一章 第十話

万華を倒した如月は、救護屋敷にいた。

救護屋敷とは、文字通り怪我した人たちを治療する場所である。

如月は拒否したのだが、おとなしく手当てされてくださいと、『伝手つて』の人に無理やり連れてこられたのだ。



『伝手』というのは、『付狩り』の裏方部隊であり、情報収集から救護、めったにないが戦闘の援助まで何でもこなす集団である。

それ故に、彼らにお世話になる剣士も多いのだ。



(これくらいの傷、大したことないんだがな)


如月は手当てされながら、苦笑いしていた。

それを見た伝手の人がビクッとなっていたが、如月は気が付かなかった。


如月が救護屋敷を出ると、そこには桔梗光里がいた。


「珍しいですね、如月さん」


にやにやした顔でそう言ってくる。

面倒なやつに見つかった、という顔で無視をし、歩き始める。


「強かったんですか、その付喪神」


桔梗は無視されたことを気にしていないかのように言った。


「ああ、強かった」


如月は言い切った。


「如月さんがそこまで言うなんて。。。」


桔梗は驚いていた。


「与えた傷が全て俺に返ってくるし、俺の複製を生み出したんだからな。それに、俺の探知をすり抜けるだけの妖術を持っていた」

「それは、、、厄介な能力ですね」


桔梗はそれを想像したのか、身震いした。


「自分と戦うのはもうやりたくないな」


今でも思い出せる、自分自身を斬った感触。

如月は苦笑した。


二人は、しばらく無言で歩いていた。

歩きながら如月は、万華との戦闘を思い出していた。


自分を認めてほしいがゆえに人間を襲っていた付喪神。

彼女は生まれてから百年近く、ずっと孤独だったのだろう。

誰からも自分を認めてもらえない悲しさ。


人間を襲ったことは、決して許されることではない。

しかし、如月は彼女の気持ちが少しわかる気がした。


だからこそ、彼女が消えるときに言葉をかけたのだ。

普段は、消滅するのを見届けるだけなのに。


「孤独というのは、悲しいな」


如月はつぶやいた。

如月はかつて、ふさぎ込んでいた時があった。

それでも、寄り添ってくれる人がいた。


「急にどうしたんですか、如月さん」

「いや、話していた付喪神のことを思い出したら、少し、、、な」

「如月さんは孤独じゃないですよ。私たちがいるじゃないですか」


その言葉に、如月はほほ笑む。


「そうだな」


『付狩り』の任務は、導き手になると基本は一人で行う。

だが、こうしてお互いを認め合っている仲間がいる。

如月は、孤独じゃないことを再認識した。


(彼女も、生まれ変わったら自分を認めてくれる人に出会えるだろうか)


如月はどこまでも澄んだ青空を見上げた。





*これにて、一章完結です

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