四章 第五話

如月は、伝手に運ばれて東雲家が管理する屋敷まで来た。

ここは、東雲と如月が話していた屋敷とは別の屋敷になる。

そこには、橘、そしてクロがいた。


「随分派手にやられたな」


橘が言った。

如月は包帯を巻かれながら答えた。


「あの付喪神は、今まで戦った中で、、、一番強い」

「西園寺を殺した奴よりもか」

「ああ」


その言葉に橘は驚いているようだったが、すぐに温かい顔を如月に向ける。


「京極と桔梗が遅ければ、お前は死んでいたな。お前が死なないでよかった」


クロもコクコクとうなずく。


「心配かけてすまなかった」


如月はクロの頭をなでながら言った。

クロは目を細める。


「それで、この後は?」


橘が聞いてくる。


「お前もわかっているだろ?戻るさ」

「やっぱりか。。。」


橘はハァ、とため息をつく。


「どうしても戻るんだな」

「ああ。あの付喪神は、二人で勝てる相手ではない」

「京極がいてもか」

「あの付喪神は次元が違う。俺ら四人でも倒せるかどうか」

「本当は戻ってほしくない。あの時も言ったが、私はお前に死んでほしくないんだ」


如月は黙ってしまう。

しかし橘は続けた。


「お前だけじゃない。ほかの人だって当然死んでほしくない。それでも、死んでしまう人はいる。私はそれを何人も見てきた。だから、せめて、一緒に育ったお前だけでも死なないでくれと思ってしまうんだ」


それが、橘の思いだった。

如月は昔のことを思い出す。



橘の言うとおり、如月と橘は一緒に育った。

いわゆる、幼馴染というやつだ。

百人一首や鬼事、かくれんぼなどをしていた。


そしてある時、如月たちが住んでいる村を付喪神が襲った。

その襲撃で両親は、如月を付喪神からかばい、死んでしまった。

当時の導き手が駆け付けたことで、付喪神は討伐された。

だが、如月は心に深い傷を負った。


しばらくはふさぎ込んでいた如月だが、その如月の心を溶かしたのは橘だった。


如月は、自分も付狩りになり付喪神を狩ることを決めた。

そして、如月は付狩りになり、橘も伝手になった。

橘も付狩りになりたかったのだが、悲しいことに刀術の才能がなかった。


道は違えど、二人の志は同じ。

誰かを守りたい。


この思いで、如月は導き手に、橘は伝手のトップになった。



「なあ、橘。あの時のことを覚えてるか?」


如月が橘に言った。


「あの時?」

「村を付喪神が襲った時だ」

「忘れるはずがない」

「俺は、あの時逃げることしかできなかった。だが、今は立ち向かえるだけの力がある」


橘は黙ってしまう。


「あの時から、『誰かを守りたい』という思いは変わらない」

「そうか。。。」


橘は俯いてしまう。


「私はもう何も言わない。ただ、これを飲んでいけ」


橘は、丸い丸薬を如月に渡した。


「これは?」

「痛み止めだ。ま、効き目はそこまでだから、気持ち和らぐくらいだがな」


如月はそれを飲む。


「あ、かなり苦い、、、って、もう遅いか」


如月は悶絶した。


「苦いってもんじゃないな」


如月は苦笑いする。


「それじゃ、行ってくる」

「死ぬなよ」


如月は屋敷を出ていこうとする。

その時、今まで黙っていたクロが、如月の袖を引っ張った。


「どうした?」

「ん」


クロは、持っていた金平糖を差し出す。


「くれるのか」

「ん」


如月は金平糖を食べると、笑顔で言った。


「ありがとう」


そして、今度こそ屋敷を出ていった。

そのままじっと入り口を見ているクロ。

そんなクロの頭に、橘がそっと手を置いた。


「信じて待とう。あいつを。いや、あいつらを」


こくり、とクロはうなずいた。

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