四章 第十話☆
*夜月視点です
夜月が生まれたのは、他の二紋様と同じく八百年ほど前。
夜月は、もともと京極家の人間が使っていた刀だった。
夜月の主は京極家の者で、導き手だった。
主の名を、
天夜は、他の京極家の人たちとは違う舞刀術を使っていた。
京極家に伝わっている舞刀術は土であり、力強さを特徴としていた。
だが、天夜は細身でそこまで力はなかった。
だからこそ、天夜は自分自身の舞刀術を生み出したのだ。
それが、「雷」の舞刀術だった。
天夜は、導き手たちの中でも抜きんでた才能の持ち主だった。
その実力を自慢するわけではないし、むしろ謙虚な人だった。
それに、彼は刀をとても大切にした。
だからこそ、夜月は天夜を気に入っていたし、誇らしく思っていた。
そんな天夜は、付喪神との戦いで死んだ。
部下を付喪神の攻撃から守ったからだった。
夜月は、部下を恨んだ。
だがそれ以上に何もできなかった自分自身を恨んだ。
『道具』なのだから、何もできないのは仕方がない。
それでも、自分自身を恨んだ。
その恨みによって、刀は付喪神になった。
生まれたときから紋様のある付喪神に。
付喪神は天夜の名前と関連付けて、夜月と名乗るようになった。
また、扱う妖術も雷になった。
強くなければ何も守れない。
夜月はそう考え、ひたすらに修業を積んだ。
人里離れた山奥に引きこもり、刀を振るった。
夜月は、刀の付喪神だ。
誰よりも刀のことはわかっている。
しかし、剣術は分からなかった。
自分は使われる側だったからだ。
夜月は、天夜が戦っている姿を思い出し、真似るように刀を振り続けた。
紋様が二つになってからも、夜月は山に引きこもって修行していた。
夜月が山に引きこもって二百年ほど。
この山にも人間が来るようになり、付狩りと戦うことが増えた。
導き手と戦うこともあった。
だが、夜月はそれらすべてを返り討ちにした。
導き手は確かに強かったが、天夜ほどではなかった。
人間を襲い、付狩りと戦いながら時が流れた。
導き手たちによって、他の二紋様が殺されていくのが分かった。
夜月と同じく八百年生きている付喪神だ。
二紋様同士で面識もあり、親しいとは言えなくても寂しいものがあった。
そして、夜月は東雲家を襲撃した。
名家の家は、隠ぺいの高さから夜月であってもなかなか探すことはできなかった。
京極家の場所は知っていたが、天夜の実家であったことから襲撃はしなかった。
東雲家には、東雲家当主だけでなく、もう一人男がいた。
どちらも導き手だと分かった。
東雲家当主は最初震えていたが、男のほうが落ち着くように指示すると、すぐに震えを止めた。
そして、彼らは刀を交えた。
東雲家当主の言葉から、男の名が朱雀であると分かった。
夜月は、雷撃を放ちながら戦った。
東雲家当主から殺そうとするが、朱雀に邪魔されてしまう。
東雲家当主が意識を失うと、朱雀との一対一になった。
朱雀は天夜より強いのではないかと思えた。
朱雀と斬り合い、とどめを刺そうとするとそこに二人が来た。
どちらのやはり導き手だ。
一人は、京極天明と名乗った。
天明もまた強く、女のほうも侮れなかった。
失神まではさせられても、誰一人として殺すことはできていなかった。
再び朱雀と一対一の状況になる。
「お前のように強い奴が主の部下だったらな、、、」
夜月はつぶやいた。
「どういう意味だ?」
「なんでもない。主は死んでしまったのだからな。死んだ人間は戻らない」
「それが分かっていて、、、なぜ人間を襲う?」
「強くなければ何もできないからだ。弱い人間は生きている意味がない」
天夜が死んだのは、部下が弱かったから。
そのことから、弱い人間は生きてる意味がないと考えていた。
「そんなことはない。人間は支え合う生き物。すべての人間が強く、すべての人間が弱い。勝手に、、、決めつけるな」
朱雀はそれを真っ向から否定した。
夜月と朱雀は火花を散らして刀をぶつける。
そこへ、意識を失っていた天明たち三人が戻ってくる。
(斬っても斬っても立ち上がってくる。なぜ誰も死なない)
夜月は焦り始めてしまう。
だが、『妖術 紫雷』で四人を吹き飛ばす。
立ち上がったのは、朱雀だけだった。
しばらく朱雀と斬り合う。
そして、、、
死んだと思っていた天明に体を固定され、東雲家当主と女に両腕を斬られた。
再生する前に、如月に首を斬られてしまった。
(まだ、、、妖術 雷霆万鈞)
全方位に雷撃を放った。
薄れゆく意識の中で、夜月は思う。
(あいつらは強かった。悔いはない)
朱雀たちの姿に、かつての主を重ねる。
そのまま、夜月は消滅していった。
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