二章 第五話

如月は、水珠の方へ駆け出す。


「舞刀術 百人一首」


横一線の斬撃を繰り出すが、躱されてしまう。

水珠はそのまま地面を蹴り、家屋の屋根に飛び乗った。


「速いだけじゃあ、あたしには当たらない」


そう言って、屋根の上から水の斬撃を飛ばす。

如月はそれを弾き飛ばすと、水珠を負って屋根の上に飛び乗った。

水珠は斬撃を飛ばし続ける。

如月は躱しながら水珠に接近していった。

水珠もまた、如月との距離を詰めた。


キンキンキン!


如月の背後から、水珠の放った斬撃が戻ってくる。


(しまった。これは躱せない)


前には水珠がいて、逃げ道がなくなってしまった。

その時、ふと橘の言ったことを思い出した。

「お前に必要になるだろうと思ってな」


(火薬玉がある。あいつが言っていたのは、このことか)


橘の勘は、めったに当たらない。

が、今回は当たったのだ。


(ありがたく使わせてもらう)


如月は腰につけていた小さな袋から火薬玉を取り出し、刀で斬った。


ドン!!!


「なに?」


衝撃で建物が崩れ如月は落下するが、逃げ場のない状況からは脱出することができた。

桜通りではない路地。

そこに二人は立っていた。


「やってくれたわね。許さない!絶対に!」


水珠は全くの無傷だった。


「やはり通用しないか」

「当り前よ!でも、また使われると面倒だわ。妖術 雨乞あまごい」


水珠がそう言った途端、ポツポツと雨が降り始めた。

雨の勢いは次第に強くなっていく。


「天候も操れるのか」

「曇っていたからすぐ降ってきたわね。これで火薬は使えない」


水珠の言うとおりだった。

橘自身も、雨では使えないと言っていた。

如月は、対策を一つつぶされたことになる。


(必要になると言っていたが、一回しか使えないとはな)


如月は水珠との距離を詰めて、刀を振るう。

先ほどのように、斬撃に囲まれないように上手く戦っていた。


水珠の方も、如月の刀をさばきながら、水の斬撃を放っていた。


キンキンキン!!!

バシャバシャバシャ


「舞刀術 鬼事」


如月は水の斬撃をはじきながら水珠に接近する。


「あなた、技の数が少ないわね。見たことのない舞刀術で、かなり速いけれど、意味はないわ」

「それはどうだろうな」


如月は水珠にほぼ直線上に向かっていっていたのを、大きく蛇行するようにして水珠の周りを囲うような動きに切り替えた。

そして、水珠の両腕を斬り落とす。


「俺の舞刀術は『遊び』。どんな状況でもどんな形でも放てる。それこそ、奇想天外にな」


確かに水珠の言ったように如月の舞刀術は技が少ない。

しかし、それ故に一つ一つの技の精度が高く、今みたいに臨機応変に変えることができる。


「そうみたいね。もう油断はしない」


水珠は腕を再生しながら言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る