二章 第三話

如月が橘と会ってさらに四日後。

如月が桜華に泊まり始めてから一週間がたった日だった。


ここまで、付喪神の情報は何も得られていなかった。

付喪神の気配すらも全く探知できない。


(もうこの街には付喪神はいないということか?もしくは、鏡の付喪神のように結界型の妖術の閉じこもっているのか?)


如月はそう思い始めていた。

そして、如月はその付喪神と出会ったのだ。



その日は、正体不明の付喪神に襲われた時と同じように曇っており、今にも雨が降りそうな天気だった。

風も強く、桜の花びらが舞い散る。

如月の髪もたなびいていた。


如月は桜通りを歩いている時に、その付喪神とすれ違った。

もう遅い時間であり、出歩いている人は如月達以外にいなかった。


「舞刀術 百人一首」


すれ違いざまに抜刀し技を放つが、躱されてしまった。


「あら、ずいぶん速い剣技ねぇ」


如月は驚愕していた。


(すれ違うまで、付喪神だということに気が付かなかった。なんて上手い気配の隠し方。それにあの反応速度。こいつはほかの付喪神とは違う)


今まで出会ったどの付喪神よりも重い威圧感がある。

如月は呼吸を整えることで自分自身を落ち着かせる。


また、この付喪神には紋様が二つあった。

額の右側に扇だろうか?

そして、左頬には流水紋のような紋様があった。


如月は、今まで紋様が二つある付喪神など見たことがなかった。

どの付喪神も、紋様は一つだけだった。

紋様はその付喪神自身を表す。

扇がこの付喪神だとして、流水紋は何なのか。

如月は混乱していた。


「あなたのその感じ、導き手ね。さっきの斬撃もよかったし、あたしの威圧のも動じていない」

「お前に褒められてもうれしくないが、そういうお前は、八百年近く生きているな」

「だから何よ。そんなことはどうでもいいじゃない。あなたはこれから死ぬんだから」


ニヤッと笑い、すさまじい殺気を放つ。

手にはいつの間に取り出したのか、扇子が握られていた。

気を強く持たなければ、震えてしまいそうだった。


「なぜ紋様が二つある?お前、何者だ?」

「あら、知らないの?付狩りも随分無知なのね。まあいいわ。死ぬ前に教えてあげる。紋様が二つあるのはあたしが特別で強いから。あたしは『二紋様にもんよう』の一人、水珠みたまよ」


(『二紋様』?)



如月は、いや、付狩りは、二紋様について何も情報がなかった。

紋様が二つある付喪神を『二紋様にもんよう』というのだが、そもそも二紋様と出会うことが少ない。

そして、二紋様と戦って生き残ったものが誰もいないため、付狩りに何も伝わっていなかった。



しかし、考えている暇もなく水珠は扇子を振るい、水の斬撃を放った。

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