二章 第二話

玄武に指示を出した如月は、宿の一室にいた。

ここは伝手が管理する屋敷であり、表向きは宿として経営しているのだった。

桜華のような大きな街には伝手が管理する屋敷があり、付狩りの活動を支えているのだ。


部屋の中で如月は、今後の行動を考えていた。

雨が降っていたとはいえ、攻撃されるまで気が付かなかった付喪神の存在。

まずは、その付喪神を見つけるのが優先だった。

如月は警戒しながら眠りについた。



鳥のさえずりとともに目を覚ます。

周りはすでに明るくなっており、昨夜の雨が嘘のように晴れていた。


桜通さくらどおり』と呼ばれる大きな街道を、如月は歩いた。

この通りの両脇に、桜並木があった。

満開だろうか。

その眺めは、まさに圧巻であった。


付喪神の気配を探りながら、如月は団子を食べた。

団子は如月の好物である。


(付喪神がいつ現れるか分からない。たいていは夜に活動しているが、昼でも活動する奴もいる。警戒を怠ってはいけない)


団子を食べながらそんなことを考えるが、結局付喪神は現れなかった。



如月が桜華にとどまってから三日後。

宿に帰ると、部屋に先客がいた。


「お前が来るなんて珍しいな」


部屋にいたのは、一人の女性。

名前を、橘輝夜たちばなかぐやという。

如月よりも一つ年上であり、伝手の中で一番偉い人でもある。


手には団子を持っており、もぐもぐ食べていた。


「ここの団子は美味いな」

「なんだ。。。雑談するためにきたのか」

「まったく、、つれないな」

「それで?何の用だ?」

「お前にこれを渡そうと思ってな」


そう言って橘は何かを渡してきた。


「これは、、、火薬玉か」

「お前に必要になるだろうと思ってな」

「それは、、、」

「私の勘だ。だから、根拠はない」

「随分はっきり言うな」

「事実だからな。だが、きっと使うことになる」

「そうか。よく分からないが、貰っておく」


如月は火薬玉を受け取った。


「多少濡れていても使えるが、雨とかだと使えないから、気を付けてくれ。それでは、さらばだ」


ヒュン!と橘は消えた。


「前会った時より速くなったか」


そうつぶやいた時、ヒュンと橘が戻ってきた。


「落ち着いたらまた飲みに行こう。またな」


そう言って今度こそ去っていった。


(それを言うために戻ってきたのか)


「それにしても、『またな』か。死ねない理由ができたな」


如月は笑ってつぶやいた。


付狩りは、付喪神と戦うため『死』というものがつきものだ。

次もまた会えるという保証はなく、一期一会ということもあり得る。


それ故に、如月は橘の「またな」がうれしく思えた。

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