突っ込むよ、しっかり掴んで身体ごともたれて」
リンドウ様が向いた方法をじっと凝視して、ようやく見えた。あれは……ルースさんの酒場だ。僕にとって、テュポーンズが結成しジュマと遭遇した大切な場所。
あれ、あそこって確かルースさんの結界魔法か何かで魔法は使えない筈だ。
どこかでまた不安を抱えて急落下する身体の震えを安定感のある背部に任せ、落ち着かせる。
「っっ!」
「何だこのドラゴン!? しかも変な子供まで……今日は事件ばっか起こるな」
「事件! 民衆の者達はここから離れてほしい」
「え……リンドウ様ですか!? す、すみません、ただ! 中にはまだ仲間達がいる、プレイヤーに占拠されちまって手が出せねえんだ……」
おっさんが嘆く。それにリンドウ様は応えるように次第に元の人間の姿へ戻る。やっぱり感覚が麻痺してきているな、僕。
「あっちの人間が8人、ルドベキアの民が4人にその内の一人がルースさんか……しかも負傷しているな」
「す、すごい何故そこまで分かったのですか!?」
「国の為に動いているから全て知っているからですよ。天汰、君はここで待っていて」
「……了解です」
国民のほとんどが彼の能力も代償も知らない。きっと彼がこの国でそんなに姿を見せてないからとかじゃないってのは分かる。むしろ、この国にとって存在が必須であるからなんじゃないか。
ただただ頼れる王子で居続けている。
「その……リンドウ様。結界魔法は残っていますのでお気を付けください。魔法は使えないです……」
「うん、大丈夫だよ。今日は武装しているから」
王子は民に向かってニッコリと微笑み、懐をまさぐって風車型の武器っぽい物を出して自分の足下に放り投げた。
すると、理屈は最早不明だが酒場内が透けて見えるようになった。リンドウ様が言ったとおりに中には12人おり、一人壁にもたれて肩を抑える知っている女性がいた。
酒場を切り盛りするルースさんは怪訝な目をプレイヤー達に向けていた。
立て篭もりプレイヤーは男女や年齢も関係無く見える。偶然居合わせた奴等が暴れた……とは考えにくいので狙ってきたのだろう。
「プレイヤーなら……懲らしめないと」
リンドウ様は透けた酒場の壁に飛び込み店内へと侵入した。
いくら強いリンドウ様といえど、この数を相手するのは難しいか。出来る範囲で僕も援護しないと。
「へへ……きたなぁ大ボスがよ」
「こいつ倒したら経験値すげえ貰えるんだろ? やってやるぜ」
「おいおいとどめ刺すなよ、一回は全員に刺すって約束だろーが」
「……揃いもそろってレベルの低い子しかいないじゃないか」
「おいリンドウ。それ以上は近付くなよ? 人質……見えてんだろ?」
「王子様、私達なら無事です。こ、この人達を追い返すためなら、犠牲になっても」
一人の従業員が震え声で喋り始めたが、リンドウ様は戸惑う表情すら見せなかった。
「大丈夫さ。ボクが君達を縛ったからね」
「は……動けねぇ……何だ……これ」
「この国の王子ならこれくらい出来るさ」
僕の足元に残ったあの風車が紫に輝いている。これの効果が発動しているのか。
いやっ魔法は使えないんじゃ……!?
これ魔法とか関係無い……?
「流石リンドウ王子だあ!! ルースさん達は俺達が手当てするぜ!」
あっという間にルースさんたち従業員は全員救い出され医療施設に向かってどこかに消えていってしまった。
残ったのは僕とリンドウ様、そしてプレイヤー達。
「おい離せよっ! くっそぉ……なんでNPCのくせに理不尽過ぎだろ……このクソゲー!」
「急にどうした? 今日は女神襲撃っていう最高なイベントがこれからくるじゃないか。なぜ今暴れた?」
「けっ、今朝からサーバーが不安定でバグりまくってるだろ! そんなんで女神襲撃なんかあってもメンテナンスでも起きて何もできねえよ。クソゲーだし」
やっぱり魔物が見えなかったのもバグの影響か。
となるとやっぱり昨日の空洞が気になるな……。
「そっか……じゃあそろそろ倒すね。リスポーンしてももう暴れないでね、今度はBANになっちゃうかもだからさ」
「なっ──!」
ドサドサと倒れていくプレイヤー。彼等の肌が青白くなり電池の切れたおもちゃみたいになっていた。
「天汰、これがボクの能力。毒だよ。毒なら苦しむ間も与えずに殺せる。こうすれば皆にも恐れられない、王様になれるかな」
「……」
暫く二人で酒場の見張りをしながらリンドウ様の部下からの結果を待ち、夕陽に変わった頃にその一報は届いた。
「え……『誰も福源の石を所持しておらず、宿屋も同様に捜索したが何一つそれらしき物が見つからなかった』って……どういうことだ」
「わざわざ僕の為に声にしてくれてありがとうございます」
「いやそれはいいんだ……」
石が無かった……? リンドウ様はジュマとアレゼルの会話を耳にしているんだよな。
少なくともアレゼルさんの声は僕も直接聞いていた。だから全てが嘘って訳でも無いだろうし……。
「体内……調べました?」
「それも今話していた。やはりそこまでしたとしても誰も持っていなかったみたいだね」
「……」
長考が続くがお互いに謎が解けずにやがて手当てを終えたルース達が戻ってきた。
「王子様と天汰君、さっきは助かりました」
「僕は何もしてないです」
「いや、天汰が居たから外を任せられたんだよ、ありがとう」
「……ルースさん。今晩は女神襲撃です、備えておく為にもボクは店を閉めた方がいいと思ってますよ」
「いえ……店内は安全ですから、夜の拠点として活用してもらいたいので、今晩は開けておきます。気遣いはありがたく受け取っておきますね。ふふ」
そう言って彼女は笑ってみせた。包帯で包まれた右手を抑えながら気丈に振る舞う彼女の衣服は所々血が付着している。
「服を変えてきますから覗きにはこないでくださいね、ふふっ」
「む! 安心してくださいこのモモがSPしますから!」
「あはは可愛いねえモモちゃん」
一人の従業員の少女と談笑しながら酒場の中に消え、他の従業員達は僕達に頭を下げて酒場に戻っていった。
そうしてまた僕とリンドウ様だけになり、またまた複数の足音がこちらに向かってきていた。
「リィンドウ!! なんなんださっきのは! 私を騙したな!?」
「う……ごめん。全てはリチアの為にやったんだよぉ〜」
こっちが平常っぽいな。
あんなにクールだったのが信じられなくなりそうだ。
「天汰、大丈夫だった? 変な事とかされてない? お姉ちゃん心配だよ」
「姉ちゃん……! そっちこそ嫌な想いしてない? 姉ちゃんはゲーム感覚かもしれないけどセクハラとかされてない? 僕からしたら姉ちゃんしかいないんだからね!?」
「なんだこのバカシスコン共」
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