一章 第三話☆

これは、如月が到着する前。

日が落ち、暗くなっているころ。

すでに二人の剣士が山で戦闘を開始していた。

この二人は、『付狩り』の先輩・後輩にあたる。

これは、先輩目線の話だ。


キンキン!


「ハァ、ハァ、すみません。僕が弱いばっかりに」

「ハァ、気にするな。それより今は、目の前の付喪神に集中しろ」

「はいっ」


(それにしても、この付喪神、紋様持ちか。雪が積もっていて足場も悪い。俺とこいつの二人だけで倒せるかどうか)



『紋様持ち』というのは、顔に紋様を持った付喪神のことであり、紋様が現れることでより強くなるとされている。

一般剣士が数人でようやく討伐ができるほどの強さである。



(導き手は、紋様持ちを何体も倒していると聞く。どんだけ強いんだ)


先輩は、何とか首を斬ろうと刀を振るうが、逆に攻撃を受けてしまう。

二人とも血だらけであり、後輩のほうは立っているのもやっとな状態だった。


「弱すぎるな」


容赦なく斬りかかる付喪神。

この付喪神の名を辻切つじきりといい、鎌の付喪神である。


「弱いくせに、めんどくせぇ。何人いようと、俺を殺すのは無理なんだよ。妖術 鎌鼬かまいたち


辻切は鎌を振るい、全方位に風の斬撃を放った。

木々を切り倒し、風の斬撃が襲い掛かってきた。

先輩の方はうまく受けきったが、それでも吹き飛ばされてしまう。


「くっ」


(こいつ、妖術も使うのか。それに、吹き飛ばされたあいつも心配だ)



妖術とは付喪神が使う異能のことで、辻切のように風の斬撃を飛ばすなど、さまざまなことができる。

たいていは紋様持ちが妖術を使うのだが、例外もいる。



「なんだ。仕留めきれなかったのか」


一瞬で先輩の前に現れる辻切。

辻切は鎌を振るった。


「くっ」


何とか立ち上がり、回避する先輩。


「ほぉ、その傷でまだ動けるのか。いいぜ、もっと楽しませろよ」


そう言って、辻切は鎌を振るう。

キンキンキン!

先輩の右目が斬られた。


ドカッ

剣士の腹に蹴りを入れる辻切。


「ガ八ッ」


血を吐きながら吹き飛ぶ。

木にぶつかったところで、ようやく止まった。


右目を失い、相当出血をしている中でも先輩は何ができるか考えていた。


(左目しか見えていない状況で、こいつの首を落とすのは不可能。ならば、俺にできるのはほかの剣士が来るまでの時間稼ぎだ)


そう考えた先輩は、付喪神に背を向けて走り出した。


「ハハハハハハ、今度は逃走か。面白いな」


走る先輩に『鎌鼬』を放つ。

足にかすり、崩れ落ちる先輩。それでも先輩は走り続けた。


「もう飽きた。いい加減、死ね」


一瞬で先輩に追いつき、鎌を振るう辻切。

先輩は何とか刀で受け止めた。


「くっ」


鎌に押される刀。

もう少しで鎌が届くというとき。


「舞刀術 百人一首」


辻切の両腕が宙を舞った。

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