第16話 入口

「見つけた……リンドウとは会えたか?」


「うん、断定は出来ないけどナンチャラの森に行けば戦えるかもしれない!」


「なんて言うんだっけ……?」



 リンドウ様と別れる直前、リンドウ様はまだやる事がある、と落とした武器を拾い直して声のする方へ向かって走り去っていった。










 * * *


「リンドウ様、全然体力残ってたのか……」


「……ねぇ、天汰。アレ、どうしよう」



 へラルが指差したのは全身を血に包まれた三人の身体だった。


 どうみても呼吸はしていない。ただ、まだ温かみは残っているように見えた。



 血溜まりに近付いて、二人で彼等の腕とか身体に触れてみた。



「……どう? 脈も試してみたけど、ちょっと分からないや」


「出来なくはないかな。蘇生」


「蘇生!? そんな事出来るのか!? てか、この人達は死ん……」


「──ほらもう戻った」



 その場にあった血溜まりが逆再生みたいに体内に戻っていく。


 あんな苦痛に怯えた顔をしていたのに、眠っていると錯覚してしまうくらいに穏やかだった。



「あー親子かぁ……よっと。で、天汰どうするー? 放置でもいー?」



「おい何してんだお前ら!」


「あ、あの時酒場で暴れてた奴ら!」


「げっ、お前リンドウのヤローと一緒にいた奴か……」



 対峙している8人ともルースの酒場で暴れた奴らで、一番出会いたくなかった集団だ。


 ここで争う時間なんて無いんだがどうしようか。

 へラルもある程度事情は察してくれてるだろう。



「……倒れてるのは誰だ?」


「……一般人だよ。ここの住民」


「……HPも減ってないし、怪我もない。何かあったのか?」



 もしかしたら、この八人ならどうにかなるかもしれない。



「任せろよ。オレらがこいつら避難させてやるよ」


「え〜っ! なんでそんなことやんの!?」


「いいじゃねえか、護衛ミッションみたいで」


「た、たしかに……」



 リーダーっぽい奴が謎の善意を見せたおかげで仲間もそれに従い、三人をそれぞれで軽く持ち上げてはリンドウ様同様にどこか消えていった。


 僕としては酒場辺りに保護してもらいたかったが、あの8人は出禁になってそうな……まぁ、ルースさんなら許し……てもくれないだろうな。



「天汰、今回の女神はあなたが倒すんだから準備しておいて」


「僕が? 戦える武器だって少ないのに……」


「大丈夫、ワタシがいるし。本気でカンストを狙える」




「なんか秘策でもあるのか?」


「あるさ……ただ、時間がかかるから今は無理だけどね!」


「はあ……もう戻るぞ」

















 * * *


 現在僕達はマアイトワノ森を目指してルドベキアから出てこの足で向かっている。



「やっぱり外のほうが魔物が多い!」


「姉ちゃんバフ頼んだ!」


「わかった! はあああッ!」



 シュウは僕達に全ステータス上昇魔法をかけた。


 今まで使ってこなかった魔法だが、今日解禁したらしい。


 使わなかった理由も姉ちゃんに聞いてみたが、どうやら強過ぎるからとのこと。



「これなら速い! 急ぐぞ」


「近くに来た魔物は俺とツバキでどうにかする! 天汰達はとにかく走れ!」



 ツバキもダイアさんも強い。あの二人なら一人で魔物を余裕で狩れるんだ。ゼルちゃんも治癒魔法が使えるし、誰よりも機敏に動ける。



 へラルが女神襲撃で三人は死ぬと言っているが、僕にはそう思えなかった。



「はあはあ……着いたな。中に──ッ! これは……」



 この森の入り口に来てからすぐに観光客向けのエリアでは無くなっているのが分かった。


 ルドベキアから派遣された兵士達が何人も倒れ、木々や土に血痕が飛び散っている。


 それだけじゃなく、奥から感じた事がない脅威を感じる。

 それは勿論僕以外に全員が感じ取っているだろう。



「……ぅぅ」



 横にいるゼルちゃんが涙声で身体を震わせていた。


 そりゃそうだ、僕だって泣いて帰れるなら戻りたい。でも、ここまで来てしまったら……帰れないのだ。



「……えっ、天汰くん……?」



 ゼルちゃんの手を取り、強く握りしめた。



「大丈夫だよ。皆でやれることやれば、生きて帰れる。だから、頑張ろうね」



 僕の緊張は伝わらず、ゼルちゃんには覚悟だけを伝えたつもりだ。



「ありがとう、天汰くん」



 彼女は頬に涙を伝わせ、僕に笑顔を披露した。



 ……生き残ろう。




「──おやおや、肝試しじゃあないんだからさー、もっと真面目にやれよ」


「……ジュマ、何故ここに?」



 あの男が木の陰からでてきた。姉ちゃんを侮辱し、ゼルちゃんを脅して騙した悪人が現れてしまった。



「……貴様、剣を抜いて構えろ」


「分かった。構えておく」



 リチアに言われるがまま剣を抜き、構える。ジュマはその間何もせずただ黙って見つめてくるだけだった。



「時間だな」


「時間って……なんだ?」


「天汰ァそこまで頭が悪いとはな! 転移魔法だよ」



「──させるかッ!」



「おっと! リチア……天汰ァ! てめえらの剣は遅えんだよ」



 すぐに飛びかかったが僕とリチアの攻撃は空を切り、避けられてしまった。


 バフもかかっていて速度的に目で追いきれないはずだろ……?

 なのになんでコイツは避けられたんだ。



「オレの転移魔法は範囲が広くてなぁ、これは



「──それと、次にオレと戦う奴は誰になるんだろうなぁ?」

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