二章 第九話

無意識化では痛くなかった傷も、今はジンジンと痛む。

あのままずっと無意識下で戦い続けていれば、如月の身体が持たなかった。

水珠のもとへ向かった如月は、刀を振るった。


「舞刀術 百人一首」

「あら、元に戻ったわね」


水珠は両腕をすでに再生しており、難なく如月の攻撃を躱した。


「妖術 水龍乱舞」


もう一度水龍乱舞を発動させる。

そして、水の斬撃を放つ。


(この水の龍は、攻撃力こそないものの、囲まれたら厄介だ)


一度囲まれ、その脅威を身をもって知った如月は今度は同じことをしないように立ち回る。

水の斬撃を躱したり弾いたりして、龍の位置を把握し、囲まれないようにした。


如月の身体はすでに限界を超えていた。

それもそのはずであり、『舞刀術 隠れ鬼』を使い、さらに無意識下での戦闘で負った傷もあるのだ。

まだ動けているのが不思議なくらいだった。


水珠は、なかなかとどめを刺せないことにいら立っているようだった。

『妖術 雨乞い』で降らせた雨によって視界を遮り、足場も悪くしている。

『妖術 水龍乱舞』で如月の動きを制限している。

何度も殺せる機会はあったのだ。

それでも如月は死んでいなかった。


「なんであなたは死なないのよ」


如月は答えない。

いや、答えることができなかった。

それほどに消耗していた。


ただ、飛んでくる斬撃や龍を躱しているだけだった。


「ハァ、ハァ」


如月の視界がぼやけ始めた。


キンキンキンキン!!!!


何度も何度も刀と扇子がぶつかり合った。


「なぜそこまでして戦う?」


突然、水珠が問いかけてきた。

水の龍も消え去る。


「お前はもうボロボロで死んでしまいそうなのに、なぜ戦うの?」

「ハァ、ハァ、それは、、、俺が、、、導き手だからだ。ただ、、、それ以前に、、、誰かが悲しむのを、、、もう見たくない」

「今まで殺してきた導き手も、皆同じことを言っていたわ。人間ってのは、そうまでして守る価値があるのかしら?」

「ある」

「そう。。。あたしには分からないわ。人間は醜い生き物。私欲のために他人から物を奪う。あのだって、奪われた」

「確かにそういう一面もある、だが、人間は手を取り合い、お互い支えあって生きているのもまた事実だ」

「あの娘には、だれも手を差し伸べてはくれなかった。そんな人間は、いなくなればいいのよ」

「人の振り見て我が振り直せ。恨みを持つなとは言わない。だが、お前の言う"その子"は、誰かが傷つくのを良しとする人間なのか?」

「うるさい!妖術 水龍乱舞」


水珠は水の龍を作り出し、水の斬撃も放つ。


「舞刀術 隠れ鬼」


如月は、二回目の『舞刀術 隠れ鬼』を発動させる。

瞬時に水珠の視界から消え去った。


「またあの技。でも、そう長くは持たないはずよ」


水珠はとにかく斬撃を放ちまくった。

しかし、そのすべてが如月には当たらなかった。


「舞刀術 百人一首…」


首に刀が当たった瞬間、首を水に変えた。

刀が通り抜ける。

しかし、、、


「渡り手」

「嘘っ?二撃目?」


如月が放ったのは『舞刀術 百人一首 渡り手』である。

『舞刀術 百人一首』から派生させたものであり、二回連続で斬るというものだ。

刀の振り方によっては自身の周り全方位を斬ることができた。


「速く水にしないと」


水珠は首を水にしようとするが、一撃目の後に戻してしまったため、すぐに水に変えることができなかった。


(これで、、、斬れろ!!!)


如月は刀に力を込めた。

そして、、、




水珠の首が宙を舞った。

如月が勝ったのだ。


水珠の首が地面を転がる。


「負けた、、、このあたしが?」


水珠の身体が崩れ始める。

次第に雨も弱まっていく。


如月は警戒しながら水珠に近づいた。

その足取りは、ふらふらしている。

水珠の身体は、ほとんど消滅していた。


「生まれ変わったら、大切にしてくれた人のもとに行けるといいな」


如月はそうつぶやいた。

水珠に届いたかは分からない。


そのまま水珠は消滅していった。


人間を襲うことは許されることではない。

それに、付喪神が生まれ変わるのかはわからない。

それでも、『あの子』というだれかを思っていた付喪神だったからこそ、そう願わずにはいられなかった。


如月は水珠が消滅するのを見届けると、そのまま安心したのか、地面に倒れてしまった。

雨はもう止んでいた。

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